歩き方がおかしい:医師が考える原因と対処法|症状辞典

歩き方がおかしい

受診の目安

夜間・休日を問わず受診

急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。

  • 突然歩き方がおかしくなったとき
  • 言葉が出てこない、ろれつが回らないといった言語障害を伴うとき
  • 意識を失っているとき
  • 突然の頭痛、吐き気、嘔吐などを伴うとき
  • 転倒などによって足に強い痛みや腫れがあるとき

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • 足に軽い痛みや腫れが続いているとき
  • 歩き方がおかしく、転倒しやすいため日常生活に支障がある

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • 目立った歩き方の変化はないが、何となく足に力が入りにくくなった気がする
  • 少しずつ歩き方がおかしくなっている

国立国際医療研究センター 脳神経内科 科長

新井 憲俊 先生【監修】

「歩き方がおかしい」という症状は、脳・脊髄・末梢神経(まっしょうしんけい)といった神経系の異常や、骨・筋肉などさまざまな部位の異常によって引き起こされます。私たちは普段何気なく歩行をしていますが、体のバランスを取って真っ直ぐに適度なスピードで歩くためには、さまざまな器官の機能が正常にはたらく必要があるのです。そのため歩き方がおかしくなった場合には、思いもよらない原因が背景に潜んでいる場合があります。

  • 突然片方の足にしびれが生じて力が入りにくくなった
  • 成長とともに歩き方がおかしくなって転ぶことが増えた
  • 同じ体勢で長時間座っていたところ、足がしびれて動きが鈍くなった

これらの症状がみられる場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。

歩き方がおかしくなる原因には以下のようなものが考えられます。

歩きにくさは筋肉の異常を引き起こす病気によって引き起こされることがあります。具体的には以下のような病気が挙げられます。

筋ジストロフィー

遺伝子の異常により、筋肉の機能を司るタンパク質に異常が生じて変性を引き起こす病気です。デュシェンヌ型筋ジストロフィーベッカー型筋ジストロフィー福山型先天性筋ジストロフィーなどさまざまなタイプがあります。タイプによって発症時期や進行度、症状などは異なりますが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは小児期から成長とともに足の筋肉の機能が低下して歩行がおぼつかなくなり、転びやすくなるといった変化がみられるようになります。また、進行すると呼吸をするための筋肉や心臓の筋肉にも異常が生じるようになり、命を落とすケースも少なくありません。

いずれのタイプにも有効な治療法は確立されていませんが、2020年デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対しては、異常が生じた筋肉のタンパク質が作られるようにする“エクソンスキッピング治療薬”が承認され、今後の治療に期待が寄せられています。

筋ジストロフィー
関連記事数: 9記事

多発筋炎・皮膚筋炎

免疫機能の異常によって筋肉に炎症が生じ、力が入りにくくなる病気です。さらに手指や肘関節、瞼の上などに赤い発疹(ほっしん)を伴うものを“皮膚筋炎”と呼びます。

発症すると倦怠感や食欲不振などがみられ、体の体幹に近い部位である太ももや肩、二の腕の筋力が徐々に低下していきます。その結果、階段の上り下りが困難になったり、物を持ち上げにくくなったりするなどの症状が現れます。

治療は免疫を抑えるためのステロイドや免疫抑制剤などを使用した薬物療法が主体となり、多くは症状を抑えることが可能です。

皮膚筋炎
関連記事数: 7記事

歩き方の異常は、脳・脊髄(せきずい)末梢神経(まっしょうしんけい)などの神経系の病気によって引き起こされることがあります。具体的には以下のような病気が挙げられます。

脳血管障害

脳の血管が詰まる脳梗塞(のうこうそく)や脳の血管が破れる脳出血などを発症すると、頭痛や吐き気、めまい、意識消失などの症状がみられます。またダメージを受けた脳の範囲の機能が損なわれるため、さまざまな神経症状を引き起こします。中には片方の足に力が入りにくくなったり、体のバランスが取れずに真っ直ぐ歩けず“千鳥足”の状態になったりすることも少なくありません。このほか言葉が出てこない・ろれつが回らないといった言語障害がみられることもあります。

治療は血管に詰まった血栓を溶かすための薬物療法や脳内にたまった血液を除去する手術などが必要に応じて行われます。

脳血管障害
関連記事数: 5記事

パーキンソン病

中脳のドパミン産生神経細胞が減少することで体の動きが鈍くなり、震えなどが引き起こされる病気です。主に50歳以上の方にみられる病気で、発症すると手の震え・動きが鈍くなる・筋肉がこわばる・転びやすいといった症状がみられます。歩行の際には、最初の一歩が踏み出しにくくなることが多く、転倒の原因になるとされています。

