院長インタビュー

地域医療から研究まで多彩な分野で福岡県南部に還元する伝統と革新の融合――聖マリア病院

地域医療から研究まで多彩な分野で福岡県南部に還元する伝統と革新の融合――聖マリア病院
メディカルノート編集部  [取材]

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福岡県南部医療圏の中核病院の一つとして特色ある診療科で地域住民の健康を支え、将来を見据えた教育と研究改革で発展し続ける聖マリア病院。2023年に開設70周年を迎え、臨床、教育、研究の3本柱をより強化し、質の高い医療を提供するための体制を整えています。同院の特色と今後について、病院長の谷口 雅彦(たにぐち まさひこ)先生にお話を伺いました。

先方提供

聖マリア病院は、初代院長である井手一郎の父・用蔵が、1915年に久留米市荘島町で井手内科医院を開設したことに始まります。久留米大空襲によって医院は焼失しましたが、用蔵は大刀洗や久留米のカトリック信者たちの援助を受け、一郎と甥の井手速水を呼び寄せ、1948年に久留米市日吉町で井手医院として再開を果たします。その頃、カトリック久留米教会の神父らと立ち上げた結核療養所の計画が病院建築構想へと発展。一郎を中心に計画は進行し、1953年に聖マリア病院が誕生しました。

当初、結核治療、未熟児医療を中心に診療を行ってきた当院は、医療の進歩や交通事故などの社会的問題に対応するため、1963年に救急部がスタートします。その際に定めた“すべての患者を全日24時間受け入れる”という方針は今日まで受け継がれています。

70年の時を経て、当院は今や42の診療科、1,097の病床を有する包括的な医療組織へと成長を遂げました。救急車の受け入れ台数は年間10,000台以上です*。当院には、一次救急(軽症患者への救急医療)から三次救急(命の危険がある重症患者への救急医療)まで行う救命救急センターがあり、ドクターヘリにも対応し、周産期や小児、外傷や脳血管疾患、心血管疾患まであらゆる疾患、病態の患者さんを迅速に受け入れています。また、当法人内で回復期リハビリテーション病院や介護老人保健施設なども運営しています。

*救急搬入件数(2023年、ドクターヘリ搬入を含む)……12,371件

開院当時から力を入れてきたのが小児・周産期医療です。

開院した1950年代は、新生児の死亡原因の大部分を未熟児が占めていました。国でさまざまな施策が進められる中、当院でも地区の保健所の勧めで未熟児医療を開始しました。その後、総合病院としては、国内初の新生児科の開設、聖隷浜松病院(静岡県)に次ぐ国内2台目となる新生児専用の救急車導入など、周産期医療の充実に尽力してきました。

現在、当院は総合的にお子さんの病気を診るために、こども家庭医療センターを備えています。小児科、小児循環器内科、新生児科の他にも、小児外科と形成外科の専門医がおり、緊急手術が必要なお子さんに24時間対応しています。これは全国的に見ても数少ない取り組みであろうと思います。またこども家庭医療センターの中には、福岡県から指定された総合周産期母子医療センターがあり、新生児科と産科が協力して、妊娠中の母体・胎児から、新生児までを一貫して管理しています。このようにこども家庭医療センターでは、お子さんの幅広い病気に対し、安心・安全に医療を受けられるよう体制を整えています。

今後も当院は子どもたちの命と向き合い、こころに寄り添う医療を行っていくようスタッフ一丸で取り組んでいます。

当院では“すべては患者さんのために”を合言葉に、急性期の患者さんに対しては3つの階層ステップに分けて医療を提供しています。

第1が長く注力してきた救急です。職員一丸となって、24時間365日断らない医療を心掛けています。第2は、がんセンター、生活習慣病センター、救命救急センター、脳卒中・循環器病センター、こども家庭医療センター、診療支援センターの6つのセンターを中心に行われる専門医療の提供です。患者さんが複数の病気を持つことが珍しくなくなった現代において、治療法は複雑化しています。各診療科が連携して診察を行うことのできるセンター機能は必要不可欠な存在となっており、当院でもセンター化を促進し、よりよい医療の提供を行っていきたいと思っています。

