自分の技術に自信を持てるだけの努力を

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自分の技術に自信を持てるだけの努力を

“できない理由”を徹底的に考え、壁を乗り越え続ける山本 匠先生のストーリー

国立国際医療研究センター病院  形成外科・診療科長 国際リンパ浮腫センター・センター長、リンパ超微小外科臨床修練プログラムディレクター
山本 匠 先生

「オペがしたい」という思いを抱き、外科医になることを決意

私は大学進学時、医師になるか物理学者になるか、悩みながら東京大学へ進みました。東京大学では、入学後2年間は全員が教養学部に所属し、さまざまな分野の基礎的な知識を学びます。もともと、自然科学に興味があり、自身が突き詰めてみたいと感じる分野もいくつかあったため、どのような道に進むかを考える日々でした。

2年生になったある日、当時の東京大学医学部第二外科教授(現・東京大学名誉教授)の幕内 雅敏(まくうち まさとし)先生による生体肝移植*の様子を見学する機会がありました。そのダイナミックな手術を目にした私は、何とも表現しがたいほどの大きな衝撃を受けるとともに、「私もこんな風にダイナミックなオペをしてみたい」という強い思いに駆られたのです。こうして私は、生体肝移植の見学をきっかけに医師、それも外科医になることを決意しました。そして、3年生になると、毎週幕内先生の研究室に通い豚の生体肝移植の手伝いをさせてもらうなど、肝移植の実験とオペを繰り返していました。

*生体肝移植:健康な方の肝臓の一部を患者さんに移植すること。肝臓を提供する側、提供される側の2人が同時に手術を受ける。

自分にしかできない手術を習得したかった

4年生を終えるまで毎週幕内先生の研究室に通う生活をしていた私は、5年生になり、現在の専門となるスーパーマイクロサージャリー*に出会ったのです。当時、東京大学医学部には、3~6年生全員に対して教員の方々が進路などの相談相手となるチューター制度がありました。私が5年生になった年、私の担当となったのが当時の形成外科の教授、光嶋 勲(こうしま いさお)先生(現・広島大学病院 国際リンパ浮腫治療センター 特任教授)でした。私自身は、もともと生体肝移植で血管をつなぎ合わせるという手技を行っていましたが、それよりもさらに細かい血管を扱うスーパーマイクロサージャリーという分野に光嶋先生が非常に熱心に取り組んでいたため、強く興味をひかれました。

スーパーマイクロサージャリーを知ってからは、幕内先生、光嶋先生、どちらの研究室にも通い、生体肝移植とスーパーマイクロサージャリーの両方を経験させていただきました。それでも、最終的にスーパーマイクロサージャリーを扱う形成外科へ進むことを決めた理由としてもっとも大きかったのは、自分にしかできない手術を習得して患者さんを救いたいという思いでした。

学生時代には毎週論文雑誌を読んでいましたが、新しい術式が出てくる診療科は、限られてきているように感じていました。その点、形成外科はいい意味で発展途上にあり、自身が新たな術式を生み出すことも可能なのではないか、と。さらに形成外科の分野では、若手であってもスーパーマイクロサージャリーができれば、早いうちから執刀を任せてもらえます。そうした環境で早くから経験を積み、世界のトップになれるよう挑戦したいと思ったのです。

また、血管をつなぎ合わせる処置では一時的に血流を遮断し、つなぎ合わせたあとに遮断を解除して血液が正常に流れることを確認します。この一連の処置はその場ですぐに結果が見えるので、やりがいを感じやすかったというのも理由の一つだったのかもしれません。

*スーパーマイクロサージャリー:超微小外科手術。顕微鏡を用いて、0.5mm前後の血管や神経をつなぎ合わせる。詳細は、記事「リンパ浮腫の治療法−スーパーマイクロサージャリーを駆使した手術治療とは」をご覧ください。

顕微鏡を使って実際に山本先生が手術(ヨーロッパでの公開手術)を行っている様子
顕微鏡を使って実際に山本先生が手術(ヨーロッパでの公開手術)を行っている様子

手先が器用ではないからこそ、できない理由を考えて壁を乗り越えてきた

私は特段手先が器用なほうではないと思っています。ただ、興味を持ったことはとことん突き詰める性格だったこともあり、手技に関して非常に根気強く、あきらめずに技術向上に取り組んできました。むしろ、特段器用ではなかったからこそ、なぜ自分ができないのかを考える癖がついたのだと思います。壁にぶつかるたびに、理由を考え、改善に努める。この毎日の繰り返しによって、今の私があると思っていますし、“できない理由”を考え続けることでいまだに毎日手技が改善されていっていることを実感しています。

