2013年から国立がん研究センターでは医療機器の開発に取り組んでいます。この取り組みの中心となって動いていらっしゃるのが、国立がん研究センター東病院 大腸外科長ならびに先端医療開発センター 手術機器開発分野長の伊藤雅昭先生です。本記事では、国立がん研究センターが医療機器の開発に取り組む意義と、実際に伊藤先生がどのような活動を行っているのかお話しいただきました。
2013年から、私を主導に国立がん研究センターでは医療機器の開発に着手しました。現在国立がん研究センターには、医療機器開発のグループがいくつかあります。そのなかでも私が携わっているものにNEXTプロジェクト(次世代外科・内視鏡治療開発センター)と株式会社A-Tractionがあります。
私が医療機器の開発に着手した背景には、医師が本当に必要とする医療機器が日本で開発されていないという状況がありました。現在日本で使用されている医療機器のほとんどが海外で開発されたものであり、日本で開発された医療機器が成功した事例はこれまでほとんどありませんでした。診断機器では東芝や日立などメジャーなメーカーも多いものの、手術中に使用される機器(治療に携わる医療機器)においては日本で開発されたものはほとんどありません。
日本で医療機器開発がうまくいかない理由は、医療機器開発のシステムが構築されていないことだと考えています。たとえばシリコンバレーでは、医師がこのような医療機器が欲しいと考えた時には、医師と投資家とエンジニアが組んでベンチャー企業をつくり医療機器の開発を行います。医師が欲しいと考える、そして世の中が変わるような医療機器をつくる流動的なシステム(=エコシステム)があるのです。このようなシステムがアメリカではうまく働いていますが、日本では残念ながらない状況です。
日本ではどのように医療機器が開発されるのかというと、医療機器の開発は基本的に中小企業が中心です。中小企業が自分たちの技術でつくれる医療機器を開発し、それを医師に提案し、医師が実際に使ってみるという仕組みです。このような開発は多くが失敗すると考えています。
なぜなら、実際に医療機器を使用する医師の意見がない状態で開発された医療機器は、多くの医師のニーズになりうるものではないからです。医療機器の開発で非常に重要なのは、その医療機器が一般的なニーズ(世界的なニーズ)、普遍的なニーズであるのかという点です。このようなニーズを医療機器の開発前から吟味する必要があると考えています。現場で使う人間が開発に携わらない状態で、本当に必要とされる、将来も使用される医療機器が開発できるとは考えにくいのです。このようなことを考え、私は3年前から医師と日本の工学士と一部の企業と組んで医療機器を開発する「NEXTプロジェクト」をゼロから始めたのです。
NEXTで開発しているものは高度の医療機器だけではなく、練習用の縫合糸や医師の手術中の疲労を軽減する「サージカルニーレスト」などの医療周辺機器も含まれます。現在までに10案件以上の医療機器の開発を行っており、実際に製品になったものもあります。製品になったもののひとつに「サージカルニーレスト」があります。サージカルニーレストは、手術中立ち続ける医師の負担を軽減するために開発されたひざ専用の椅子です。京新工業と共同して開発し、製品化しました。テレビで取り上げられたり学会などで展示していますが、非常に評判はよいと感じています。
ほかにも、肛門ドレーンがあります。直腸がんの手術では、がんの切除後に腸と腸をつなげます。しかし、腸と腸がうまくつかないリスクが1割程度あり、そのつなぎ目から便が漏れると、腹膜炎になり命を落とす危険性がでてきます。これを回避するために一時的に人工肛門をつけるケースがあり、人工肛門によって吻合部が守られます。ところが現在、人工肛門に代わるものとして、管をお尻から入れて腸の内容物を管から排出し、吻合部を安静にするという方法が行われています。その際に使用する肛門専用のドレーン(管)を村中医療器株式会社と開発しており、2016年中には製品になる予定です。製品が完成したのちは、全国の患者さんに対して開発した肛門ドレーンの臨床試験を行い、有効性を示す段階となります。私たちのグループは、これらの製品の有効性を示すところまでが役割であると考えています。
国立がん研究センターが医療機器を開発するメリットは、医師の真のニーズに合ったものを開発できることももちろんですが、開発したものが患者さんにとって有効であるかを確かめるところまで責任をもってできるという点です。患者さんに届けるところまで責任をもつことが非常に重要であり、国立がん研究センターが関わることの大きな意味であると考えています。
株式会社A-Tractionは国立がん研究センターの認定ベンチャー企業です。ロボットを用いた手術には、「ダ・ヴィンチ手術」があります。現在保険適応となっているのは前立腺がんと腎臓がんのみであり(前立腺がんは2012年、腎臓がんは2016年4月から保険適応)、有用性や費用面を考えるとすべてのがんや患者さんに適応となるのには時間がかかると考えられます。
