福岡県北九州市にある九州労災病院は、治療と社会復帰支援を目的として1949年2月に開業した病院です。勤労者医療の担い手として貢献し続けてきた同院は現在、地域の中核病院としての役割を果たしつつ、患者さんの治療と仕事の両立の支援にも取り組んでおり、同院を訪れた患者さんの期待に応えられるよう努力を重ねています。
同院の特徴、診療体制、地域との結びつきを強めるための取り組みなどについて、2016年4月から同院の病院長として活躍しておられる岩本幸英先生にお話を伺いました。
当院は、設立当時から続けている勤労者医療と、地域から寄せられる医療ニーズに対応するための地域医療を行っています。どちらも当院を支える重要な診療の柱です。
戦後の産業活性化に伴い全国で労働事故が多発したことを受けて、労働災害を被った労働者に対して十分な治療と早期の職場復帰を支援する医療機関の開設を求める声が高まります。中でも北九州は国内有数の工業と産炭の拠点だったこともあり、1949年、当院は小倉市(現在の北九州市小倉南区)に、全国で初となる労災病院として誕生しました。開設当時から、当時まだわが国に普及していなかったリハビリテーションに力を入れ、1963年には、理学療法、作業療法、義肢制作が可能な(全国初の)総合リハビリテーション施設を開設し、数多くの労災患者の社会復帰支援に努めてきました。その後、企業の労務管理の改善により全国的に労災患者は減少しましたが、現在でもさまざまな業務上疾病が問題になっています。また、がんをはじめとする病気の患者さんが、働きながら治療を継続する時代を迎えており、その支援も必要です。当院は、勤労者医療の担い手である労災病院として、これらの問題に対処しています。
一方、1949年の開設時、内科、外科、整形外科、理学診療科(現在のリハビリテーション科)の4診療科でスタートした当院は、次々に診療科を新設し、2018年12月現在では21診療科を有する地域の基幹病院になっています。救急医療やがん診療を行うと同時に、地域の開業医の先生たちと緊密な連携体制を構築しました。2009年4月には地域医療支援病院の承認を受けており、近隣地域にお住まいの方を医療面から支えるための努力も重ねています。
労働によって生じる外傷や、腰痛や四肢の関節の痛みをはじめ、アスベストに関連する健康被害、じん肺などの診療を行っています。減圧症、一酸化炭中毒、突発性難聴などに対する大型の高圧治療タンクを用いた高気圧酸素治療や、恒温・恒湿を調整できる人工気候室を使用した振動障害の診断も可能です。
社会構造や労働環境等の変化などの影響を受けてストレスに起因する心身の不調に対応するため、医学的に問題ない方を対象にメンタルヘルスに関する相談にも応じています。
近年では、病気を抱えながらも就業する方を支えるために治療と職業生活の両立支援も行うなど、勤労者の健康や生活、職業生活を守り、職場復帰に必要な医学的支援なども行っています。
交通事故などによる骨折を含めた重度多発外傷、脳卒中や心筋梗塞のように緊急対応が必要な症例にも対応しています。
当院は救急告示病院の指定を受けており、救急外来では24時間365日体制で救急車を受け入れています。また災害拠点病院としての機能もあり、2016年4月に発生した熊本地震では現地にDMATを派遣して病院支援活動に従事しました。
脳血管内科では、脳梗塞や一過性脳虚血発作に対する診療や発症後3時間以内の脳梗塞に対する血栓溶解療法を行います。また脳神経外科では、脳卒中やくも膜下出血に対する外科的治療、血管内治療を実施しています。
いわゆる5大がん(胃がん、大腸がん、乳がん、肝がん、肺がん)をはじめ全身のがんに対応できるよう、手術や内視鏡治療、抗がん剤治療、放射線治療を行っています。
とくに当院では、骨や筋肉などの軟部組織に生じる骨軟部腫瘍の手術および抗がん剤・放射線を用いた治療も可能です。
整形外科は骨、軟骨、筋肉、靱帯、神経などに生じた異常の診断と治療を行っており、その領域は脊髄・脊椎、骨盤、上下肢など広範囲に及びます。
当院ではいずれの領域も診療可能です。患者さんと共に治療目標を設定して、保存療法や手術などを行いながら社会復帰を目指します。
リハビリテーションには、病気などで低下した身体機能の回復や維持といった目的があり、その対象は子どもから高齢者まで幅広いです。脳卒中や脊髄損傷による機能障害からの回復、外傷や骨・関節の病気の手術後の機能訓練、病気の治療や入院等による廃用症候群の改善、認知症や精神疾患に対するものなどがあり、他の診療科と連携しながら患者さんの状態と目的に応じたリハビリテーションをご案内しています。
労災病院として、そして急性期病院として地域に向けて医療を提供し続けるためには、急性期医療は当院で診療し、日常的な診療や健診などは地域のかかりつけの診療所で診てもらうといったように、患者さんの状態に応じて地域内での連携体制の構築と維持が重要です。
地域の医療機関から患者さんをご紹介いただいた場合には責任を持って治療して再びその医療機関にお返しして、反対に当院での治療を終えた患者さんは地域の医療機関をご紹介しています。
地域のかかりつけ医の方々と実際に遭遇した症例を提示し合うことで、お互いに情報発信や共有を進めています。
必要に応じて、当院の医師や看護師が訪問して説明や共有を行うこともあります。
地域の方にも当院がどのような医療をしているのか知っていただくため、地域の皆さまに向けた情報発信も行っています。
救急搬送されることの多い脳卒中を取り上げた市民講座や、日本看護協会による認定を受けた救急看護認定看護師が講師役を務める心肺蘇生講習会などを開催しています。
当院は臨床研修病院の指定を受けており、初期臨床研修医を毎年受け入れています。
救急医療の第一線から地域医療まで幅広く手がけているため、毎年大勢の医学部学生が当院での研修を志望しています。
また研修医の満足度を高めるため、病院見学時には志望診療科の医師ができるだけ対応するほか、先輩医師からの指導を充実させたり、初期研修2年目には最長8か月間にわたり同一診療科での研修を許可したりするといったように、研修医目線を意識したプログラムづくりをしています。
医学部学生や若手医師の方と話す機会があるとき、お伝えしていることが2点あります。
1点目は、患者さんに寄り添う心を大切にしていただきたいということです。医師に求められるのは、知識と技術のみではありません。患者さんの感じている痛みや苦しみを想像して、この人のために何ができるのか考えて行動してください。
2点目は、学問の心を忘れないでくださいと伝えしています。専門医の資格取得を念頭に置いたトレーニングが重視されがちですが、本来、医学と医療は車の両輪のような存在です。どちらかが不足していても車は走りません。双方をしっかりと意識して、社会人としても医師としても深みのある人になってください。
独立行政法人労働者健康安全機構 九州労災病院 院長、九州大学 名誉教授
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