院長インタビュー

地域医療と政策医療の二刀流 宇都宮病院の使命

地域医療と政策医療の二刀流 宇都宮病院の使命
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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独立行政法人国立病院機構(NHO)宇都宮病院は、地域医療支援病院および二次救急(病院群輪番制病院)に指定され、栃木県宇都宮市で地域に根ざした医療を提供しています。また、結核などの政策医療も行っています。院長の杉山 公美弥(すぎやま くみや)先生にお話を伺いました。

NHO宇都宮病院は、1929年(昭和4年)に傷痍(しょうい)軍人および結核の療養を目的に設立された宇都宮市立療養所を前身としています。その後、国立療養所から独立行政法人へと姿を変えつつ、現在は結核・重症心身障がい・神経難病の診療機能を維持しながら、急性期医療を提供することで地域医療を担っています。

当院が位置する宇都宮市は、東京駅から東北新幹線で約50分の人口約51万人を有する栃木県県庁所在地です。周辺には当院を含め3つの地域医療支援病院と5つの病院群輪番制病院(二次救急)で当地域の医療を支えています。また、宇都宮市の南方にある獨協医科大学(栃木県壬生町)や自治医科大学(栃木県下野市)も、当院の医療圏からは通院可能な場所にあります。特に当院は獨協医科大学から派遣医師が多く、相互的に強固な連携をとった医療をおこなっています。

当院のルーツの1つでもある呼吸器・アレルギー内科は、今も中心的な診療科の一つです。

私自身も呼吸器、アレルギー、リウマチの専門医であり、獨協医科大学埼玉医療センターでは多くの呼吸器・アレルギー疾患をお持ちの患者さんを診察してきました。現在でも当時と同じく力を入れて診させていただいています。

結核と肺MAC症(非結核性抗酸菌症)においては、当院の歴史の中で多くの実績を積み重ねてきました。また、呼吸器内視鏡(気管支鏡、胸腔鏡)、COPD肺炎睡眠時無呼吸症候群、ニコチン依存症禁煙外来)などの呼吸器疾患に加え、成人アレルギー(難治性喘息食物アレルギーアナフィラキシー原因精査)や膠原病などの専門診療も積極的に行っています。

内科外科の垣根を超えたチーム医療で消化器疾患全般に対応しています。

とくに、低侵襲(傷が小さく体の負担が軽い)な内視鏡や腹腔鏡を用いた手術を積極的に行っており、専門医による難易度の高い手術も数多くこなしています。

たとえば、重症胆のう炎の手術では通常お腹を開いて胆のうを摘出することが多いですが、当院では腹腔鏡下でほぼすべてが完結する手術を行っており、安全性においても学会で高い評価を得ています。腹腔鏡手術では獨協医科大学病院の研修施設としての役割も担っており、普段から強い連携で相互に協業しています。

傷痍軍人の診療から始まった整形外科は、呼吸器の結核と同様に当院のルーツの1つであり、当院を支えてきた屋台骨です。

現在は、膝関節、股関節、脊椎に特化した診療を提供しています。手術に対する評価は高く、連日、多くの患者さんの紹介をいただいております。最大の特徴は、手術だけでなく、リハビリテーションも当院で行う点にあります。急性期病棟で手術が終了すると、地域包括ケア病棟へ転棟してリハビリテーションが始まります。手術から身体機能が改善して退院するまで、主治医が一貫して責任を持った診療を行っています。

地域の要望を受け、獨協医科大学から常勤医を迎え2023年4月に開設しました。

開設当初から多くの紹介患者を頂き、2023年度は開設初年度ながら135件の手術を行いました。獨協医科大学の全面的なサポートを受け、難易度の高い手術は獨協医科大学から応援医師が来て行っています。更なる診療体制充実にむけ、病院としても力を入れている診療科です。