第3は、先進的で高難度な医療の提供です。患者さんの体により負担の少ない低侵襲治療を行うためのロボット支援下手術の導入、TAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)をはじめとした血管内カテーテル治療、急性白血病悪性リンパ腫に対して行われる造血幹細胞移植や細胞免疫治療、移植医療などがこれに当たります。移植医療では、臓器提供と臓器移植(腎臓)の両方を手掛けている病院の1つです。多職種によるチーム医療で命のリレーをサポートしており、患者さんに希望を与えられていると自負しています。先進医療分野においては久留米大学病院や九州大学病院と連携し、さらなる充実を図っていく考えです。

私たちは、このような3つの階層によるピラミッド型の診療体制を整えることで、地域における医療をより充実させていきたいと思っています。

2023年に開設70周年を迎えたことを機に、 “すべては患者さんのために”という志に立ち返り、医療スタッフの教育と臨床研究にも重きを置く改革に着手しました。臨床、教育、研究は、当院が長年にわたって力を入れてきた3本柱です。

教育については、聖マリア教育・研修センターが、若手医療専門職を育成、さらに全職員に対してはキャリアプランを策定し、成長し続ける環境作りを整備しています。

研究においては、新たに聖マリア研究センターを開設しました。臨床上の問題を研究で解決する文化を根付かせ、最終的には世界に向けて発信できるような研究を行う計画です。これは民間病院では非常に珍しい取り組みで、臨床研究を通じ、地域の方々に還元できるよう努めていきます。

特に、当院には心血管や脳神経、母子医療の領域ではデータが豊富にあります。このような医療データやバイオバンクに保存された医療検体を活用して臨床の延長上での研究を行っていく考えです。この取り組みは、将来的に患者さんの役に立つ医療の土台となるでしょう。

当院は、開設当初から発展途上国への医療協力にも積極的に行っています。

これは創設者である井手一郎の想いによるものです。1984年にエジプトのカイロ大学小児病院に看護師3人を派遣したことをきっかけに、2022年までに海外44か国へ670人の専門家を派遣してきました。一方、当院へも127か国から1,800人超の研修生を受け入れています。その中でJICA技術協力事業に参加し、ボリビアへの専門家の派遣やトルコへのJICA国際緊急援助隊医療チーム専門家の派遣などのプロジェクトに協力しています。たとえば、東南アジアでは透析医療が発展途上であるため、その分野での技術協力を行うなどといった国際協力事業を長年行っています。

また、カトリックの理念を共有する海外の大学や医療機関とも交流が深く、韓国のカトリック医療協会やローマ教皇庁が運営するイタリアのバンビーノ・ジェズ小児病院と連携し、技術の共有や交流を進めています。

このような国際協力活動などが認められ、開設70周年の際には、第266代のフランシスコ教皇からお祝いのメッセージをいただいたことを誇りに感じています。

コロナ禍では、日本全国で大きな混乱が起きましたが、第7波、第8波では、当院のある久留米地域も、医療崩壊の危機に襲われました。この対応での教訓を活かし、今後ますますの地域連携を密にしていくため、大学をはじめとした地域の医療機関、医師会との協力関係を確立しています。

当院は、70年余にわたり“医療、保健、介護を実践することにより、地域社会、国際社会の健康の増進と福祉の充実に貢献する”という診療理念の下、日々患者さんのために尽力してきました。世界中のどの病院、どの医療職種もそうであるように、当院は今後も、患者さんの健康と福祉を第一に考え、そのための医療を提供していきます。

これからも患者さん一人ひとりに寄り添った治療を心がけ、引き続き地域の方々から信頼される病院であり続けるよう努めてまいります。

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