QOL(生活の質)を上げることが目的の領域だからこそ、患者さんの価値観を大切にする

私がいる形成外科という分野で行う手術のほとんどは救命を目的とした手術ではないため、必ずやらなければいけない手術というのは多くはありません。形成外科の手術では、体の形態や機能の異常を修復し、患者さんのQOLを向上させることを主な目的としています。一方で、手術には必ずデメリット(リスク)があるため、本当に手術を行うべきかどうか、メリットとデメリットを天秤にかけ判断することが必要です。また、たとえ同じ手術だとしても、患者さんそれぞれの社会背景や価値観により、手術を行う意義の大きさは異なります。そうしたことも踏まえ、患者さんの働き方や普段の生活のしかたなどをしっかりと聞いたうえで治療方針を決めるようにしています。

また、ただただ何も分からずに紹介されていらっしゃった患者さんには、なるべく専門用語は使わない説明を心がけています。反対に、ご自身でたくさん勉強をされて来ている患者さんに対しては、さらにプラスアルファの知識を覚えて帰っていただくような気持ちで、専門的なお話も含めてご説明しています。

形成外科分野以外にもアンテナを張り巡らせる

手術の安全性を向上させるために、私は常に手術中に起こり得る最悪の状況を想定し、リカバリ方法を準備しています。特に後進に経験を積ませる際は、最悪の状況が起こらないようにフォローすることはもちろんですが、何が起きても対応できるだけの自信が持てるよう、努力と準備を徹底的に行います。

また、形成外科の手術で必ず行うべきものは多くはないと考えていますが、一方で、形成外科という分野があるからこそ行える手術もあります。たとえば、がんを切除すると体の一部の機能が失われる場合などは、形成外科による再建手術*が行えるからこそがんの切除に踏み切ることができます。そのため、一見形成外科とは関係のないような分野まで勉強を重ね、私たちの技術が役立つ部分がないか、常にアンテナを張り巡らせるということを心がけています。

*再建手術:手術によって切除した臓器や器官を作り直し、必要な機能を維持したり、外見上の変形を補ったりするために行われる手術。

“自身が努力した分だけ、患者さんを幸せにできる”ということが医師として働く原動力

患者さんの治療をすることで、ご本人に喜んでもらえるとやはり医師をやっていてよかったなと感じます。医師は患者さんのために努力をし、その努力の分だけ人を幸せにし得る仕事です。私自身の根底には手術が好きだという思いもありますので、自分が好きなことを突き詰めることで人の幸せにつながっているということが非常に魅力的であり、大きな原動力にもなっています。また、形成外科医として世界のトップに立ちたい、世界を股に掛けて仕事がしたいという思いも、私を突き動かす大きな原動力です。

患者さんのQOL(生活の質)を向上させるという点では、リンパ浮腫の診療は特にやりがいがあります。リンパ浮腫はリンパ液の流れが滞ることで手足などが徐々にむくんでしまう病気です。がん治療や感染症によりこのリンパ浮腫を発症し苦しんでいる方が世界中に数多くいらっしゃいます。海外での依頼手術や公開手術、国際学会での診療ガイドライン改善を通じて、世界中のリンパ浮腫患者さんのQOLを向上させていけたらと思い、日々診療と研究に力を注いでいます。

International Society of Lymphology (国際リンパ学会)でのパネル(左から4番目)
International Society of Lymphology (国際リンパ学会)でのパネル(左から4番目)

最終的な目標は、現在自分が行っているような手術の必要性をなくすことです。外科医が外科手術をしないようにする、というのはおかしな話だと思われるかもしれませんが、手術の限界をもっともよく知っているのは外科医です。内視鏡やロボット手術、遺伝子治療や再生医療など、さまざまな低侵襲の治療法が開発されてきていますが、本当に手術以外の方法がよいかを判断できるのは外科医だと思っていますし、だからこそ、外科医が“手術をなくす”ことを目標に新規治療の開発をするべきだと考えています。

まずは、世界トップの技術を身につけることで手術の“真の限界”を知り、そこからよりよい低侵襲な治療法を開発していきたいと思います。

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  • 国立国際医療研究センター病院  形成外科・診療科長 国際リンパ浮腫センター・センター長、リンパ超微小外科臨床修練プログラムディレクター

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