鳥取県米子市に位置する米子医療センターは、がんに対する治療や腎移植の提供に力を入れています。がん診療や腎移植以外にも外傷や小児救急など一般診療科の急性期医療に尽力し、地域医療を支えるためにスタッフ一同が協力しています。同院について、独立行政法人 国立病院機構 米子医療センター 院長 長谷川純一先生にお話を伺いました。
米子医療センターは1938年に創設された姫路陸軍病院皆生臨時分院が前身にあたります。その後、国立療養所として結核患者さんへの治療に力を入れ、1960年代から総合病院として地域医療の提供に尽力してきました。2004年の国立病院の独法化にともない、米子医療センターと改称し、それまで得意としていたがんと腎臓の専門医療にさらに力を入れていく医療体制を整えてきました。
現在は消化器や呼吸器、乳腺、血液などのがん診療と腎移植のほかに、整形外科分野や小児の救急受け入れ、感染症に対する治療の提供にも尽力しています。
整形外科分野での診療では骨折などの救急患者さんの受け入れのほかに、骨軟部腫瘍に対する診療も行っています。骨軟部腫瘍とは、骨または筋肉や脂肪組織などの軟部組織にできる腫瘍のことです。腫瘍は良性の場合もありますが、がんが転移することや血液がんがしこりを形成する悪性の場合もあります。
地域の高齢化が進み、転倒による骨折や誤嚥性肺炎の患者さんも増加しつつあります。加齢にともない、物を飲み込む機能である嚥下機能が低下し、食べ物や唾液などと一緒に細菌を気道に吸引しやすくなってしまいます。そうした誤嚥にともなって発症する肺炎のことを誤嚥性肺炎と言います。そのため、肺炎などの呼吸器の診療にも注力しています。
地域医療に尽力しながら、当院の強みであるがん診療や腎移植に力を入れています。地域の医療ニーズを取り入れ、地域の皆さまが安心して生活できるように努力を重ねています。
当院の強みのひとつであるがん診療についてご紹介します。
当院は地域がん診療連携拠点病院に指定されています。地域がん診療連携拠点病院は地域の患者さんが日常の生活圏域の中で全人的な質の高いがん医療を受けることができる医療機関として厚生労働省が規定しているものです。そのため、当院でもよりよいがん医療を受けることができる態勢を整備しています。
消化器がんや肺がん、乳がんなどに対して患者さんの病状に合わせて外科手術や放射線療法、化学療法、など集学的治療を提供しています。
また、がん患者さんの必要に応じて緩和ケア病棟に入院していただき、がんの治療開始と同時に緩和ケアを開始します。
緩和ケアは、がん終末期に痛みや不安をやわらげる医療という認識が強いと思います。しかし、実際にがんと診断された時点で、患者さんは痛みや不安を覚え、生活の質が低下することもあります。
そのため、現在のがん緩和ケアではがんと診断され、治療を開始すると同時に痛みの緩和や精神的苦痛の除去に努めます。緩和ケアチームが早い段階で介入することで、治療中の不安や苦痛などを取り除くように努めています。
当院の緩和ケアでは、医師や看護師、理学療法士などの医療面でのサポートのほかに地域のボランティアの方々がさまざまな取り組みを行い精神面での緩和に尽力してくださっています。たとえば、ボランティアの方々が定期的に来院し、緩和ケア病棟に入院している患者さんに対してアロマオイルでのマッサージを行ったり、お湯にアロマオイルを垂らした手浴や足浴をしてくださいます。患者さんにも好評でラベンダーやローズマリーなどの香りで癒され、入院生活の中でもリフレッシュする機会を提供できています。こうした、さまざまな角度からの緩和ケアを実現しています。
アロマ以外にも音楽を流したり、ティーサービスやクリスマス会などの季節の行事を実施したりするなどボランティアの方々と協力し、がん患者さんの緩和ケアに努めています。
消化器がんや肺がん、乳がんなどの診療のほかに血液がんの診療に尽力しています。たとえば、血液がんの治療では化学療法のほかに造血幹細胞移植を行っています。
血液がんは、主に3種類に大別されます。骨髄の中にある造血幹細胞や分化の途中にある細胞ががんになる白血病と、リンパ球ががんになる悪性リンパ腫、抗体を作る形質細胞ががんになる多発性骨髄腫です。
