胸部大動脈瘤は大動脈瘤の一種です。大動脈瘤とは、心臓から全身に血液を送る大動脈が膨らんで瘤のようになる病気で、できる場所によって主に胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤の2つに分類されます。
胸部大動脈瘤は突然破裂することがあり、破裂すると体内で大量の出血が起こってショック状態となり、死亡することもあります。そのため早期発見・治療が非常に重要となる病気です。では、胸部大動脈瘤を発症するとどのような症状があるのでしょうか。また、原因や治療には何があるのでしょうか。
胸部大動脈とは、体の中で最も太い大動脈の一部で、心臓から送り出された血液が最初に通る血管です。心臓に近い場所から順番に、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈の3つに分かれます(上図参照)。
この胸部大動脈に瘤ができることを胸部大動脈瘤といい、こちらも瘤ができる部位によって「上行大動脈瘤」「弓部大動脈瘤」「下行大動脈瘤」と呼ばれます(上図参照)。
胸部大動脈の約60%が破裂するまで無症状であるといわれています。しかし、未破裂でも症状があることもあり、その場合は動脈瘤が周囲の組織を圧迫することで声のかすれや誤嚥、嚥下困難、顔のむくみ、咳、悪心・嘔吐などが起こります。また、破裂した場合は胸や背中が突然激しく痛んだり、喀血(咳に血が混じる)が見られたりすることもあります。
なお、破裂すると死亡率は約20~50%になるとされ、胸部大動脈瘤の大きさによる1年間の破裂率は、4cm以下で0%、4~5cmで0~1.4%、5~6cmで4.3~16%、6cm以上で10~19%といわれています。
胸部大動脈瘤の主な原因は動脈硬化で、血管の壁が硬く脆くなることで生じます。そのほか敗血症などの感染性、炎症性疾患などによって発症する場合もあるとされています。
なお、動脈硬化の危険因子は、高血圧や脂質異常症(血液中の悪玉コレステロール値が高い、または善玉コレステロール値が低い状態)、喫煙、加齢などが挙げられます。
胸部大動脈瘤の治療法は、手術または内科的治療の2つです。大動脈瘤が大きいなど破裂する危険性がある場合は手術を行い、破裂の可能性が低い場合は内科的治療で経過観察をします。
胸部大動脈瘤が根治できるのは手術のみです。一般的に大動脈瘤の大きさが6cm以上となると手術が推奨されますが、拡大の速度や合併症の有無なども踏まえて手術の実施を検討します。
手術には“人工血管置換術”と“ステントグラフト内挿術”の2種類の方法があり、大動脈瘤の場所や状態によって選択されます。人工血管置換術は大動脈瘤の部分を人工の血管に置き換える手術です。一方ステントグラフト内挿術は足の付け根の血管から細い管(カテーテル)を入れ、大動脈瘤がある箇所に留置する方法です。
CTなどで胸部大動脈瘤の大きさを測定して6cm以下の場合に内科的治療が検討されます。ただし、定期的にCTやMRIで画像検査を行い、大動脈瘤の大きさや形の変化を評価した結果、必要があれば手術を行うこともあります。
内科的治療の内容は、主に大動脈瘤の原因となる動脈硬化の危険因子の管理や治療であり、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙などに焦点を当てて行います。
血圧管理も重要で、収縮期血圧(一般的に“上”と呼ばれる血圧)を105~120mmHgにする必要があるとされています。血圧を下げる目的ではβ遮断薬を用いることが一般的で、降圧が不十分な場合はほかの降圧薬も追加で使用することがあります。さらに、患者自身が喫煙、暴飲暴食、過労、睡眠不足、精神的ストレスを避けるなどすることも、動脈硬化の進行を抑えるために非常に重要です。
また、禁煙や日々の血圧測定は手術するしないにかかわらず日常生活で心がけるとよいとされています。
胸部大動脈瘤が破裂した場合の死亡率は約20~50%となるにもかかわらず、発症の前兆は少ないとされています。そのため、高血圧や脂質異常症患者、喫煙者(喫煙習慣がある人)、高齢者(特に65歳以上)など、リスクがあると考えられる場合は日頃から予防を心がける必要があります。具体的な予防法としては減塩(食塩は1日6g未満)、禁煙などを心がけるとよいですが、いずれにせよ医師の指示のもと行うようにしましょう。
また、胸部大動脈瘤(動脈硬化)のリスクは生活習慣病の原因とも重なるため、定期的な健康診断などで健康状態をチェックして気になる症状がある場合は心臓外科などの受診を検討するとよいでしょう。
横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 部長
横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 部長
日本心臓血管外科学会 心臓血管外科修練指導者・心臓血管外科専門医日本外科学会 外科専門医・指導医
心臓血管外科全般を専門とし、2016年9月より須賀市立うわまち病院 心臓血管外科部長を務める。自治医科大学卒業生として秋田県の僻地病院勤務の後、自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科に入局。大動脈疾患や弁膜症、虚血性心疾患などの数多くの重症、難易度の高い手術症例を経験し、若手の指導医にも精力的である。インフェクションコントロールドクター、NSTディレクターとして病院内の総合的な役割も担ってきた。湘南鎌倉総合病院心臓血管外科部長、春日部中総合病院心臓血管外科部長を歴任し、2009年には横須賀市立うわまち病院心臓血管外科も開設を手掛けた。今回の横須賀赴任は二回目で、赴任後は積極的に緊急手術を受け入れ、急速に手術症例が増加している。現在も、自治医科大学附属さいたま医療センターおよび関連施設で手術指導をしている。近年は心臓手術の約半数で小開胸アプローチによる低侵襲手術を実施している。
安達 晃一 先生の所属医療機関
「胸部大動脈瘤」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。