鳥取大学医学部附属病院は、救命救急医療のみでなく地域医療を円滑にまわすハブとしての役割も持ち、山陰地方の医療を支える存在です。
病院の診療と特徴、病院設備や独自の取り組み、採用教育体制などについて、病院長の原田省先生にお話を伺いました。
救命救急センターが中心になって、地域の開業医の先生や一般的な病院では対応が難しいと判断された、重篤かつ重症度の高い患者さんを受け入れています。
県外からの救急要請も増加していることを受け、2013年5月からはドクターカー、2018年3月からは鳥取県ドクターヘリの運用を開始しました。医療機材を搭載した状態で医師を乗せて現場に急行するため、より迅速な診断と処置が可能となりました。救命率の向上や早期の社会復帰といった予後の改善につながることを期待しています。
今後も、一人でも多くの方の命を救えるよう、この地域で高度な救急医療体制をつくりあげるため、スタッフ一同積極的に取り組んでまいります。
消化器に分類される臓器は多いため、病気と治療方法は多岐にわたります。患者さんの病気の種類と進行度、体力や年齢などの状態を考慮しながら、なるべく体に負担がかからない治療方法を提案しています。
当院で実施している治療の一例として、初期の胃がんや大腸がんでは内視鏡や腹腔鏡を使用した手術を行っています。また、食べものが飲み込みにくいなどの症状を起こす食道アカラシアに対してPOEM(経口内視鏡的筋層切開術)と呼ばれる内視鏡治療を行っています。化学療法や放射線治療の後、再発した食道がんに対しては、光感性物質とレーザー照射による光線力学的療法も実施しています。
心臓血管外科では、狭心症や心筋梗塞など虚血系心疾患、心臓弁膜症、胸部および腹部大動脈等を対象に外科的治療を行っています。
冠動脈バイパス手術を実施したり、MICS(低侵襲心臓治療)と呼ばれる胸部の切開を極力抑えた手術をしたりするほか、TAVI(経カテーテル的大動脈弁植込み術)と呼ばれる人工弁設置手術など、患者さんの体の負担を軽減し、術後の日常生活の質的改善につながる低侵襲手術を積極的に行っています。また重症心不全に対して、補助人工心臓を用いた治療にも、中国地方唯一の認定施設として取り組んでいます。
山陰地方では血液内科を手がける医師が少ないため、診療体制の整備を進めました。
白血病や悪性リンパ腫などいわゆる血液のがんや自己免疫の病気に由来する血液の異常に対しては、国際的な治療ガイドラインを遵守した治療を行っています。また、多発性骨髄腫に対する自家末梢血幹細胞移植を併用した超大量化学療法を実施するなど、患者さんのQOL(生活の質)を維持しつつ、生命予後の改善につながるような治療を目指しています。
当院ではダヴィンチの専用手術室を有しており、低侵襲外科センターが中心となって、関連する診療科、手術部、MEセンター、事務部と横のつながりを活かした運用をしています。
ダヴィンチでは、主にアームと呼ばれる部位の先端に付けた器具で手術します。そのため、従来の開腹手術よりも繊細な操作が可能であり、体に負担がかかりにくいことから、社会復帰の時期を早められる手法として注目を集めています。当院は全国でも先駆けて導入して、ダヴィンチ使用に関する詳細や安全管理対策についてまとめた日本で初めてのマニュアル本も作成しました。
心臓の病気は重篤化しやすく、息苦しさや倦怠感といった症状も伴いやすいことから、手術治療が重要です。
当院では、心臓血管外科と循環器内科を中心とした、多領域の専門家からなるハートチームを結成して、TAVI(経カテーテル的大動脈弁植込み術)を導入しました。TAVIでは、大腿部または心臓の先端からカテーテルを入れて人工弁を留置します。高齢者や体力が低下している方など、従来の手術では術後リスクが高かった方にも実施できる心臓手術の選択肢の一つとして、より多くの方に知っていただければと考えています。
ロボット手術を安全に行うため、ダヴィンチ手術時における当院独自の手術中止命令を導入しました。これは、手術前に予定時間と上限出血量を設定して、万が一これらを上回れば、当番の医師が、ダヴィンチから腹腔鏡や開腹手術へと切り替える判断をするというものです。
従来の大学病院では考えられない制度を導入したことで、手術の長時間化や大量出血時の安全性を高めることができるようになりました。また、高く厚くなりがちな診療科間の壁がなくなったほか、診療の「見える化」など、多方面でもよい影響が現れています。
医療資源有効活用と医療機関同士のスムーズな医療連携のため、IT技術による医療連携を推進しています。
鳥取県からの援助もいただき、「おしどりネット」を2009年から運用しています。おしどりネットは、患者さんの電子カルテ(診療情報)を接続医療機関の間で閲覧できるシステムです。円滑な地域医療連携を支援するため、今後さらなるネットワークの拡大を図ってまいります。
看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、医療ソーシャルワーカーなど、専門性の垣根を越えた多職種連携によるチーム医療を推進しています。
当院では、体への負担が少ない手術を行う「低侵襲外科センター」、心不全診療の中心的存在「ハートチーム」、長期間の寝たきりなどで生じやすい褥瘡予防や改善に取り組む「褥瘡対策チーム」、皮膚や神経など全身に症状が出る結節性硬化症に対する「結節性硬化症診療チーム」などがあり、それぞれ専門性を発揮し、協働して患者さんの状態に応じて適した医療を提供しています。
