DBS脳神経治療は、劇的な症状改善が見られる治療として高い評価を得ています。どのような病気にもっとも効果があるのでしょうか。外科医師、湘南医療大学副学長の片山容一先生にうかがいます。
DBSは、不随意運動や神経に起因する痛み(難治性疼痛など)の症状を緩和することに高い効果を発揮します。特に近年積極的に行われているのは下記の3つです。
パーキンソン病は、不随意運動や振戦(手・足・胴体が継続的に震えてしまう症状)、体が自由に動かせない(踏み出そうとしても足が前に出ないなど)という病気です。DBSを行うと振戦の症状が軽くなり、体が自由に動くようになります。
パーキンソン病は、大脳の下に位置する中脳の黒質にあるドパミン神経細胞が減少することで起こります。ドパミン神経が減ると体がスムーズに動かなくなり、震えが起こりやすくなるためです。ドパミン神経細胞が減少する理由はまだ完全に解明されていませんが、現在はドパミン神経細胞の中にレビー小体(Lewy Bodies)と呼ばれる細胞内封入体が蓄積することが関係していると考えられています。
ジストニアとは、筋肉の異常な収縮によって全身や体の一部がねじれたりする病気です。2001年にジストニアの患者さんに初めてDBS治療を行いましたが、私自身も驚くほど不随意運動の症状が改善されました。
ジストニアは、脳の大脳基底核や神経系統の障害により、持続的かつ不随意的に筋肉の収縮やこわばり(固くなること)が起きる病気です。筋肉の収縮や筋肉のこわばりを「ジストニア運動」といい、このジストニア運動を伴う疾患をジストニアと呼んでいます。体が歪むほか、筋肉が自分の意思通りに動かなくなり、異常な動作が自分の意図とは関係なく起きてしまったり異常な姿勢になったりします。
脳卒中を発症した後の麻痺や震え、疼痛の後遺症も脳の働きの異常によるものです。1990年に、体の突っ張りに対してDBSを行ったところ麻痺が軽減されることを発見しました。脳卒中後の麻痺や不随意運動に対しても効果的な治療法です。
治療の開始当初、DBSはパーキンソン病の進行を止めることも期待されていました。しかし残念ながら進行を止めるまでには至らず、現在では患者さんのQOLの向上が主な目的です。病気自体は治らないものの、この治療によって症状が劇的に改善される方は多いです。パーキンソン病は進行性のため、発症から10年程度が経過すると薬だけでは十分な治療ができなくなり、ほとんどの方がそこからDBS治療への移行を検討されます。脳に電極を埋め込むことに恐怖感があることは理解できますし、もちろん、10年経ってから開始しても決して治療が遅過ぎることはありません。
さらにいえば、ジストニアの場合は進行性ではありませんので、治療を行っても行わなくても病気自体に影響が及ぶことはありません。しかし、もし早く治療を行ったなら「症状を我慢しながら過ごす10年間」が「より生活しやすい10年間」になる可能性があるのです。
また、パーキンソン病の方の場合、レボドパという依存性の高い薬を服用しています。身体症状が改善されれば服用の必要がなくなる薬なので、レボドパがやめられることも患者さんにとって大きなメリットといえるでしょう。
青森大学 脳と健康科学研究センター長、青森新都市病院 総長、日本大学脳神経外科 名誉教授
片山 容一 先生の所属医療機関
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