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インタビュー

意外と知らなかった骨の真実

意外と知らなかった骨の真実
森 正樹 先生

牧整形外科病院 脊椎外科部長

森 正樹 先生

目次
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私たちの体をいつも支えている骨。だからこそ、骨を強く保つことは大切だと分かっていても、実際にどんな骨が“強い骨”なのか、知っている人は少ないのではないでしょうか。そこで今回は、骨の強さの維持に欠かせない新陳代謝の仕組みとともに、骨の強さを決める要素や、骨が弱くなる原因や弊害について、牧ヘルスケアグループ 牧整形外科病院の脊椎外科部長/骨粗しょう症外来担当の森 正樹(もり まさき)先生に解説いただきました。

一般的に“骨”というとカルシウムのイメージが強いですが、骨の成分はカルシウムだけではありません。骨は主に2つの成分で構成されています。1つは、カルシウムやリンを主体とした“ミネラル成分”、もう1つはたんぱく質の一種である“I型コラーゲン”です。

骨はよく鉄筋コンクリート造の建物にたとえられます。建物のコンクリート部分はカルシウムやリン、鉄筋部分はI型コラーゲンにあたります。通常、建物は大きな地震がきても簡単には崩れ落ちませんが、これは中に入っている鉄筋がしなって、地震の衝撃を吸収しているためです。骨も同様で、カルシウムやリンのミネラル成分とI型コラーゲンがお互いに絡まり合いながら強度を保っています。

カルシウムはもちろん重要な成分ではありますが、I型コラーゲンがないと丈夫な骨は維持できません。

骨を構成する成分
骨を構成する成分

私たち人間の体には大小合わせて206個の骨があるといわれています。小さいもので3mmほどのアブミ骨(耳小骨)(じしょうこつ)から、大きいもので40~50cmほどの大腿骨(だいたいこつ)(太ももの骨)までいろいろな骨が各々の役割を担っています。その役割は主に以下の5つです。

  1. 体を支える……合計206個の骨が全身を支えている。
  2. 臓器を守る……外からの衝撃などから大切な臓器を守る。たとえば、頭蓋骨(ずがいこつ)は脳、肋骨(ろっこつ)は心臓や肺を守る役割をもつ。
  3. 体を動かす……筋肉と密接につながりながら体を動かしている。
  4. 血液をつくる……骨の中心部にある骨髄で血液の元になる赤血球、白血球、血小板がつくられる。
  5. カルシウムを貯蔵する……体内のほぼ全てのカルシウムが骨で蓄えられている。

皮膚が新陳代謝をしているのと同じように骨も新陳代謝をしています。

骨の新陳代謝は、“破骨細胞(はこつさいぼう)”と“骨芽細胞(こつがさいぼう)”という主に2つの細胞のはたらきによって行われています。まずは、破骨細胞が酸を分泌して古くなった骨を溶かし吸収します。吸収が完了すると、次は骨芽細胞が新しい骨をつくり始めます。骨芽細胞はまずI型コラーゲンを産生し、その後でこの部分にカルシウムやリンなどのミネラル成分が付着することで新しい骨が完成します。

このように、破骨細胞と骨芽細胞が“壊す”と“つくる”のサイクルを絶え間なく繰り返すことで、骨は日々新しいものに生まれ変わっています。このサイクルは人間が生まれてから死ぬまで生涯にわたり続きます。骨はじっとしていて静かな組織のように思われがちですが、実はとても生き生きした活動的な組織なのです。

骨の新陳代謝のサイクル
骨の新陳代謝のサイクル

1つの骨が生まれ変わるのには約3〜4か月かかり、約3〜5年で全身の骨が全て生まれ変わるといわれています。

また、寝ている間には骨芽細胞の骨をつくる力が活発になり、起きている間には破骨細胞の骨を壊す力が活発になるといわれています。「寝る子は育つ」という言葉がありますが、これは骨の新陳代謝の観点からも言えることなのです。

骨の強さ(骨強度)(こつきょうど)は、“骨密度(約70%)”と“骨質(約30%)”の2つの要素で決まります。この両方ともが低下したり、どちらかが極端に低下したりすると、骨が弱くなってしまいます。

骨密度とは、骨を構成する成分であるカルシウムやリンなどのミネラル成分のつまり具合のことです。骨のカルシウムやリンの量が減ってしまうと、骨密度が低下して中身がスカスカな骨になってしまいます。

一方、骨質とはI型コラーゲンの質を指します。通常、I型コラーゲンは3本の鎖が絡まり合い強く結びついていますが、I型コラーゲンの質が劣化してくると3本の鎖の結びつきがほどけてきて、強度が弱くなってきてしまいます。建物でいう鉄筋部分が錆びついてしまうイメージです。

