院長インタビュー

切れ目のない医療を提供して「ときどき入院、ほぼ在宅」を実現する~脳神経センター大田記念病院

切れ目のない医療を提供して「ときどき入院、ほぼ在宅」を実現する~脳神経センター大田記念病院
大田 泰正 先生

社会医療法人祥和会 理事長

大田 泰正 先生

目次
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広島県福山市にある脳神経センター大田記念病院は、脳卒中をはじめとする脳血管疾患の専門病院です。近年は訪問看護や通所リハビリ、外来リハビリなどにも取り組み、地域包括ケアシステムの一翼を担っています。そんな同院の役割や今後について、理事長の大田 泰正(おおた たいせい)先生にお話を伺いました。

岡山大学病院で脳神経外科の医師として勤務していた父・大田浩右が、国立福山病院(現在の国立病院機構福山医療センター)に赴任することになりました。母・大田祥子も内科の医師でしたので、父に同行する形で、国立福山病院の前に「大田内科胃腸科」を開院しました。

1970年代は交通事故発生率が今よりも高く、頭部外傷を負った患者さんが数多く救急搬送されていました。当時、母が開業した診療所の2階に一家で住んでいましたので、患者さんが搬送されるたび父は病院に駆けつけていました。

また、当時の脳外科診療では、患者さんを1分1秒でも長生きさせること、できるだけよい状態で助けることが真骨頂とされていたため、母があえて国立病院の近くで自宅兼診療所を開業したのには、時間との戦いでもある脳外科診療に、父がより早く取りかかれるようにしたいという考えもあったのでしょう。

その後、両親が力を合わせ、1976年12月、現在地に個人立の「大田病院」を開院しました。1979年には医療法人化し、病床数増加と敷地拡大、救急部開設、リハビリテーション部門の拡大など各機能充実を進めて、脳血管や脳神経、神経難病、脊椎と脊髄疾患診療を手がける病院に成長して現在に至ります。

当院は開院以来、脳血管疾患の急性期医療を中心とした脳心血管疾患、脳神経疾患、脊椎脊髄疾患(せきついせきずいしっかん)、神経難病などの診療に取り組んでいます。

また、近年は超高齢化社会を迎える中で重要度が増してくる“地域包括ケアシステム”の構築を進めています。具体的には、地域に必要とされる整形外科など診療科目の充実を図るとともに、訪問看護や通所リハビリ、外来リハビリなどにも取り組み、急性期から回復期、在宅医療までシームレスに提供できる体制を整えました。

当院の特徴は、“一次脳卒中センターコア施設”の認定を日本脳卒中学会から受けている、脳卒中をはじめとする脳血管疾患の専門病院であることです。特に脳卒中は一刻を争うケースが多いことから、血栓回収療法や血栓溶解療法に加え手術、画像検査、臨床検査などを24時間体制で行っています。また、備後地域唯一の難病医療拠点病院として神経疾患や神経難病の治療やケアに取り組んでいるほか、認知症について外来での診断に力を入れています。

救急においては、1992年に大田記念病院(当時)に救急部を開設して以来、入院や手術を要する重症患者の対応をする2次救急医療の担い手として、地域医療の一角を支えてきました。一人でも多くの命を救うため、救急科と各診療科による横の連携をいかした体制づくりに努めています。その結果、2023年は年間2,533台の救急車を受け入れ、ウォークインの患者さんを含めると4,356人の方が救急外来を受診しました。

先方提供
病院外観(脳神経センター大田記念病院ご提供)

先代の父からバトンを受けて理事長に就任した2006年当初は、救急診療を主体にした急性期特化型の医療提供体制構築に向けて動こうと考えていました。

しかし、地域の高齢化と人口減少のスピードは当初の予想を上まわるレベルで進行しており、医療のみでなく介護や福祉とも一体化した「生活も支えるサービス」の必要性を痛感しました。

