東京都板橋区にある豊島病院は、東京都23区の西北部地域の中核病院で、“救急医療” “脳・心血管疾患医療”“がん医療”の3つを重点医療に据えています。周産期や小児医療、緩和ケア医療などにも注力している同院の役割や今後について、院長の畑 明宏先生に伺いました。
当院は1989年(明治31年)伝染病院として開院したのが始まりで、1932年(昭和7年)に病院名を「豊島病院」と改称し、その後都立病院から東京都保健医療公社病院に運営移管されましたが、2022年(令和4年)7月の地方独立行政法人東京都立病院機構の設立にともない、東京都立豊島病院となりました。運営母体が公社から地方独立行政法人に変わりましたが、従来どおり地域に密着した病院として、皆さんのお役に立てるよう努力しております。
重点的に取り組んでいるのは“救急医療” “脳・心血管疾患医療”“がん医療”の3つで、感染症医療、精神科救急、周産期医療などの行政的医療や、緩和医療にも注力しています。特に救急医療に関しては、医療圏における2次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を担っていますが、搬送中の患者さんの容体が急変した場合に備え、3次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)レベルの患者さんにも対応できる体制を整えています。
当院は365日・24時間体制で、主に入院や手術を必要とする2次救急医療に対応しています。令和5年度の実績では、救急車による搬送数が年5,637台、救急外来で受け入れた患者さんの数がウォークインを含めて年12,453人に達しました。救急医療で症例数が多いのは消化器疾患の患者さんで、地域でトップクラスです。
また、当院の救急医療の特徴は、3次救急レベルの患者さんにも対応できる体制を整えていることです。通常、救急隊の方が3次選定した患者さんは当院には搬送されることはありませんが、2次救急の患者さんの容体が搬送中に急変するケースもあるため、万全の体制で受け入れる態勢を整えました。
当院はがん診療を重点医療に掲げており、東京都がん診療連携協力病院(胃・大腸)として充実した設備を整え、さまざまな症例に取り組んでいます。一昨年度(2022年度)より、ロボットアームと内視鏡カメラを執刀医が遠隔操作して手術を行う、“手術支援ロボット da Vinci(ダ・ビンチ)”を導入しました。ダ・ビンチによる手術は患者さんの体への負担が少なく、より正確でより安全性が高い手術が可能で、従来は難しかった部位の治療もできるといった特徴があります。現在、前立腺がん、直腸がん、結腸がん、食道がん、胃がんの手術に対応しており、年間100件を目標に症例数を積み上げています。
また、当院には20床の緩和ケア病棟があり、緩和ケアチームによる専門的な緩和ケア医療も提供しています。緩和ケア病棟は3年前にリニューアルし、がんによる疼痛を減らす事ができる緩和照射を受けることも可能です。治療から緩和、自宅復帰まで途切れることなく提供できるのが特徴で、症状の緩和が図れた際には退院してご自宅で過ごすことを提案しています。こうした成果もあって、一般的に自宅復帰できる方の割合は2割程度といわれている中、当院の自宅復帰率は6割に達しています。
当院では内視鏡の新しい設備をそろえており、各専門医もいることから、高難度の症例にも対応が可能です。検査においては上部消化管内視鏡(胃カメラ)検査や下部消化管内視鏡(大腸カメラ)検査は24時間対応できる体制が整っています。EMR(内視鏡的粘膜切除術)やESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)など内視鏡による腫瘍切除術やERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)、EUS(超音波内視鏡検査)による胆膵系疾患の治療も積極的に行っています。検査・治療を実施する際には消化器内科と外科や放射線科が綿密に検討を重ねており、こうした連携が非常によい点が当院の当院の強みです。特に当院の外科は、全ての医師が消化管内視鏡診断治療をはじめ、肝胆道系の超音波、X線透視下治療、化学療法に携わっており、消化器内科と外科が連携することでさまざまな症例に対応しています。
