熊本市中央区にある熊本泌尿器科病院は、熊本初の泌尿器科専門病院として1957年に誕生しました。開院から半世紀以上が経った現在は泌尿器科と人工透析を柱に診療し、地域住民の皆さんのQOL(生活の質)の維持・向上に力を注いでいます。
そんな同院の院長を務めるのは、早くから女性の泌尿器トラブルに取り組んできた井 秀隆先生です。堅実な人柄で患者さんや病院職員からの信頼も厚い井先生に、同院が担う役割や今後の展望についてお話を伺いました。
当院は1957年に熊本初の泌尿器科専門病院として設立されました。その後、1973年には人工透析をスタートし、以降は泌尿器科と人工透析を両輪に据えて診療を続けてまいりました。総病床数は52床ですが、一般病棟の病床28床は全て個室となっており、一部を除き無料であり、快適な療養環境をご提供しています。
当院の泌尿器科は1988年に熊本県で第1号となる体外衝撃波結石破砕装置(ESWL)を導入するなど結石治療を得意としており、2023年のESWLの症例数は延べ回数1,123件を数えるなど県内で最も多い数です。
泌尿器科の専門医は、当初の3人から8人に増え、泌尿器科のベテラン医師が揃っています。
一方の人工透析は高齢化社会の進行に伴って患者数が増加したこともあり、当初の透析ベッド数を7から102へ拡充したほか、夜間の睡眠時間を利用して行う深夜透析にも対応しており、仕事や日常生活と両立しながらの透析治療が可能です。
このように、当院では泌尿器科と人工透析を専門とする病院として、一人ひとりの患者さんに合わせた治療や療養環境づくりに励んでいます。
当院の泌尿器科は尿路結石、排尿障害をもたらす前立腺肥大症、女性泌尿器科の診療を特色としています。
まず、尿路結石の治療では体の外から衝撃波を当てて、結石を破砕する体外衝撃波結石破砕術(ESWL)に対応しています。この手術は体の負担が少なく、結石治療では最優先される治療法です。そのほか、経尿道的尿管砕石術(TUL)や経皮的腎砕石術(PNL)といった内視鏡を用いた手術も行っており、症例に応じた適切な治療法を提案し、施行しています。これらの治療について、当院の結石治療は泌尿器科のすべての医師で対応しています。
次に、排尿障害をもたらす前立腺肥大症の治療では新しいレーザー機器を導入して治療を行っています。2007年より経尿道的前立腺レーザー切除術(HoLEP)を南九州で初めて開始し、その後、レーザー前立腺蒸散術を開始し、当初は非接触型レーザーのPVP、その後は接触型のレーザーであるCVPを施行しています。
排尿障害とは、膀胱に尿を溜める蓄尿機能と尿を体外に排出する排尿機能のいずれかに異常をきたす状態を指し、排尿に関する症状は日常生活に大きな影響を与えます。このような排尿障害に対して、当院では膀胱や尿道の機能を詳しく調べることができる“ウロダイナミクス検査”も行っております。
最後に女性泌尿器疾患の診療では、40歳以上の3〜4人に1人が悩んでいる尿失禁に対して、当院は1990年代より尿失禁手術に取り組んでいます。腹圧性尿失禁には安全性の高い手術でもあるTOT手術を行うほか、難治性の切迫性尿失禁には2018年に仙骨神経刺激療法(SNM)を導入、2020年にボツリヌス療法を開始するなど手術オプションも揃っています。
泌尿器科と婦人科の境界領域である骨盤臓器脱の治療にも早くから取り組み、メッシュ手術は腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)と経腟メッシュ手術(TVM)を行い、それに加え非メッシュ手術(NTR)も組み合わせて施行しています。
また、がんの診療にも対応しています。腎がんや腎盂尿管がん、膀胱がんの手術も行っており、前立腺がんの診断、薬物療法も数多く行っております。がんに対する集学的治療、高度医療、放射線治療などが必要な場合は基幹病院へ紹介しています。
女性泌尿器科疾患外来も設けており、一か月のうち一週間ほどは女性泌尿器科医もその外来に加わっています。
毎週月曜日の15時から16時まで女性泌尿器疾患に関する無料電話相談も受け付けています。「尿が近い」「下腹部が痛い」などのお悩みがありましたら、お気軽にご相談いただければと思います。
無料電話相談の詳細はこちらをご覧ください。
人工透析を必要とする慢性腎臓病(CKD)はご高齢の方に多くみられる病気です。昨今の高齢化により透析患者さんは右肩上がりに増え、それに伴って当院も設備の拡充に努めてまいりました。2024年6月現在、人工透析のベッドは102あり、一医療機関のベッド数では県内でも多い方です。また、深夜帯(午後10時~翌朝6時)の透析にも対応することにより、社会生活との両立も支援しています。
透析患者さんや高齢患者さんはほかの病気をお持ちのことも多いため、当院では内科、心臓血管外科、腎臓内科、泌尿器科、皮膚科などの多診療科の医師が透析治療に加わっています。このように、医師、看護師、臨床工学技士、臨床検査技師、管理栄養士など多職種がチームとなって、透析治療を受ける患者さんをサポートしています。
当院は一人ひとりの患者さんの病状に合わせて、多部署・多職種の職員が連携して治療にあたるチーム医療を心がけています。
たとえば、結石の治療は泌尿器科の医師全員で行うほか、腹腔鏡手術を得意とする医師や前立腺レーザー治療を得意とする医師、女性泌尿器科担当医師など各自の得意分野、担当分野が重なりながら診療を行っています。
患者さんにとって満足いただける医療を提供するためには、様々な得意分野を持つ医師が相互に連携し、協働しながら治療に取り組むことが大切であると考えています。そのために当院では、他職種・他部署でも職員同士が日頃からコミュニケーションを取れる関係構築を心がけています。
こうした医療体制を充実させると同時に、職員にとって働きやすい環境づくりを進めることが必要です。職員が誇りとやりがいを持って仕事をすることが、患者さんによりよい医療をご提供することにつながると考えているからです。
そのため、私自身は医師やコメディカルスタッフ、事務職の区別なく話しやすい雰囲気づくりを心がけており、経営者である野尻弘明理事長のリーダーシップの下、職員にとって働きやすい環境の実現に努力しています。
さらに、当院では男性の育休取得率が100%であることから、2023年に仕事と子育ての両立支援に積極的に取り組む企業として、厚労省より“くるみん認定”(子育てサポート企業)を受けました。当院ではいつも笑顔でフレンドリーな職員が患者さんをお迎えしておりますので、安心して受診していただければと思います。
私の兄は泌尿器科医でしたが、27歳のときに事故で亡くなりました。私は志半ばで亡くなった兄の後を追うようにして泌尿器科に進み、一般泌尿器科に加えて女性泌尿器科の診療にも精いっぱい取り組んでまいりました。
2016年に院長を拝命して以降も、患者さんのことを第一に考えて“何でもやる”という姿勢が変わることはありません。常に相手の立場で考え、自分の中で決めた原則に基づいて行動する……。職員が医療に真摯に取り組める環境を整えることが今の私の仕事だと思っています。一人ひとりの患者さん、及び当院に関わった方々に満足していただける医療をご提供できるように努めてまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。