治療は、脳内に足りなくなったドパミンを補うための薬物療法が主体となりますが、脳を刺激するために脳内に電極を入れる手術や、腸瘻から持続的に薬剤を注入する治療もあります。

パーキンソン病
関連記事数: 30記事

正常圧水頭症

加齢や頭部への外傷などにより、はっきりとした原因がないにもかかわらず頭の中に髄液がたまる病気のことです。発症すると、認知機能の低下・歩き方の異常・尿失禁などの症状が現れます。治療には、腰や脳の髄液が流れる部位とお腹にチューブをつなげて過剰な髄液を排出する手術が必要です。一方で、この病気は手術を行えば症状が劇的に改善することも多いとされています。

正常圧水頭症
関連記事数: 4記事

脊髄小脳変性症

歩行時にふらつく・ろれつが回らない・手先の細かい作業ができないといった症状が現れる病気です。明確な発症メカニズムは解明されていません。症状は非常にゆっくり進みますが、進行すると足がつっぱって歩きにくくなる“痙性対麻痺”と呼ばれる特徴的な症状がみられることがあります。現在のところ確立した治療法はなく、それぞれの症状を和らげるための対症療法が主体となりますが、歩行の異常などに対しては甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン製剤に一定の効果があるとされています。

脊髄小脳変性症
関連記事数: 1記事

歩き方の異常は骨に生じる病気などによって引き起こされることがあります。具体的には以下のようなものが挙げられます。

外反母趾

足の母指(親指)の先端が第二指(人差し指)の方に向かって“くの字”に曲がる病気です。先端の細い靴やヒールの高い靴を履くことで指が変形すると考えられており、発症すると屈曲した関節部分に痛みが生じ、重症化するとスムーズな歩行に支障をきたすことも少なくありません。基本的に外反母趾体操や関節の曲がりを矯正する装具の使用などを行いますが、手術による矯正が必要になることもあります。

外反母趾
関連記事数: 5記事

変形性膝関節症

主に加齢が原因で膝関節(しつかんせつ)の軟骨が変性して炎症を引き起こす病気です。発症すると膝の痛みが生じ、進行するといわゆる“O脚”のように脚が変形していきます。また、痛みが強くなると膝を伸ばすことができずに、歩き方がおかしくなっていくのも特徴です。

治療は、痛みを緩和させるための薬物療法や膝関節内へのヒアルロン酸注入などが行われますが、重症の場合にはダメージを受けた膝関節を人工関節に置換する手術などが行われることも少なくありません。

変形性膝関節症
関連記事数: 38記事

歩き方がおかしいという症状は、体の疲れや痛みなどによって引き起こされることがあります。しかし、中には上で述べたような病気が原因のことも少なくありません。

特に、突然歩き方がおかしくなったとき、足や腰などに痛みを伴うとき、転ぶ回数が増えたとき、日常生活に支障をきたしているときなどはできるだけ早めに医療機関を受診することが大切です。

初診に適した医療機関は症状の現れ方やほかに症状があるかどうかによって異なりますが、突然発症した場合は脳神経外科や救急外来、関節などの痛みがあるときは整形外科、少しずつ歩行の異常が進行している場合や、転びやすさが目立つ場合は脳神経内科などが考えられます。ただし、どの診療科を受診すればよいか分からない場合はかかりつけの内科などに相談するのも1つの方法です。

受診した際には、いつから症状があるのか、ほかに症状はあるのか、日常生活にどの程度の支障があるのかについて医師に詳しく伝えましょう。

歩き方がおかしいといった症状は、日常生活の好ましくない以下のような習慣によって引き起こされることがあります。

長時間同じ姿勢で座っていると、足などの神経や血管が圧迫されて一時的にしびれを引き起こします。その結果、立ち上がった際にふらついたり、足取りがおぼつかなくなったりすることがあります。

しびれを予防するには

正座など足のしびれが起こりやすい体勢を長時間続けるのは控え、適度に座り方を変えたり、立ち上がったりして血行をよくするようにしましょう。

過度な運動を行うと翌日以降に筋肉に痛みが生じることがあります。一般的に“筋肉痛”と呼ばれますが、足に強い痛みがある場合はゆっくりとした歩行になったり、痛みがあるほうをかばうような偏った歩き方になったりすることがあります。

筋肉痛を防ぐには

筋肉痛を防ぐには、過度な運動を避け日頃から適度に体を動かしておくことが大切です。

日常生活上の好ましくない習慣を改善しても歩き方に変化がみられない場合は、思いもよらない原因があるかもしれません。軽く考えず、できるだけ早めに病院を受診するようにしましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。