このように、カルシウムやリンの量が減ったり、コラーゲンの質が低下したりすることによって、骨はだんだんと強度を失ってしまいます。骨強度が低下して骨折のリスクが高まった状態を“骨粗しょう症”といいます。

骨密度や骨質の低下を招く要因はいくつかありますが、その1つとして加齢が挙げられます。以下は女性における年齢に伴う骨密度の低下を表したグラフです。骨密度は20歳前後でピークに達した後50歳頃まで比較的安定して推移しますが、その後急激に減少していくことが分かります(詳しい原因は後述します)。なお、骨を構成するミネラル成分の総和を示す骨量についても、女性は40歳代後半から、男性は60歳から減少していくことが分かっています。

年齢に伴う骨の変化
出典:Orito S, et al: Age-related distribution of bone and skeletal parameters in 1322 Japanese young women. J Bone Miner Metab 27:698-704, 2009. 

それでは加齢に加えて、どのようなことが骨密度と骨質の低下の原因となるのでしょう。具体的な原因やリスクについてご説明します。

前述したとおり、女性は50歳頃から骨密度が急激に減少していきます。これは50歳頃に迎える閉経によってエストロゲン(女性ホルモンの一種)が急激に減少するためです。

エストロゲンには、破骨細胞の骨を壊す力を抑制して、骨芽細胞の骨をつくる力を活性化させる作用があります。そのため、体内のエストロゲンが減少すると、骨芽細胞の骨をつくる力よりも、破骨細胞の骨を壊す力のほうが強くなってしまいます。この状態が持続すると、骨が正常に生まれ変われなくなり、だんだんと弱くなってしまいます。

糖尿病慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)COPD)、慢性腎臓病などの生活習慣病によっても骨の強度は低下します。

原因はこれらの生活習慣病によって引き起こされる酸化ストレスです。酸化ストレスとは、体内の活性酸素*の産生が抗酸化能力**よりも上回ることで、細胞が障害を受けたり老廃物が蓄積したりしてしまうことを指します。この酸化ストレスは、破骨細胞の骨を壊す力を強めたり、I型コラーゲンの質を劣化させたりしてしまうことから、結果的に骨の強度をだんだんと弱めてしまいます。

*活性酸素:体内に取り込まれた酸素の一部が活性化したもの。免疫機能などで大切な役割を果たす一方、過剰に産生されてしまうと正常な細胞を傷つける。

**抗酸化能力:活性酸素が過剰に産生されるのを抑えたり、ダメージを受けた細胞の修復や再生を促したりする。

ビタミンD・Kといった栄養素の不足も骨が弱くなる原因です。

私たちが普段の生活で牛乳やヨーグルトからカルシウムを摂取しても、ほんのわずかしか体内には吸収されず、ほとんどは排泄されてしまいます。そこで、腸管からのカルシウムの吸収をサポートするうえで欠かせない重要な栄養素がビタミンDです。いくらカルシウムを一生懸命摂取しても、ビタミンDが不足しているとカルシウムを十分に吸収することはできません。ビタミンDは魚類やきのこ類などに多く含まれているほか、日光浴でビタミンDが活性化されます。

また、ビタミンKには骨の形成を促す作用があり、ビタミンKの不足も骨が弱くなるリスクとなります。ビタミンKは納豆や緑色野菜に多く含まれます。

骨に負荷がかからない状態が続くと骨は弱くなってしまいます。積極的に適度な運動を心がけることが大切です。

骨の強度が低下して“骨粗しょう症”と呼ばれる状態になると、わずかな衝撃でも骨が折れやすくなります。たとえば、ふらついてグッと足を踏み込む、10kgほどのものを持ち上げる、といった何気ない動作でも骨折が生じるケースもあります。

骨粗しょう症による骨折が起きやすいのは主に2か所です。1つは大腿骨近位部(だいたいこつきんいぶ)という、太ももの付け根の骨です。もう1つは背骨(脊椎)(せきつい)にある胸椎(きょうつい)腰椎(ようつい)で、特に胸椎と腰椎の境目にある第11、12胸椎(胸椎の上から11番目と12番目)と第1腰椎(腰椎の上から1番目)が折れやすい特徴があります。そのほか、転倒した際に重力がかかりやすい上腕骨や手首の骨折も多く見られます。

骨粗しょう症による骨折が生じやすい部位
骨粗しょう症による骨折が生じやすい部位

これら2つの骨が折れやすい理由は骨の構造にあります。

骨は、表面を覆っている硬い殻のような“皮質骨(ひしつこつ)”と、内部にあり骨髄などが通っているスポンジ状の“海面骨(かいめんこつ)”という2層構造でできています。このうち、海面骨のスポンジの1つ1つの網目の空間が広がることが骨密度の低下を意味します。