当院は造血幹細胞移植を積極的に実施し血液がんに対する幅広い治療を提供しています。
血液疾患に対する治療方法のひとつとして、造血幹細胞移植を実施しています。たとえば、血液やリンパのがんはほかのがんに比べて抗がん剤治療や放射線治療で効果が出やすいと言われています。しかし、患者さんの病状やがんの種類によっては抗がん剤治療や放射線治療で十分な効果が見られないことがあり、そういった場合に患者さんの同意のもと造血幹細胞移植を実施します。この場合、移植の前に抗がん剤による大量化学療法と全身放射線照射による移植前処置を行い、血液がん細胞をできるだけ少なくします。
移植される造血幹細胞とは、骨髄で細胞分裂を行い血液の成分である血球を作り出す能力のある細胞です。血球は、赤血球や白血球、血小板の3種類に成長し、さまざまな機能を持ちます。
造血幹細胞が血球などの細胞に成長することを分化と言います。造血幹細胞は分化のほかに、自己複製と呼ばれる同じ細胞を増やす能力があります。造血幹細胞移植はこの性質をいかして、ドナーから提供された造血幹細胞を患者さんの末梢血管内に点滴で投与します。それが骨髄に根付き再び血液細胞が作られるようになると、造血幹細胞の免疫力も加わりがんの根治を目指せます。
1987年から腎移植を開始しています。腎移植には生体腎移植と献腎移植があります。生体腎移植は親族から腎臓を提供していただく移植のことで、献腎移植は亡くなった方から提供いただいた腎臓を移植するものです。
腎移植は慢性腎不全の患者さんで、透析治療が必要なうえに移植を希望される場合に実施を検討することになります。腎移植は透析治療による時間的な制約がなくなりますが、拒絶反応の可能性や複数回の移植手術を行わなくてはならない患者さんもいらっしゃいます。当院ではレシピエント移植コーディネーターが中心となって患者さんの長期継続ケアや移植チーム、院内外との調整を行います。
当院が地域医療を提供できるのは、医師、看護師をはじめ、検査技師や放射線技師などチーム医療を支えるたくさんのスタッフがいるからです。日々の診療がスムーズに行えるようにさまざまな面で貢献してくれています。今後も、スタッフが働きやすい環境を整え、仕事にやりがいや楽しさを覚えていけるような職場を作れるように尽力します。
仕事にやりがいを感じ、新しく学ぶことを楽しいと思い、明るく前向きでいることは患者さんにも伝わります。それぞれのスタッフが持てる能力を発揮できるような職場を目指していきます。
当院はあたたかくて優しい病院をモットーにし、2018年は頼りにされる病院づくりを目指しています。強みであるがん診療や、移植医療のほかに一般の救急患者さんも可能な限り受け入れ、日々の診療にも今以上に尽力してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
国立病院機構 米子医療センター 院長、鳥取大学 名誉教授
国立病院機構 米子医療センター 院長、鳥取大学 名誉教授
日本内科学会 認定内科医日本循環器学会 循環器専門医・FJCS日本臨床薬理学会 臨床薬理指導医・臨床薬理専門医日本禁煙学会 禁煙専門医日本医師会 認定産業医・健康スポーツ医日本スポーツ協会 公認スポーツドクター
1979年より一般内科の研鑽を開始。大学院生の時から不整脈の基礎的・臨床的研究を始め、2種類の実験的不整脈モデルを考案し日本心電学会木村栄一賞最優秀賞受賞。その後、電気生理学的検査やペースメーカー植込みなどを手がけ、HOCMのペースメーカー治療で鳥取医学賞受賞。1997年鳥取大学臨床薬理学(薬物治療学)教授となってからは薬物治療の教育・研究を中心とし、医学部副学部長、医学科長、大学院医学専攻長などを歴任した。学会活動は日本臨床薬理学会評議員、理事、専門医制度委員長、第37回学術総会長(2016年)、日本循環器学会チーム医療委員、禁煙推進委員などを勤めた。
長谷川 純一 先生の所属医療機関
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