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インタビュー

女性のライフステージによる“骨の健康”の変化——女性ホルモンと骨の関係とは?

女性のライフステージによる“骨の健康”の変化——女性ホルモンと骨の関係とは?
善方 裕美 先生

よしかた産婦人科 院長、横浜市立大学産婦人科 客員准教授

善方 裕美 先生

目次
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女性は50歳前後で閉経を迎えると、女性ホルモンの一種であるエストロゲンが急激に減少し、それに伴って骨密度も低下することが知られています。骨密度が低下すると、骨がスカスカになり骨折しやすくなる骨粗しょう症の発症につながるほか、骨折を繰り返すことで骨が変形して見た目にも影響が及ぶ恐れがあります。本記事では、エストロゲンと骨密度の関係について述べるとともに、若いうちから骨の健康対策を始める重要性について、よしかた産婦人科院長の善方(よしかた) 裕美(ひろみ)先生に伺いました。

女性ホルモンと骨の深い関係

女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量は、女性の一生の中で大きな波を描くように増減します。思春期頃から急に増加し、20歳代から30歳代でピークを迎え、40歳代に入ると乱高下しながら低下してきます。50歳代で閉経すると、60歳代以降は卵巣からのエストロゲンの分泌量はほとんどゼロとなります。

エストロゲンの波と並行に近い波形で増減をするのが骨密度です。女性は10歳~12歳頃から骨密度が増え始め、エストロゲンの波よりも少し早い20歳代でピークを迎えます。その後、40歳代頃から骨密度は低下傾向になり、閉経によって急激に減少します。

骨密度のピーク時をYAM:young adult mean(若年成人平均値)といい、これを100%として、80%未満を骨減少症、70%未満を骨粗しょう症といいます。

エストロゲンは骨吸収と骨形成のバランスを整えるはたらきを担う
エストロゲンは骨吸収と骨形成のバランスを整えるはたらきを担う

骨は、破骨細胞が骨を溶かす“骨吸収”と、骨芽細胞が骨をつくる“骨形成”を常に繰り返し、生涯にわたって新陳代謝(骨代謝)をしています。この骨代謝は栄養状態やさまざまなホルモンによってバランスを取っていますが、中でも強い影響を及ぼすのが女性ホルモンのエストロゲンです。

エストロゲンは、骨代謝の状態をうまく整えるはたらきを担っており、減少すると破骨細胞が暴走して骨が壊れていきます。エストロゲンが増える思春期の頃は骨形成が早く骨がどんどんつくられますが、エストロゲンが減る閉経期以降は骨吸収のほうが早くなり骨密度が低下していきます。

少し詳しくエストロゲンの作用について説明すると、

  1. 骨芽細胞に直接作用し、分化や増殖を促進
  2. 骨粗しょう症抑制因子のオステオプロテゲリン(Osteoprotegerin:OPG)の発現を促進し、破骨細胞の分化・活性を抑制
  3. 破骨細胞に対して低酸素誘導因子のHIF1αを抑制することによって破骨細胞の機能を抑制
  4. 骨吸収に関与するサイトカイン(IL-6やTNFαなど)の発現を抑制する

など、多くの作用で骨の健康を支えています。

エストロゲンの減少に伴い、40歳代頃から骨量が減少しはじめ、閉経を迎える50歳頃から急激に骨密度が下がって骨粗しょう症になってしまう方が増えます。70歳代では、女性の2人に1人が骨粗しょう症であるといわれています。

骨代謝をうまく保つためには、エストロゲン以外にも、栄養、運動、生活習慣などさまざまな要素が欠かせません。骨密度が低下する原因としては次のようなことが挙げられます。

骨は体重との関連性が強く出る部分で、骨密度にはダイエットの経験も大きく関係しています。栄養不足になることも一因ではありますが、体重が減ると体にかかる過重負荷が減って骨が弱くなるため、やせていること自体が骨密度低下のリスクとなるのです。近年、女性のやせは増加傾向にありますが、骨の健康のためにも無理なダイエットは禁物です。