重症もしくは複雑な症例を抱える患者さんが退院されると、退院後の療養が安心して継続できるよう、当院では病棟看護師が患者さんのもとを定期的に訪問しています。
患者さんやご家族もよく知る看護師が訪問するため、病気や健康に関する不安や悩みを相談しやすいと反響も多くいただいています。
地域に開かれた大学病院として医療を提供するのみでなく、医療情報を地域の皆様へお伝えするため病院外来ロビーで「とりだい病院健康ミニ講座」を毎月2回程度で開催しています。
講座では、市民の皆さんから寄せられる「これをもう少し詳しく知りたい!」という声をもとに、肝臓がんや乳がんなど病気、歯科インプラントなど治療方法、その日から実践できる健康体操などを紹介しています。
院外では、年2回程度病院主催の「メディカルセミナー」を開催しており、住民の方だけでなく、地域のさまざまな組織との関係構築にもつながっています。
当院では、地元企業と医療機器の共同開発に取り組んでいます。代表的なものに気管挿管、内視鏡検査、喀痰吸引の3つの手技のトレーニングが一体でできる医療教育用シミュレータロボット「mikoto」があり、学生・医師・看護師などの実習や手技向上に使用しています。この地域の医療のみでなく、産業の一端も支える存在として活躍していきたいと考えています。
毎日の臨床現場では、講義では教わらなかったようなことばかり起こります。どのような症例にも対応できる、患者さんから「あなたが主治医でよかった」と言ってもらえる多くの方に必要とされる医師を育成するため、思考力を伸ばす研修体制をとっています。
原則として、一人の研修医に一人の指導医が就くマンツーマン体制を採用しており、さまざまな指導をつうじて臨床スキルを身に着けていただきます。カンファレンスや抄読会、研究会などにより、診療に対する知見を広げたり自身の診療内容を振り返ったりしてもらう機会も多いです。
研修医同士が気兼ねなく交流できるよう、専用の休憩室、更衣室、仮眠室、シャワー室を完備したほか、救命救急センターでの宿日直制度・シフト制勤務を導入するなど、研修医の待遇を改善しました。また、研修医専用の宿舎も運営しています。
当院で働く職員が働き続けたいと思えるような環境作りも大切です。仕事とプライベート両立を含め、多様な働き方・生き方を尊重し、皆が能力を発揮し活躍できる病院を目指し、ワークライフバランス支援センターを開設しました。
結婚、妊娠、出産、子育てのライフイベントがきっかけで離職する女性医師も多いです。本来なら喜ぶべきライフイベントがキャリア形成の妨げとなることがないよう、24時間型の保育所を開設したり、外来中心の時短勤務に当てるなど仕事量を調整して、子育ての負担の軽減だけでなく、家庭の両立をしやすい環境作りも進めています。2018年8月からは病児保育施設を拡充し、運営を開始しました。
都心部の医療機関のほうがより多くの症例が集まるため、たくさん経験を積めると思われがちです。しかし、当院ならびに提携先医療機関のような地方の医療機関で症例が不足することはなく、むしろ地域における医療の中心的存在として活躍していることから、多彩な症例を手がけることが可能です。研修先を選ぶ際は「都心部のほうがたくさん経験を積める」という考えを改めてみてはどうでしょうか。
地方の医学部で学んだ方は、そのまま大学に残って各種専門医の資格取得などスキル向上を目指す方法もあります。専門医資格の取得はゴールでなく、あくまでも通過点の一つです。留学などをつうじて新しい世界を知り、理想像の実現に向けてサブスペシャリティを身につけていってください。
当院は大学病院であり三次救急医療を担う病院でもあります。一人でも多くの重症・重篤な患者さんを救うため職員一同邁進してまいりました。
医療のあり方は、病院単体で患者さんを治療するのでなく、地域全体で患者さんを支えていく体制へと大きく変化しています。そのためには病院機能に応じた役割分担が重要な鍵を握るため、他の医療機関への転院やフォローアップなどをお願いすることもあります。
これからも、多くの方を癒やし、健やかであることの喜びを共有するため、病院機能による役割分担にご理解とご協力をお願いします。
鳥取大学医学部附属病院 院長 女性診療科群(女性診療科・婦人科腫瘍科)主任診療科長 教授
鳥取大学医学部附属病院 院長 女性診療科群(女性診療科・婦人科腫瘍科)主任診療科長 教授
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医
鳥取大学医学部医学科卒業後、同大産科婦人科学教室への入局と、英国リーズ大学留学をつうじて、医師としての基礎習得と修練につとめる。
産科婦人科の医師として、子宮内膜症や卵巣がんに関する研究に取り組み、なかでも子宮内膜症研究では、細胞増殖に炎症反応が関与していることを解明した。また、生理痛の正しい知識普及のため、サイト監修をつうじて一般生活者に向けた情報発信もおこなっている。
2017年には鳥取大学副学長、鳥取大学医学部附属病院 病院長に就任。県内の医療をリードする組織の長として、地域における医療のあり方と、職員それぞれが能力を発揮できるような環境づくりを考える。
原田 省 先生の所属医療機関
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。