当院の循環器内科は、都内23区西北部における循環器救急医療の一翼を担っています。虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)については、心臓カテーテル検査と治療を24時間体制で実施できる体制を整えています。2019年の5月からは、心房細動を含めた頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーションが実施するようになりました。現在、週2-3日実施しており、2023年度の症例数は110件を超えました。近隣には虚血性心疾患を診ている病院は数多くありますが、カテーテルアブレーション件数では当院が上位に入ると思います。
リハビリテーション科では、急性期のリハビリテーションから、早期日常生活活動(ADL)の自立や早期在宅復帰を目標にしたリハビリテーションを行っています。脳疾患の患者さんに対しては脳神経外科や神経内科と連携して急性期からADL向上に向けて積極的に対応したり、運動器リハビリテーションでは、スポーツ障害に対するリハビリテーションを実施したりするなど、専門的なリハビリテーションに取り組んでいるのが特徴です。そのほかでは、がん手術予定患者の術前からのリハビリテーション介入や、糖尿病教育入院患者に対する運動療法の実施・指導も行っています。また、多くの方が負担なく通院していただけるように、2023年から日曜日もリハビリテーションを受けられるようにしました。都立病院では初めてとなります。
周産期医療では、「診療を通じて、おひとりおひとりの女性の幸せのために奉仕する」をモットーに診療に取り組んでいます。近年は無痛分娩を希望される妊婦さんが増えていることから、当院でも約7年前から無痛分娩(当院では和痛分娩と言っています)に取り組み、麻酔科医の協力を得て24時間対応できる態勢を整えました。令和5年度の実績では1年間に440件の分娩を行い、そのうち無痛分娩は約4割に相当する186件でした。また、妊産婦さん向けの特別食事メニューの提供に加え、大部屋の一部を準個室にするなど、妊産婦さんのさまざまなご要望に対応できるよう取り組んでいます。
当院では地域連携の推進のため、オンライン予約システム“C@RNA Connect(カルナ)”を導入しており、連携医の皆さまはインターネットで24時間365日、検査と外来の予約をすることができます。予約可能な検査は単純CT、造影CT、MRI、骨塩定量、超音波検査、上部消化管内視鏡、予約可能な外来は外科、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、脳神経外科、整形外科、耳鼻咽喉科、小児科です。外来予約はオンライン専用枠で、予約が取りやすくなっています。登録料や利用料はかかりませんので、ぜひご利用ください。
また、地域貢献活動としてさまざまな取り組みもしています。毎年開催される地域の夏まつりでは、栄町の自治会の皆さんとの共催で、今年また当院の駐車場にて開催できました。コロナ禍前には、子供たちのための外科医体験教室“ブラックジャックセミナー”や、ハンドマッサージ、体力測定の体験会などを開催し、多くの方にご参加いただきました。今年は事情によりできませんでしたが来年から再開する予定です。また、公開講座とコンサートも開催しており、2023年12月の公開講座では、「あなたのハートは大丈夫? 心不全を予防するために」をテーマに講演を行いました。こうした取り組みを通して、地域に根差した病院になれるように活動を進めて参ります。
当院は「まごころを込めて最善の医療を提供し、地域社会に貢献する」ことを運営理念とし、地域に密着した病院を目指して日々の診療にあたっています。現在は5類感染症に移行しておりますが、新型コロナウィルスの感染症が拡大した際には、初期から患者さんを積極的に受け入れてきました。その中でも他の医療機関で受け入れが困難だった精神疾患をお持ちの方や妊婦さん、小児や認知症の患者さんなどを多く受け入れ、東京都のコロナ医療を支えてきたと自負しています。今後も重点医療に掲げている「救急医療」「脳・心血管疾患医療」「がん医療」を中心に、地域医療を支えていきたいと考えておりますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
最後にこの場を借りて恐縮ですが、当院では救急救命処置や人員数など業務体制の拡充を進めており、その中で重要な役割を担っていただける救急救命士の方を募集中です。当院は地域医療支援病院、災害拠点病院、第二種感染症指定医療機関、周産期連携病院など、行政的医療を多く担っていますので、救急救命士の方が活躍いただける場面が多いと期待しています。ぜひ、お気軽にお問合せください。