太ももの付け根の骨や背骨は、ほかの骨に比べて海面骨の割合が多いために、骨粗しょう症による影響を受けやすく骨折が生じやすいのです。

海面骨のイラスト(背骨)
健康な骨と骨密度が低下した骨における海面骨の違い(背骨)

 

骨粗しょう症では、骨折が連鎖して起こるケースが多々あります。たとえば、太ももの骨折の治療をして歩けるようになったにもかかわらず、退院後に次は背骨の骨折で入院となるようなこともあります。骨粗しょう症では全身の骨が弱くなっているため、連続して起こる骨折にも注意が必要です。

背骨(胸椎や腰椎)は長い時間をかけて少しずつ骨折することが多いため、折れても気付かないことがあります。このような分かりにくい骨折は、自分自身でチェックすることが大切です。

背骨が折れているサインの1つは、身長の低下です。若い頃(25歳頃)よりも4cm以上身長が低くなっている場合には、背骨に骨折が生じている可能性があります。また、たくさんの背骨が骨折している場合、壁に背中をくっつけて立ったとき、どれだけ力を入れても頭を壁に押し当てることができません。これは円背(えんぱい)といって、背骨が折れて背中が丸まってしまっているためです。このようなセルフチェックで背骨の骨折が疑わしいと感じたら、早めに整形外科を受診しましょう。

壁に頭をつけているイラスト

骨粗しょう症によって起こる骨折は、単純に普段の生活で不便さが生じるだけではなく、直接的に命に関わることがあります。

骨折しやすい大腿骨近位部と背骨(胸椎・腰椎)は、私たちの体を支えるうえで非常に重要な役割を担っているため、これらが骨折すると治療期間は歩いたり、立ったりすることができなくなります。さらに、背骨の場合には座ることもできなくなり、ほぼ寝たきりの状態となります。このような安静状態が続くことで、違う病気を発症したり、持病が悪化したりしてしまうことがあります。

たとえば、じっとして動かない状態が続くと、足の血流が滞り、深部静脈と呼ばれる血管に血栓(血の塊)ができる深部静脈血栓症になることがあります。この血栓が血流に乗って肺に流れて詰まる肺塞栓症(はいそくせんしょう)と、命を落とす恐れがあります。

また、背骨の骨折で座れなくなると、体を横にした状態で食べたり飲んだりせざるを得ません。すると、食べ物が本来入っていくはずの食道ではなく、入ってはいけない気管へ流れてしまい誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を引き起こす可能性があります。また、横になって食べ物を食べると喉に詰まらせる危険性もあります。

糖尿病を持っている方の場合には、骨折すると血糖値を下げる運動療法ができなくなるために糖尿病が悪化することもあります。

骨折による死亡リスクについて調べた研究では、骨折をしたことがない人に比べて、骨折したことのある人の死亡リスクは6~8倍高いという報告もあります。一般的に骨粗しょう症や骨折が命に関わるというイメージをお持ちでない方も多いかもしれませんが、骨の衰えは命に関わることを皆さんに知っておいていただきたいと思います。

森先生

骨の強さを維持するために大切な骨密度は、一度減少してしまうと元に戻すのが困難です。2021年1月現在、骨密度を上昇させる治療薬はいくつか存在していますが、低下した骨密度を劇的に改善する治療薬は期待できないのが現状です。ですから今、私たちが骨のためにできるもっとも重要なことは、生活の中で今より骨密度を下げないようにすることです。基本的なことではありますが、食べ物や飲み物からカルシウムやビタミンD、Kを積極的に取るよう食生活を意識する、日光を浴びる(夏は15分くらい、冬は30分くらい)、適度な運動をするなどを心がけましょう。

骨粗しょう症は、サイレントディジーズ(Silent Disease:静かな病気)ともいわれていて、自覚症状がないうちにだんだん進行していき、ある日突然骨折が生じて歩けなくなります。ちょっとしたことで骨折するほど骨が弱くなってしまってからでは、骨を強くしようとしても以前のように再び強くはなりません。

今は特に気になる症状がなくても、人間の自然経過として骨は年齢とともにある程度衰えてきます。しかし意識を変えれば、骨の衰えを抑えられるかもしれません。骨折を未然に防ぎ健康に暮らしていくためにも、骨への理解を深め、骨密度がこれ以上下がらないような意識を持っていただきたければと思います。

また、もし不安なことがございましたら、お気軽に下記よりご連絡ください。

・牧整形外科病院 骨粗しょう症外来

https://www.maki-group.jp/maki_os/column/2288/

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