骨粗しょう症は痛みなどの症状は出にくいものの、骨折のリスクが高くなることに注意が必要な病気です。骨折は大した問題ではないと思われがちですが、骨折後のさまざまな問題点を考えると侮れないものです。たとえば、高齢の方が骨折して寝たきりの状態になり、そのまま亡くなってしまうことはめずらしくありません。大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)転子部骨折(てんしぶこっせつ)後の1年後の死亡率は9.8~10.8%と報告されています。治療して日常生活に戻れても、背骨が変形して出っ張っているような形で曲がる円背(えんぱい)をきたし、杖をついて歩かなければならなくなって転倒リスクが上がる方もいます。背骨は内臓を保つ支柱になっているため、背骨が折れることで内臓が圧迫され、逆流性食道炎不整脈などの問題を引き起こす恐れもあります。

脊椎圧迫骨折による円背は見た目にも影響を及ぼします。特に、後述する妊娠後骨粗しょう症(妊娠・授乳関連骨粗しょう症/pregnancy and lactation associated osteoporosis:PLO) の患者さんでは、20歳代など若いときに脊椎圧迫骨折をきたし、円背の状態となってしまう方がいらっしゃいます。骨は変形すると治療が難しく、患者さんからは「ショーウィンドウに自分の姿が映ったときにショックを受けた」「年を取って見えるのがすごくつらい」「背中が出っ張って服をきれいに着られない」といった悩みをよく聞きます。

妊娠後期から産後授乳中(約半年)に突然、脊椎の圧迫骨折を起こし動けなくなってしまう、妊娠後骨粗しょう症という病気をご存じでしょうか。疫学や治療方法が確立されておらず、発症の原因はよく分かっていませんが、骨粗しょう症の発症が疑われるリスク因子(低栄養や低体重、家族歴、遺伝的要因など)や、遺伝的な要因などの多因子が関わって発症するといわれています。授乳中はさまざまなホルモンが分泌されて骨代謝の回転が早くなり、骨を壊すはたらき(骨吸収)が過剰になるため、骨折して間もないときは授乳を止めて骨吸収を抑えなければならない場合があります。骨折の進行が落ち着いた後も日常生活に支障が出てしまい、リハビリテーションやペインクリニック治療が必要になることもあります。

まれな病気とされていますが、私自身、妊娠後骨粗しょう症の患者さんを診させていただくことが増えています。妊娠後期や授乳中に強い腰痛が起こったときは骨粗しょう症かもしれないと考えて、まずは骨折がないかどうかを調べるために、整形外科や産婦人科で相談することが大切です。

妊娠後骨粗しょう症は、治療して骨密度が正常域に戻っても、リハビリテーションを行いながら育児をしなければならないこと、骨折の不安から運動を避けてしまうこと、強い痛みが残って精神面にも影響をきたす恐れがあることなどが問題点となります。できるだけ、早く診断して適切な治療ができるように、まずはこの病気の概念を認知してほしいと思います。

私は、妊娠後骨粗しょう症を多くの方に知っていただきたいという思いから、2020年に妊娠後骨粗しょう症の専門サイトを立ち上げました。学会、講演会で発表したり、産婦人科を舞台とした医療漫画『コウノドリ』や子育ての情報誌『ひよこクラブ』で取り上げてもらったりもして、啓発に努めています。

最近では、妊娠後骨粗しょう症の患者さんがLINEオープンチャットで患者さん向けのコミュニティを立ち上げていらっしゃって、参加メンバーは約100名となりました(2021年1月現在)。今後はそのメンバーの方々に疫学調査に関わっていただき、妊娠後骨粗しょう症の背景因子の調査をしていこうと計画しています。

骨密度は、X線骨密度測定装置を使って測定することができます。まずは一度、自分の骨密度を測定してみることが大切です。正常値の場合、次回の測定までは3~5年ほど空けてもよいですが、先ほど述べたような骨量減少のリスクとなった場合や、45~55歳頃の更年期には女性ホルモンが急激に減少するため、正常値であっても2年に1回くらいのペースで骨密度検査を行うことをおすすめします。

骨密度値を測定してYAM値の70~80%という低めの数値が出た場合は、毎年検査を受けるようにしたほうがよいでしょう。骨粗しょう症にあたる70%未満の場合にはすぐに治療を開始し、医師の診察を受けながら半年に1回ずつ測定します。