このときの気づきが、のちの地域包括ケアシステム構築を意識した社会医療法人祥和会の経営と、社会福祉法人祥和会の設立につながります。

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社会医療法人祥和会は、脳神経センター大田記念病院が中心となり、「治す医療」の救急医療、急性期医療と、「治し、支える医療」である地域包括ケアシステムを意識したリハビリテーション、在宅医療の両立を目指しています。

地域包括ケアシステムについては『地域包括ケアシステムの構築と実現へ-祥和会グループ全体の取り組み』で詳しくご紹介します。

社会福祉法人祥和会では、地域密着型特別養護老人ホーム「五本松の家」を中心に、ショートステイ、デイサービス事業を展開、五本松の家は地域社会との連携を強く意識した運営を行っており、地域の長寿会や、子ども会行事などの会場としても、親しまれています。

当院は脳血管疾患の急性期医療を中心とした脳心血管疾患、脳神経疾患、脊椎脊髄疾患、神経難病などに注力しており、診療では新しい機器を積極的に導入し、専門的な診療を行っています。

たとえば、脳腫瘍(のうしゅよう)に対する開頭手術では脳腫瘍のみを摘出して、正常な脳に損傷を与えないように配慮することが求められます。しかし脳は非常に弱い臓器で、脳腫瘍を全て摘出すると脳機能障害を起こす可能性が指摘されていました。中でも難易度が高いのが、内耳道(耳の一番奥の部位)から脳幹(脳の中心部)へ向けて徐々に大きくなっていく良性腫瘍である、聴神経腫瘍の摘出です。そこで当院では、神経機能を損傷していないかモニタリングしながら手術を進める聴神経腫瘍の電気モニタリング手術を実施し、術後後遺症の予防に努めています。また、悪性腫瘍はその範囲を判別するのが難しいため、病巣の場所を明確にするために手術中に脳の撮影をする術中MRIも実施しています。これによって手術中に腫瘍のどこを切除するのか、取り残しはないか、出血はないかといったことを確認できるため、取り残しによる再発の予防につながります。

脊椎・脊髄・末梢神経(まっしょうしんけい)の病気については、脊椎脊髄外科を専門とする医師が診療を行っています。たとえば、腰痛の原因として広く知られている椎間板(ついかんばん)ヘルニアでは、腰の斜め後ろから酵素を含んだ薬剤(ヘルニコア)を椎間板内に注入する経皮的椎間板内酵素注入療法を実施しています。手術をせずに治療できることから、患者さんの負担を軽減できるかと思います。

当院では、他の部分から脳に転移した転移性脳腫瘍や前庭神経髄腫(聴神経腫瘍)、髄膜腫、下垂体腺腫、三叉神経痛(さんさしんけいつう)脳動静脈奇形などの治療をガンマナイフで行っています。ガンマナイフは脳内の病巣部にガンマ線を精度高く集中照射させる放射線治療装置です。開頭手術のように切開しないことから患者さんの体への負担が少なく、短期間で入院や治療を終えることができるほか、メスを入れにくく後遺症などを起こしやすい頭頸部(とうけいぶ)の病気の治療にも使えるなど、ガンマナイフには多くのメリットがあります。当院では2009年に広島県東部で初めてガンマナイフ装置を導入し、2020年までの12年間で2,000件を超える治療実績を積み上げてきました。また、2021年には新しいガンマナイフの機種である“icon(アイコン)”に更新し、比較的大きな腫瘍や多数個の病変に対する治療も可能になりました。

ちなみに、放射斜線治療装置にはガンマナイフ以外にもいくつかあります。その1つが高エネルギーのX線を発生させるリニアック(直線加速器)で、高い治療効果が期待できますが、ガンマナイフが患部から約50cmの距離から照射するのに対し、リニアックは1mほど離れています。そのため、ガンマナイフのほうが周辺部位の被ばくを抑えることができ、腫瘍に線量を多く照射できる点で優れているのではないかと考えています。

