インタビュー

白内障の治療はいつ受けるか

白内障の治療はいつ受けるか
赤星 隆幸 先生

三井記念病院 元眼科部長、日本橋白内障クリニック・秋葉原アイクリニック 委託執刀医

赤星 隆幸 先生

この記事の最終更新は2016年04月07日です。

失明を防ぐたけでなく、術後の視力の質まで上げることができるようになった白内障手術。病気の治療においては、早期発見早期開始がもっともよく提唱されていますが、私たちは白内障に気づいたらいつ、どんなタイミングで受診すればいいのでしょうか。

たとえば、車の運転をする方は、0.7の視力がないと運転免許の更新ができません。ですから、運転をする人にとっては「視力が0.7を切ったら」というのが正しいタイミングです。ただ、タクシーの運転手さんなどは視力1.0でも、手術を希望して受診される方もいらっしゃいます。それは、視力は正常でも、白内障の種類によっては、走行中の歩行者が見えにくかったり、対向車のライトでハレーションを起こしたりするグレア難視が起こるからです。

ですから、あくまで「自分の」生活上、不便だな、困るな、ということが増えたと感じたら、ぜひためらわずに白内障の手術を相談していただきたいと思います。

白内障の手術は、不自由があったら手術をする、というのが原則ですが、不自由がなくてもできるだけ早く手術をしたほうがいいケースがあります。

進行とともに近視の度が強くなり、水晶体の核が茶色く変色し、ついには真っ黒になってしまう核白内障は早く手術をしたほうがよい白内障の代表格です。見えている視界の色の変化が強いですし、核が硬くなると、これを乳化吸引するのに多量の超音波エネルギーが必要となり、破嚢や角膜内障害といった手術の合併症のリスクが高くなってしまうからです。自覚症状がないので、こまめに検査が必要です。

水晶体と角膜の間の空間は前房と呼ばれ、房水という特殊な液体で満たされています。そこが浅い方は、手術の際に角膜内皮細胞を傷めてしまう可能性が高くなります。この細胞は角膜を透明に維持している極めて重要な細胞ですが、加齢によって細胞の数が少なくなると手術のリスクがさらに高くなります。術後、角膜が白く濁ってしまい回復しない場合は角膜内皮細胞の移植が必要になります。

以前のコンタクトレンズは酸素の透過性が非常に悪かったため、角膜内皮障害を起こしている可能性があります。目安としては、コンタクトが普及しはじめたおよそ30年~40年前から使用している方。また、使い捨てレンズを長期にわたって無理に使用していた場合も危険性が高くなります。

水晶体はチン小帯というクモの巣のような細かい糸状の組織で毛様体に固定されています。このチン小帯が弱っている方は早期の手術が必要です。アトピーやアレルギー性結膜炎で目を強くこすったり叩いたりした方、目をぶつけるような外傷の既往がある方、偽落屑症候群がある方などは、チン小帯が弱っている可能性があります。

チン小帯が弱いと術中に水晶体が目の奥に落ちてしまったり、本来であれば残してその中に眼内レンズを移植する水晶体のカプセルがすべて取れてしまい、眼内レンズが入らなくなってしまいます。そうした場合は、眼内レンズをを白目に直接縫い付けなければならなくなるため、術後に炎症や乱視が大きくなり視力回復に長い時間を要することになってしまいます。

水晶体と硝子体が先天的に癒着している白内障。白内障の中身を取り除いた際に水晶体を包んでいるカプセルが破れ、その処置に時間がかかることになります。

水晶体が真っ白になってしまう白内障。若年者の白内障は進行が極めて早く、アトピー性皮膚炎の患者さんによく見られる。20代で発症することもよくあり、手術を待っている数週間程度で真っ白になってしまうほど進行が早い。

白内障の手術は、眼内レンズの寿命も半永久的に使用できるため1度だけで済みます。しかし、ごくまれに、眼内レンズを包んでいる嚢に濁りが生じる、「後発白内障」を術後数年で発症することがあります。眼内レンズを移植するために残した水晶体を包んでいる透明なカプセルと眼内レンズの間に、水晶体の細胞が増殖して濁りをつくる病態です。カプセルは眼内レンズを移植するために必要ですが、いったん眼内でレンズが固定されてしまえば不要な膜ですのでYAGレーザーを使って、後嚢の中央に小さな穴をあける簡単な処置で、手術直後と同じ視力を回復させることができます。手術時間も5分程度で済みますので全く心配はいりません。後発白内障は手術法、レンズのタイプによってその頻度が異なります。

白内障は、適切な時期に、適切な方法で適切な眼内レンズを使用して手術すれば素晴らしい視力を回復することができます。確かに、手術時間も短くなり患者さんの負担は大幅に減りました。しかし、手術時間が短いからといって決して簡単な手術ではありません。手術直後のケアを怠ると失明に至ることもあります。術後の点眼をしっかり行わなかったり、きたない手で目をこするなどして細菌感染を起こすと、眼内は抗生物質を投与しても薬の効果が届きにくい場所なので重篤な視力障害を残すことになります。ですから、手術でよく見えるようになっても、手術直後の管理が非常に重要なのです。

手術は恐れず侮らず、適切な時期に的確なレンズと方法で受けることが重要です。臆することなく、良い手術で是非術後の人生を楽しんでいただきたいと思います。

 

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