インタビュー

ガンマナイフ治療の今後の展望――どのような患者さんに行うべき治療法?

ガンマナイフ治療の今後の展望――どのような患者さんに行うべき治療法?
野本 由人 先生

三重大学大学院医学系研究科 先進がん治療学講座 教授

野本 由人 先生

鈴木 秀謙 先生

三重大学大学院医学系研究科 臨床医学系講座 脳神経外科学 教授

鈴木 秀謙 先生

田中 寛 先生

塩川病院 ガンマナイフセンター 放射線科

田中 寛 先生

目次
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転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)に対するガンマナイフ治療は、その精度の高さに加えて患者さんの体への負担も少ないことから、近年注目を集めてきました。ガンマナイフ治療は、どのような患者さんに効果が期待できると考えられているのでしょうか。

今回は、三重大学大学院医学系研究科 先進がん治療学講座 教授の野本 由人(のもと よしひと)先生、三重大学大学院医学系研究科 臨床医学系講座 脳神経外科学 教授の鈴木 秀謙(すずき ひでのり)先生、塩川病院 放射線科の田中 寛(たなか ひろし)先生に、転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療の適応や今後の展望などについてお話を伺いました。

野本先生:転移性脳腫瘍に対する治療ニーズの高まりに伴い、近年、日本国内でもガンマナイフなどの定位放射線手術(SRS)の普及が進んでいます。鈴木先生は、外科手術とSRSをどのような患者さんに選択していらっしゃいますか。

鈴木先生:私は、脳内の病変が画像診断や経過から転移性脳腫瘍であると診断できる場合、腫瘍の数が8~10個、直径が2cmまでであれば、外科手術よりもSRSによる治療が望ましいと考えています。また、腫瘍が脳の奥深くにある場合など手術では到達することが難しいケースにSRSが優先されるでしょう。

なお、がんの遺伝子解析により、その患者さんに効果的な治療薬が判明している場合には、薬物治療も併用して治療を行うことで長期にわたる腫瘍のコントロールが期待できます。

一方で転移性脳腫瘍が巨大な場合や、脳内の病変が原発巣のがんよりも先に発見され、それが転移性脳腫瘍であると判断できないときには外科手術が優先されることもあります。後者については外科手術で腫瘍を摘出することで病因を明らかにできるのに加え、もし転移性脳腫瘍であった場合には、腫瘍の組織を使って有効な薬剤を同定する遺伝子検査を行うことも可能です。

野本先生:転移性脳腫瘍の状態から考えて、本来であれば外科手術が望ましいものの、全身状態が悪く、手術の全身麻酔に耐えられないような患者さんもいらっしゃいます。こうした場合には、転移性脳腫瘍に伴う症状を軽減するために身体に負担の少ないSRSを選択することもあります。

野本先生:一方で、どのSRSを選択すべきかについては、治療を実施する医療機関の設備や担当する医師の方針もあるため、患者さんの状況なども踏まえて個別に検討する必要があります。たとえば視神経に接している腫瘍など、精密な放射線照射が求められる場合にはガンマナイフが望ましいと思います。

田中先生:ガンマナイフは頭部の病変に特化した治療装置であり、野本先生がおっしゃるような治療の難しい症例では、特に強みを発揮すると思います。

また、ガンマナイフ治療は、脳に照射される放射線の総量も比較的少なくて済むというメリットもあり、長期の予後が期待されるがん患者さんにとっては良い選択ではないかと考えています。

MN

鈴木先生:装置の進歩によって、より大きな腫瘍や腫瘍の数が多い患者さんに対しても、SRSの適応範囲が広がりつつありますね。

田中先生:そのとおりです。以前のガンマナイフであれば、安全性の問題から直径3cmまでの腫瘍を1回で治療しなければなりませんでした。しかしながら、塩川病院に導入されている新しいマスクシステムを備えたガンマナイフでは、治療を複数回に分けることによって副作用を抑えることができ、やや大きな腫瘍でも安全に治療を実施できるようになっています。