先方提供
ガンマナイフ(脳神経センター大田記念病院ご提供)

脳卒中では、2019年10月に血栓溶解療法(t-PA療法)が24時間365日可能な“一次脳卒中センター”に、2020年10月には機械的血栓回収療法が24時間365日可能な“一次脳卒中センターコア施設”に認定されました。これにより地域における脳卒中診療で重要な役割を担うようになり、2022年の実績では急性期脳卒中の患者さんが年間約1,200人と、全国で見ても非常に多い入院診療を行っています。また、脳卒中センターでは、脳梗塞(のうこうそく)の急性期に血行を改善させて症状の改善を目指す急性期血行再建も、24時間365日体制で受け入れています。さらには、脳神経外科・脳神経内科・循環器内科・リハビリテーション科など各診療科・職種と連携し、急性期から回復期、在宅ケアまで、シームレスに医療サービスを提供できるのも当院の特徴です。

先方提供
t-PAを注入する自動シリンジ(脳神経センター大田記念病院ご提供)

また、当院は広島県の“”難病診療分野別拠点病院(神経・筋疾患分野)”に認定されており、県内では当院と国立病院機構広島西医療センターがその役割を担っています。神経難病はパーキンソン病重症筋無力症多発性硬化症視神経脊髄炎など、根本的治癒が難しい神経疾患の総称で、当院では入院・外来治療を行っています。脳神経内科関連の神経難病の外来患者数は年間約1,200名に達しており、その約半数がパーキンソン病の患者さんです。

先方提供
リハビリテーションセンター・回復期リハビリ・通所リハビリ施設が入るリハビリ棟(脳神経センター大田記念病院ご提供)

当院では、急性期および回復期のリハビリテーションと、ロコモティブシンドローム予防も含めた通所リハビリテーションを行っています。

急性期リハビリテーションとは、病気の治療による安静が原因で身体機能が低下する廃用症候群の予防と回復を目的としたリハビリです。当院では脳卒中治療を行うことが多く、医学的にリスクがないと医師が判断すれば発症48時間以内にリハビリを開始します。

また脳卒中の発症は日を選ばないため、土・日・祝日、年末年始もリハビリを行う「365日リハビリテーション」を実践しています。

先方提供
回復期リハビリテーション病棟(脳神経センター大田記念病院よりご提供)

ロコモティブシンドロームとは、身体機能低下などにより要介護や寝たきりになるリスクが高い状態のことです。解消と予防には適度な運動やリハビリの継続が有効とされており、通所リハビリでは要介護度が比較的低い方を対象にフィットネスコースを開設しています。

医療機関は病気を見つけて治すだけでなく、病気になりにくくするための方法をお伝えしたり、生活指導を行ったりする場でもあります。

一生涯でより健やかに過ごせる期間を伸ばしていただくため、だるさや眠気などの症状、糖尿病をはじめさまざまな病気を引き起こすきっかけとなる睡眠時無呼吸症候群への診療を行っています。

また、日頃の食事が健康状態を大きく左右し、高血圧症高脂血症を引き起こし、その後は動脈硬化が進み、脳卒中や心臓病を引き起こすことから、当院では管理栄養士が中心となって考案した「大田メソッド」を広く社会に普及させるため、地元のメーカと協同で、「大田記念病院が考えた だしパック」(製造・販売:カネソ22)、「大田記念病院が考えただしつゆ」(製造・販売:寺岡有機醸造)を開発しました。いずれも広島県だけでなく、全国各地の百貨店・スーパーで取り扱われています。

2025年問題に代表される超高齢社会の到来と諸問題に対応するため、全国各地で地域包括ケアシステムの構築と運用が行われています。地域包括ケアシステムとは、介護が必要な状態となっても、在宅を中心に自分らしい生活を続けられるよう、地域全体で医療、住居、介護、予防、生活支援を行い、患者さんを支えていく仕組みであり、「ときどき入院、ほぼ在宅」がその理想像ともいわれています。