脳神経内科では、大学病院と協力しながら神経難病病棟を運営し、神経難病の専門的な医療を提供しています。また、神経難病専門外来を開設し、予約制で診療を行っています。

神経難病は、パーキンソン病重症筋無力症など、原因や治療法が明確でない神経系の病気です。現代の医療では完治に向けた治療は難しいのですが、当院では少しでも日常で生活がしやすくなるような方法のご提案が可能です。また、介護されるご家族のサポートとなるよう、レスパイト入院(介護の方に休息期間を提供する目的で一時的に患者さんが入院すること)にも対応しています。診療だけでなく在宅療養や介護の紹介など、少しでも日々の暮らしが楽になるよう、当院では総合的なお手伝いをさせていただいています。

当院の小児科は、重症心身障がいに特化した医療を提供しています。

重症心身障がいは重度の肢体不自由と知的障がいを併せ持つ重い障がいが重複している状態を指しており、その原因は低酸素症や低出生体重であるなどさまざまです。当科ではけいれん発作、呼吸管理、強い筋緊張といった、家庭ではなかなか対応が難しい症状に対する治療を行いつつ、健康増進やリハビリテーションなどにも取り組みます。

また、治療を行うだけでなく、ご家族を支えるサポートも重視しており、短期入所(ショートステイ)や日中の一時支援もおこなっています。日中一時支援は、宇都宮市内にお住いのお子さんで適応上の課題や不登校、発達障がいのお子さんを対象にしたサービスですが、近年ニーズが高くなっています。

また、2024年4月から障がい者歯科を専門とする歯科医が常勤となり、より充実した診療体制となりました。

地域医療において、開業医の先生方との連携は生命線であると考えています。そこで広報誌の制作に力を入れ、患者さんだけでなく地域の先生にも当院の強みや実績、得意とする診療などを知っていただける内容としています。図や表を豊富に掲載することで、多忙な中でも読みやすい構成にしています。大切な患者さんを安心してご紹介いただけるよう情報を積極的に公開しているのでぜひご覧ください。

広報誌「わかあゆ」 一覧ページ
https://utsunomiya.hosp.go.jp/about/cnt1_00067.html

このような広報活動や日々の地域連携により、2023年度は紹介率78.2%、逆紹介率109.4%へ増えております。これからも当院は強い信頼関係を築くべく、地域医療に貢献していきます。

多くの病院で見られる患者さんからの投書箱ですが、当院では “病院長への手紙”という名称で設置し、私が必ず目を通して可能な限り直筆でお返事をするようにしています。そのためかお手紙の投書数が大幅に増えており、約4割を占める感謝のお手紙はスタッフ一同心の支えになっています。中には実現が難しいご要望やお叱りのお手紙もありますが、当院の成長の糧としてありがたく拝読し、真摯な気持ちで誠実にお返事を作成しています。

お手紙のやり取りは、広報誌でも一部公開していますので、ぜひご覧ください。これからも多くの患者さんやご家族からのお手紙をお待ちしています。

当院を一言で表すなら、“地元密着医療と政策医療を提供する二刀流の病院”といえるでしょう。一般の病院では難しい分野での役目と地域の皆さんのニーズにそった医療の提供、両方に応えられるよう日々努力しています。その結果、平均在院日数は、コロナ禍前には約18日だったのに対し、2024年現在は約12日と大きく短縮することができ、入院患者数も約2割増えました。

治療の主役は患者さん、そして地域の皆さんです。当院のスタッフには「患者さんを自分の家族だと思って対応しよう」と話しています。単に医療を行うだけでなく患者さんが気持ちよく治療に打ち込めるよう、接遇面でも定期的に外部の講師を招いて勉強するなど、病院スタッフの教育にも注力しています。

当院の長い歴史の中で時代に合わせて姿を変えてきたように、常に変化し続ける社会においてこれからの医療も変わっていく必要があるでしょう。決して容易なことではありませんが、地域に愛され必要とされる病院であるよう皆様との対話を重視して、一層の努力を重ねてまいります。

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