また、こうした大きな腫瘍を治療する際には治療計画の準備に時間を要することも多いのですが、新しいガンマナイフにはそうした計画をサポートする機能も備わっています。そのため、効率的に準備を進めながらスムーズに治療を行うことができるようになりました。

MN

野本先生:転移性脳腫瘍は肺がんの患者さんに認められることが多いため、私たち放射線科医と呼吸器内科医は、定期的にカンファレンスを実施しています。転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療の適応について議題に上がることも多く、最近ではほかの診療科の医師の間でも、ガンマナイフ治療がかなり浸透してきたと感じています。

野本先生

田中先生がいらっしゃる塩川病院は、三重県内で唯一ガンマナイフ治療を行っている医療機関(2022年8月時点)ですが、地域の先生方におけるガンマナイフ治療の受け止め方に変化はありますか。

田中先生:がん治療に携わる先生方や患者さんにガンマナイフが認知されるようになってきたこともあってか、脳神経外科だけでなく、呼吸器内科など原発巣のがん治療を担当する医師が当院を紹介するケースも増えていると感じます。

また、ガンマナイフ自体進化しており、短い治療時間で精度高く治療できます。さらに頭部のピン固定をしなくても治療できるようになったことから、地域の医師が患者さんにすすめやすくなったことも影響しているのではないでしょうか。

鈴木先生:転移性脳腫瘍では密な連携のもと、スピード感のある治療も求められます。たとえば診断当初、ガンマナイフの良い適応となる直径2cm以内の転移性脳腫瘍だったとしても、治療開始が2週間遅れただけで腫瘍が急速に大きくなってしまうというケースも散見されます。治療の予約が取れないなどの理由で治療が先延ばしになってしまう状況は好ましくありません。

その点、田中先生がいらっしゃる塩川病院 三重ガンマナイフセンターは予約がスムーズだと聞いており、数日以内に受診することもできるようです。こうした安心感も、地域からの多数の紹介につながっているのだと思います。

野本先生:近年のがん治療の進歩により長い生存期間が得られるようになった一方で、その経過のなかで出現した転移性脳腫瘍をコントロールしなければならない場面は、今後も増えていくと考えられます。

転移性脳腫瘍に対する治療の目的は、腫瘍に起因した症状を改善することが中心ですが、近年は少数の転移(オリゴメタスタシス)の段階から、薬物治療とともに脳腫瘍に対する治療を行うことで生命予後のさらなる改善も期待されています。ガンマナイフをはじめとしたSRSは頼りになる治療法であり、その重要性は今後ますます高まるのではないでしょうか。

鈴木先生:転移性脳腫瘍に対する外科手術は、腫瘍を摘出できる反面、手術に伴う髄膜播種(ずいまくはしゅ)(がん細胞が脳の髄膜の中に広がってしまうこと)のリスクや、薬物治療を中断せざるをえないといった影響もあります。そのため、私たち脳神経外科医も、常にガンマナイフのような局所制御や薬物治療で乗り切ることができないかと考えながら治療を選択しています。

より効果的かつ安全に転移性脳腫瘍の治療を行うためには、関連する診療科が密に連携しながら、各患者さんに適した治療を組み立てていくことが重要になるでしょう。

MN

田中先生:SRSは、幅広い患者さんに適応できる優れた治療法ではありますが、限界もあります。たとえば、ガンマナイフの適応となる直径1~2cmの腫瘍の場合、その局所制御率(腫瘍が元の大きさよりも大きくならない状態を保つことができる確率)は1年間で約90%といわれており、残念ながら10%ほどは再発する可能性があります。

がん患者さんの予後が長くなったことを踏まえると、今後、再発を経験する患者さんに対して、どのような治療戦略を取るべきか、脳神経外科医や腫瘍内科医とともに議論を深めていく必要があると考えています。

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