また大腸がんにおいては、腹腔鏡手術でカバーできる部分が多くあるのです。そのほかにも、ダ・ヴィンチ手術は3人の医師が必要となり、これは腹腔鏡手術に必要とする人数と同じです。ロボット手術の意義としては、人手を減らすことができる、腹腔鏡手術よりもレベルの高い手術が行えることではないかと考えています。ですから、これらを踏まえて株式会社A-Tractionでは今後必要とされるロボット手術の開発を行っています。
国立がん研究センター東病院 大腸外科長、 国立がん研究センター/ 先端医療開発センター 手術機器開発分野長 、株式会社A-Traction 取締役、日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会 ストーマ認定士
国立がん研究センター東病院 大腸外科長、 国立がん研究センター/ 先端医療開発センター 手術機器開発分野長 、株式会社A-Traction 取締役、日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会 ストーマ認定士
日本外科学会 外科専門医・指導医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医・大腸肛門病指導医日本癌学会 会員日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器がん外科治療認定医・消化器外科指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本臨床外科学会 会員
外科医としての経歴の多くを国立がん研究センター東病院で過ごす。大腸癌の中でも特に肛門に近い直腸癌 に対する外科治療のパイオニアとして 1000 例以上の症例経験を持ち、国内外での手術招聘も多数ある。ISR などの究極的肛門温存手術や先進的内視鏡手術の治療開発に従事し、近年では日本発の革新的手術機器開発 の中心メンバーとして活躍する。
伊藤 雅昭 先生の所属医療機関
関連の医療相談が14件あります
抗がん剤治療で癌が消える(画像で見えない)場合はありますか?
現在、直腸癌を切除して次に肝臓に転移した癌(今のところ1か所)の切除の前に抗がん剤治療を実施しております。抗がん剤治療の繰り返しで効果があり腫瘍マーカーの値が小さくなっております。今度MRI、CT検査で転移巣の状況を確認する予定です。そこで (1)腫瘍マーカーの数値だけを見ると標準値です。転移巣の癌が消えている可能性はありますか? (2)もし消えていた場合、切除しないと思いますが、どのような治療になりますか? 以上、宜しくお願い致します。
腹腔鏡手術後の傷口の化膿について
7/22に直腸の腹腔鏡手術を受けました。 7/29に退院、お腹の傷口はテープも取れて順調に治っていますが、六ヶ所の傷口のうち一ヶ所が傷口が開き化膿してるようです。その一ヶ所は元々火傷?のような傷口で他の傷口とは違う様相でした。最初は透明な液体がガーゼに染み出ていましたが、退院後一週間経ったあたりから黄色がかった液体が出てくるようになり、いまは傷口が開いたような感じになっています。 黄色がかった液体は異臭がするため、膿みと思います。 8/11に手術後の初外来のため主治医に見せようと思っています。 それまで今から中1日あるのですが、その間、傷口をどのようにしておけば良いかご教示くまさい。 例えばガーゼをして保護しておいた方がよいのか、それとも出来るだけ乾燥させた方が良いのかなど。なお、ガーゼをすると蒸れるのか、さらにジュクジュクしてしまいます。 傷口に痛みは無く、傷口の周りが炎症を起こしているようなこともありません。 いまは日中は乾燥させ、就寝時は衣服で擦れるためガーゼをしています。
直腸がんステージ1(内視鏡手術済)の多部位への転移はある?
会社の健康診断の便潜血検査で陽性が出た為大腸ファイバースコープ検査をし、その際ポリープがあったとの事でその場で切除してもらいました。その後切除した部位の病理検査をしていただき僅かに粘膜下まで浸透したステージ1の直腸がんであると告げられました。その際医師から早期に発見出来ラッキーだった、切除したので完治してると思うけど念の為 がんセンターを紹介するので再診してほしいとの事で昨日行って来ました。なんだかぶっきらぼうな医師で6月9日に胸部から骨盤部のCTを撮り多部位への転移がないか確認するとの事になりました。私もその場でちゃんと聞けば良かったのですが、①CT検査がそもそも1か月半も先で大丈夫なのか、②もし転移していたらどうなるのか③ステージ1の直腸がんは治るのかお教え下さい。毎年会社の健康診断は受けており今まで特に悪い所もなく普段も至って普通に元気に生活しておりそれだけにショックです。
結腸癌について
母親なのですが 2週間近く排便がなく 検査したら 12月始めに 結腸癌3型と診断されました それから1週間に 1回から2回のペースで 通院しながら検査していて 26日に開腹手術となりました 開腹して癌が 進行していたら すぐ閉じると言われた みたいなんですが 癌が発覚してから 手術までの日数が かかりすぎてると思い 開腹して手遅れで閉じた ってなったら もっと早く開腹手術を していればって 絶対思うと思います 癌の発覚から手術までの 日数は これぐらいでしょうか 母親が 必ず癌に負けず 完治するのを願っています
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