足が上がらない:医師が考える原因と対処法|症状辞典

足が上がらない

河北総合病院 神経内科 副部長

荒木 学 先生【監修】

私たちは、多くの筋肉や神経などを駆使して足を動かしています。中でも、“足を上げる”という動作は一定の力とスムーズな関節運動が必要となります。そのため、疲れや足の痛みなど些細なことが原因で足を上げにくくなることがあります。

軽く考えられがちな症状ですが、思いもよらない原因が隠れているケースもあるため、注意が必要です。

  • 突然片方の足が上がらなくなった
  • 数年前から膝の関節の動きが悪くなり、足を上げることができなくなった
  • 太ももの裏からふくらはぎにかけてしびれがあり、徐々に足を上げられなくなってきた

これらの症状が生じた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか?

“足が上がらない”という症状は、次のような日常生活上の好ましくない習慣が原因で引き起こされる場合があります。

足の筋肉を酷使するような激しい運動を行うと、1~2日後に鈍い筋肉痛が生じることがあります。重度の場合には足がだるく痛むため、足を上げられなくなることも少なくありません。

筋肉痛を避けるには

スポーツをする場合は準備体操やストレッチを行い、あまりにも激しい運動は避けるようにしましょう。また、良質なたんぱく質など栄養バランスのよい食事はダメージを受けた筋肉の修復に役立ちます。

デスクワークなど長時間同じ姿勢でいると足の血行が悪くなり、しびれを引き起こすことがあります。その結果、立ち上がったときに足が上がらなくなるといった症状が生じることもあります。

足のしびれを防ぐには

長時間同じ姿勢を取るのは避け、デスクワーク中などでも小まめに席を立って足を動かすようにしましょう。また、下半身の冷えもしびれを引き起こす原因になりますので、靴下やひざ掛けを利用して冷えを防ぐことも大切です。

日常生活の好ましくない習慣を改善しても症状がよくならないときには、思いもよらない原因が背景にある可能性も考えられます。軽視せず、一度は病院で診察を受けるようにしましょう。

“足が上がらない”という症状は、病気が原因となって引き起こされることがあります。

筋肉や骨の病気によって足が正常に上げられなくなることがあります。原因となる主な病気は以下のとおりです。

変形性関節症

関節に過度な負担がかかることによって、関節内に炎症が生じ、関節を構成する軟骨や骨の変性・変形を引き起こす病気です。発症すると関節の痛みや熱感、腫れなどを引き起こし、進行すると関節の変形を生じてスムーズな関節運動ができなくなります。特に膝関節や股関節に変形性関節症が生じると膝関節や股関節の動きが制限され、足が上がらなくなることがあります。

脊椎疾患

脊柱管狭窄症椎間板ヘルニアなど、椎骨や椎骨同士の間に存在する椎間板が変形・変性することによって脊髄とそこから分岐する太い神経を圧迫する病気は、発症部位によって腰から足に伸びる坐骨神経を刺激することがあります。その結果、臀部から太ももの裏、ふくらはぎ、趾へと電撃のような痛みとしびれが走り、悪化すると筋肉が衰えたり、運動・感覚麻痺を生じたりすることも少なくありません。また、重度な場合には足が上げられないといった症状が見られることがあります。

“足が上がらない”という症状は、足の運動をつかさどる神経や脳の病気によって引き起こされることがあります。その原因となる主な病気は以下のとおりです。

脳卒中

脳に栄養を送る血管が詰まったり破れたりする病気の総称で、脳梗塞脳出血なども含まれます。足の運動をつかさどる部位に発症して脳にダメージが及ぶと、足の運動麻痺が生じて足を上げることができなくなります。

脳卒中による足の上げにくさは、片側の足のみに突然発症するのが特徴で、頭痛や吐き気、めまいなどを伴うのが一般的です。

末梢神経障害

筋肉を動かしたり、感覚を感知したりする末梢神経にダメージが加わる病気です。原因はさまざまですが、糖尿病ビタミン欠乏症自己免疫疾患、遺伝性疾患、外傷、薬の副作用などが挙げられます。

足の筋肉の動きをつかさどる末梢神経に発症すると、足のしびれや痛みなどが引き起こされ、悪化すると筋力が低下して最終的には足を上げることができなくなるケースもあります。

腓骨神経麻痺

ふくらはぎから趾にかけて走行する腓骨(ひこつ)神経に、外傷などによってダメージが加わることで発症し、しびれや感触の鈍化が生じる病気です。腓骨神経は、足首と趾の運動をつかさどるはたらきを持つため、ダメージを受けると足首や趾を反らすことができなくなります。その結果、足を上げるのが困難になり、歩行に支障をきたす下垂足が生じるようになります。

脊髄炎・脊髄症

脊髄炎は脊髄に炎症が生じる病気、脊髄症は何らかの理由で脊髄が圧迫されることによって生じる病気で、それぞれ手足の麻痺などが起こります。足に力が入りにくくなり、階段の上り下りなどが困難になることもあります。

足が上がらなくなる原因としてごくまれにみられる病気には、重症筋無力症皮膚筋炎、多発筋炎(多発性筋炎)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症SMA)などが挙げられます。症状の自覚があっても、気のせいだと考えたり、病院に行くのが嫌だったりと受診までに時間がかかる傾向があります。また、まれな病気で専門医でなければ診断が難しいということもあり、患者はいくつかの医療機関を転々とすることも少なくありません。気になる症状があった場合は放置したりせずに早めに医療機関を受診し、ささいな変調でも医師に詳しく伝えるようにしましょう。

足の上げにくさは過度な運動をした後の筋肉痛や疲れなどによっても引き起こされる症状であるため、軽く考えられがちな症状でもあります。しかし、上で述べたような病気が原因のこともあるため看過できない症状のひとつです。

特に、突然足が上がらなくなった場合、痛みや熱感などを伴う場合、筋肉が痩せてきている場合、発熱など全身の症状を伴う場合などは、できるだけ早く病院を受診するようにしましょう。

初診に適した診療科は、足が上げられなくなる原因によって異なります。関節に痛みがあるなど明らかに骨や筋肉の病気が疑われる場合には整形外科、突然の発症など神経や脳の病気が疑われるときは脳神経外科・神経内科が適しています。また、どの診療科を受診すればよいか分からないときは、かかりつけの内科などで相談するのも一つの方法です。

受診の際には、いつから症状が現れたのか、特に足が上がりにくくなる動作などはあるか、足の上がりにくさのほかに症状はあるかなど、詳しく医師に伝えるようにしましょう。また、これまでかかったことがある病気や服用中の薬があれば、診断の手がかりになることがあるため、それらも医師に伝えることが大切です。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。