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骨代謝にとって大切な栄養素であるカルシウム、ビタミンD、ビタミンKを積極的に摂取して、厚生労働省が発表している食事摂取基準を満たすことを心がけましょう。カルシウムは牛乳や小魚、ビタミンDはサケやキノコ、ビタミンKはほうれん草や納豆に多く含まれる栄養素です。『日本人の食事摂取基準(2020年版)』によると、50歳代以上の女性の食事摂取基準における推奨量は、カルシウムは650mg/日、ビタミンDは8.5μg/日、ビタミンKは150μg/日とされています。しかし、骨量低下のリスクが高い方は、カルシウムは700~800㎎/日、ビタミンDは10~20μg/日、ビタミンKは250~300μg/日とさらに多い摂取が日本骨粗鬆症学会より推奨されています。

ビタミンDは食事からも摂取できますが、日光に当たると皮膚でつくられる栄養素で、腸からのカルシウム吸収を促すはたらきがあり、骨代謝と大きく関係しています。

実は、ビタミンD供給のほとんどは食事よりも日光から補給されます。美白やUVケアの習慣化している日本人では80%以上がビタミンD不足であり、骨の石灰化障害によってO脚の若年層が増えているといわれています。骨の健康のためにビタミンDを積極的に摂取しましょう。

骨に対して荷重負荷がかかるような運動をすることで、骨を鍛える効果が期待できます。運動不足の方や、若いときから特に運動をしてこなかったという方は、骨密度が低下するリスクがあると考えて、日頃から運動することを心がけましょう。運動といっても難しく考えないで、エスカレーターではなく階段を使う、ひと駅前で降りて徒歩で移動する、1日10分のラジオ体操など、なるべく歩こうという意識で始めてみてはいかがでしょうか。

エストロゲンは、骨の新陳代謝を助けるだけでなく、肌のハリを保つコラーゲンをつくり出すはたらきを持っています。そのため、エストロゲンが十分に分泌されていて高い骨密度を維持している方ほど、肌にハリがあり、しわが少なく若々しく見えるものです。更年期障害に対するホルモン補充療法は、骨粗しょう症の予防と治療にも効果的です。骨密度を減らさないように心がければ、結果的に体の水分量を保って瑞々しい肌をつくることにもつながります。骨にも美容にも一石二鳥によいことをしていると考えて、女性ホルモンを上手にコントロールしていくとよいでしょう。

セルフケアとしてできるのは適切な運動・睡眠・食事ですが、メディケイション(薬物治療)としてホルモン補充療法の相談をしたいときは、禁忌(その医薬品を使用しないこと)や慎重投与となる場合もあり、医療的管理が必要ですので、日本女性医学学会認定の女性ヘルスケア専門医に受診していただくとよいと思います。

骨は思春期に最大骨量に達し、その後は健康的な生活を送っていれば、十分な骨量を維持できるのですが、更年期になると急激に減少し始めてしまいます。また、骨の健康を意識せずに生活していると気付かないうちに減ってしまうこともあり得ます。骨は年を取ってから弱くなるのではなく、現在の食事や運動、生活習慣が将来の骨をつくっているのです。今の頑張り次第で、年を取ったときの骨の減少が抑えられる可能性があるのだと意識することが大切です。

たとえば、60歳代後半になってから運動や食事などで骨のケアをしようとしても、骨の状態を元に戻すことは大変なものです。“70歳になったとき背筋のピンとした素敵な女性でいられるように、若いうちからホルモンケアとよい生活習慣を身につけて、閉経後でもせめてYAM値の80%以上の骨密度を保っていられるように頑張ろう”といった目標を持って、骨の健康対策に取り組んでいくとよいと思います。

最近では、女性ホルモンを自分できちんと管理できる時代になってきています。思春期や更年期という女性のライフステージに合わせて、ホルモン剤などを使いながら女性ホルモンの量や状態をコントロールすることができるのです。更年期に入って女性ホルモンが減っていくことに不安を感じたり、“骨の健康を大切にしなければ”と気付いたりしたときからケアを始めても十分だと思います。ぜひ、今日から骨の健康対策に取り組んでいってください。

“女性ホルモンがなくなったら女性としての魅力がなくなってしまう運命だ”と思われるかもしれませんが、そんな風には考えないでください。あるご高齢の女優さんが「青い春の青春もいいけど、赤い秋の色めいた年代はもっといい」というようなことをおっしゃっていましたが、そのとおりで、性成熟期が終わった更年期以降は、人間力が増していく年代だと感じます。美と健康のホルモンである女性ホルモンに振り回されず、自分で上手にコントロールして、ウェルエイジング(上手に年齢を重ねる生き方)を意識していくことが大切です。

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