汗が出ない:医師が考える原因と受診の目安|症状辞典

汗が出ない

受診の目安

夜間・休日を問わず受診

急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。

  • 体温が高くなり、ぐったりしている
  • 意識がもうろうとしており、運動麻痺を伴う
  • 嘔吐を繰り返している

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • 汗が出ない症状が続いている
  • 体温調整がうまくできず脱水気味になっている
  • 原因がないものの、ある日を境に汗が出なくなった
  • 生まれたときから汗が少なく、熱を出しやすい

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • 体温上昇などの症状はないが、汗の分泌が少なくなったと感じる
  • 皮膚が常に乾燥しやすくなった

東京医科歯科大学 名誉教授

横関 博雄 先生【監修】

汗は私たちの体温を調節するために分泌される体液の一種です。そのため、汗の分泌がなくなると体温調整がうまくできなくなり、熱中症などになりやすくなります。

しかし、“汗が出なくなる”という症状の原因は多岐にわたるため、原因に合わせた適切な対処が必要です。

  • 生まれつき汗の分泌がなく、乳幼児期から熱中症になりやすい
  • 唾液などの体液の分泌量も同時に減ってきた
  • 動きが鈍くなり、転びやすくなるといった症状を伴う

これらの症状がみられるとき、原因としてはどのようなものが考えられるでしょうか?

“汗が出ない”という症状は、生まれつきの病気によって引き起こされることがあります。具体的には以下のような病気が挙げられます。

生まれつき全身の発汗が低下し、温度や痛みを感知する機能がない病気のことです。常染色体劣性(潜性)遺伝によって遺伝する病気であることが分かっており、知的障害や発達障害を合併することもあります。発症すると体温を調節する機能が著しく低下し、さらに温度を感知する能力もないことから高体温になってけいれんや脳症などの症状を引き起こすことも少なくありません。また、痛みを感じないため幼少期より骨折などを繰り返し、成長に影響を与えることもあります。

無汗症
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生まれつき、体内の酵素の一種である“α-ガラクトシダーゼ”の活性が低いため、グロポトリアオシルセラミドと呼ばれる物質がさまざまな臓器に沈着して機能障害を引き起こす病気です。X染色体劣性(潜性)遺伝によって遺伝する病気で、幼少期以降に手足の痛みと汗のかきにくさが目立つようになり、体温上昇をきたすのが特徴です。また、進行すると腎臓や心臓、脳、角膜、消化管などにもさまざまな症状を引き起こします。

ファブリー病
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無汗性外胚葉形成不全症は無汗(低汗)・疎毛・歯牙の低形成が3主徴と呼ばれ、汗に関連する症状としては汗腺の欠如ないし低形成のため発汗の欠如または著しい低下を起こす病気です。そのため体温調節障害が起こり高熱下でのうつ熱症状、熱中症などが繰り返し起こり、知能発達遅延をきたす場合や、乳幼児などは死亡に至る場合もあります。

発汗の低下により皮膚は乾燥が強くアトピー性皮膚炎様の症状が現れることもあります。皮膚の乾燥から目周囲の色素沈着雛壁(しゅうへき)(ひだ)が幼少期からみられるなどの特徴的な顔貌がみられることがあります。また唾液腺など粘膜分泌腺の低形成もあるため、肺炎などの易感染性、萎縮性鼻炎角膜びらんなどの症状がみられることもあります。

頭髪・腋毛(わきげ)・眉毛・睫毛・陰毛などの体毛は欠如または細くまばらであり、歯牙は円錐状、杭状の切歯を伴う低形成や欠如などを認め、義歯の装着などが必要になることがしばしばあります。広く突出した額、鼻が低く鞍鼻(あんび)(鼻のへこみ)、耳介低位(じかいていい)(耳の位置が通常より下側にある状態)、口唇は厚く外反し(口元の突出感)、下顎が突出することもあります。

患者は身体的機能の問題を持つと同時に、外観上・整容的な問題、社会的な活動の制限を持つため、心理的ケアを含めた診療体制や社会的な環境の整備の理解が求められます。

無汗症
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元々発汗の機能は正常だったものの、年齢を重ねた後に汗が出なくなる病気もあります。具体的には以下のような病気が挙げられます。

生まれたときは汗が普通に分泌されていたものの、エクリン汗腺の異常、パーキンソン病などによる交感神経の異常、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、薬の副作用などによって汗が出なくなることがあります。治療には、それぞれの原因となっている病気の治療が必要です。

パーキンソン病
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シェーグレン症候群
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甲状腺機能低下症
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はっきりした原因がないにもかかわらず、大人になって汗が出なくなる病気のことです。日本での患者は150人前後と非常に珍しい病気ですが、10~30歳代の比較的若い男性に多いとされています。

明確な発症メカニズムは解明されていませんが、汗の分泌を促すアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質が作用する部位の異常が原因と考えられています。運動や暑熱環境で誘発される皮膚症状にピリピリする痛み・発疹(コリン性蕁麻疹)があります。

過去には治療法がないとされた時代もありましたが、現在ではステロイドの投与によって半数以上が改善するとされています。

無汗症
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汗の分泌量には個人差がありますが、“汗が出なくなる”という症状は体温調節機能の低下を引き起こすため注意すべき症状の1つです。気候などの影響で発汗量が減ることはありますが、中には上述したような病気が原因のこともあります。

特に、乳児期から汗が少なく体温が上がりやすい、幼少期からけがが絶えず痛がっても泣かない、発達の遅れを伴う、ある日を境に汗の分泌量が著しく減った、そのほか随伴症状があるという場合はできるだけ早めに病院に相談するようにしましょう。

受診に適した診療科は原因によって大きく異なりますが、乳幼児の場合はかかりつけの小児科、大人になって汗が出にくくなった場合は内科などが適しています。ただし、どの診療科を受診すればよいか迷ったときは、かかりつけ医に相談するのも1つの方法です。

また、受診した際は、いつから症状があるのか、どのような場面で汗が出ないのか、そのほかの随伴症状はあるのかについて詳しく説明し、既往歴や現在内服中の薬剤名なども正確に伝えるようにしましょう。

“汗が出なくなる”という症状は、日常生活上の好ましくない習慣が原因で引き起こされることがあります。具体的な習慣と対処法には以下のようなものが挙げられます。

気温が高い場所で運動を行っていると、いわゆる“熱中症”を発症します。熱中症は軽度な場合は大量の発汗がみられますが、重症化すると汗の分泌が低下することがあります。

重症化した熱中症頭痛、嘔吐、意識障害、けいれん、体温上昇などの症状を伴って非常に危険な状態と考えられます。できるだけ早めに医療機関を受診することが望ましいです。

熱中症
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熱中症を防ぐには

熱中症を予防するには、涼しい服装を心がけ、適度な水分補給を行うことが大切です。また、気温が高いときは無理な運動は控えましょう。

発汗の調整は自律神経によってつかさどられているため、ストレスや疲れなどによって自律神経の機能に異常が生じると汗が出にくくなることがあります。

自律神経のバランスを整えるには

ストレスや疲れ、睡眠不足などを避けて規則正しい生活をすることが大切です。日ごろから休息や睡眠の時間をしっかり確保し、熱中できる趣味やリラックスできる時間を作るなど適度にストレスを解消する方法を見つけましょう。

日常生活上の好ましくない習慣を改善しても症状が改善しないときは、上述したような病気が背景にある可能性があります。軽く考えず、できるだけ早めに医師の診察を受けるようにしましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。