地域包括ケアシステムが在宅医療の質を高めるためには、在宅療養中の方の急変や怪我に対応できる急性期病院が必要です。一時的な入院により、治療を行い、また在宅療養に戻れる流れをスムーズにすることが大切であると考えています。

そこで祥和会グループでは、大田記念病院が「福山市南部における地域包括ケアのコアホスピタル」になることができるよう、「リハビリ機能の充実」や「療養生活を進めていくうえで必要な診療科の開設」、そして、地域包括ケア病棟を開設して、在宅療養中に入院が必要となった方を受け入れ、適切な対応をする受け皿の機能も追加しています。

ご自身やご家族の健康管理を意識し、医療をもっと“ジブンゴト化”してもらうため、民間企業との協業で開発したアプリ”NOBORI(ノボリ)”の提供を始めました。NOBORIは提携医療機関から提出されたMRIなどの画像、検査結果、お薬手帳といった医療情報、通院履歴や通院予約のデータなどを、お手持ちのスマホで見ることができるサービスです。遠方に住むご家族とも医療情報を共有できたり、かかりつけ医の先生も当院の医療情報をご確認いただけたりしますので、医療がもっと身近なものになるはずです。また、救急時や災害時などでも情報を共有できることから、継続性のある医療サービスを受けられるというメリットもあります。NOBORIの提供を通して、“医療情報をスマホで持ち歩く”という新しい医療のスタイルが定着するといいなと思っています。

当院は“備後脳卒中ネットワーク”に参加しています。同ネットワークは備後地域の脳卒中診療に関する勉強会を開催したのをきっかけに、地域連携の必要性に賛同した医療機関によって発足しました。その後、介護老人保健施設・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーションなども参画し、脳卒中に対する地域連携に取り組んでいます。脳卒中の急性期診療は進歩していますが、個々の患者さんに目を向けると、その後の生活に支障となる後遺症が残ってしまうケースは少なくありません。大切なのは急性期診療だけではなく、適切な予防に加えて、急性期から生活(維持)期まで、それぞれの段階において適切な診療やサービスを受けることです。同ネットワークがその一助となり、地域の皆さんが安心して暮らせるようになれば幸いです。

脳卒中を発症した場合、患者さんとご家族は後遺症の発生や健康寿命の短縮など健康面、治療費の支払いや、ときに収入減少など経済面、2つの側面でネガティブインパクトを負います。患者さんが増加すれば、国としても医療費や介護費用の増加、税収減少など財政面でのネガティブインパクトを負うことになります。

病気の発症そのものを防げれば、これらのマイナスを被ることもなく、むしろ医療以外に使える資金が増えて別分野でのプラスの恩恵を受けられる可能性も出てきます。そう考えると、医療はマイナスをゼロにすることができる「健康を売る商売である」ともいえるでしょう。

高齢化の進行は、病気や日々の不調に悩む方の増加、患者さんの受診行動の鈍化など、多方面で多大なる影響を及ぼします。また、地方では医師の高齢化も進んでいます。

これまでのように、患者さんの受診を待ち続けるだけの受動的な時代は終わりました。これからは、地域の皆さんの健康寿命を延ばすため、医療機関や医療に携わる者は病気を治すだけでなく、健康意識を高めてもらう手助けと、病気の芽が見つかり次第治療へつなげる能動的な行動が必要です。特に、地域包括ケアシステムに携わる病院にとって、これらは大切な役割であり、使命であると同時に、社会に対し果たすべき責務でもあります。

当院や祥和会グループでは、脳神経疾患をはじめとする病気への診療や、健康増進のためのサポートを行っています。しかし、あくまでもその主体は皆さんお一人おひとりです。自分の健康は自分で守ることを意識して、そのために何ができるのか、よくお考えになることを勧めます。

地域の皆さんが、自分らしいすこやかな人生を送るための仕組みづくりを、グループ全体で考えてまいります。

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