東京都世田谷区に位置する日産厚生会玉川病院は、急性期、回復期、リハビリテーション医療を通じて地域医療を支える歴史ある病院です。また、気胸、股関節疾患、そけいヘルニアなど特定の疾患に対する専門医療も特徴であり、その分野における研究にも力を入れています。同院の院長である和田 義明先生に、病院の特色や注力している治療内容についてお話を伺いました。
玉川病院は、1941年に日産コンツェルン創始者の鮎川義介氏によりつくられた、千葉県の日産関連工場の従業員のための結核保養所「佐倉厚生園」と、新橋の従業員の健康診断をおこなっていた「日産厚生会診療所」が前身となり、1953年に世田谷区に開院しました。日産厚生会は研究所を元にした組織として「公益財団法人」に認定されており、医師などによる研究を奨励して講演、学会発表などでも活動しています。
日産の名前は付いていますが、企業の病院ではなく、現在は独立した組織として運営されています。
当院は中等症で入院が必要な方の治療を行う二次救急病院です。救急医療に関しては、重傷者の重なりなどやむを得ない場合を除きことわらないことをモットーに(応需率90%)2016年の実績で年間4774台の救急車を受け入れています。救急受診後入院される方は約3割で大腿頚部骨折、誤嚥性肺炎、肺炎、脳卒中、心不全などが原因疾患です。救急診療では救急車で来院されてもトリアージという選別を行い受診時の重症度で重い方から診察させていただいております。
当院は30の診療科があり、病床数389床(そのうち回復期リハビリ病棟41床、地域包括ケア病棟44床)を有しています。外来の患者さんは1日平均706名(2016年)で、土曜日にも午前中診療をおこなっています。
当院は急性期病院でありながら、地域包括ケア病棟を設置し入院から退院までを一貫して支援する体制が整っています。地域包括ケア病棟では、ある程度症状が回復しているが、すぐに退院できない患者さんや、何らかの理由で一時的に在宅療養が困難になった患者さんを受け入れ、個別リハビリや集団での体操などを実施し、廃用の予防、機能回復に努め、在宅生活への無理のない移行のお手伝いをさせていただいています。
回復期リハビリ病棟では約40年ほど前より脳卒中のリハビリを病棟単位で多職種チームで行って来た実績の元で、脳卒中の後遺症を中心に治療を行っています。運動麻痺だけではなく失語症やそのほかの高次脳機能障害も重点的に治療しています。このほか少しでも回復をするように先端的治療も適応があれば行っています。約9割の方が自宅に復帰されています。
一般的に脳卒中を患う方は、不整脈、高血圧、高血糖などの症状があり、ほかの病気を発症するリスクをかかえています。当院の統計では入院中に3人に1人は何らかの新たな疾患が発生し、12人に1人は転科しての治療が必要となります。患者さんが何らかの疾患を発症した場合、当院では夜間でも検査が可能で、病院内で連携を取りスムーズな治療につなげています。
当院では、地域に根ざす病院として連携支援センターを中心に地域の医療機関や住民の方との連携活動を大切にしています。登録医制度では、現在多数の医療施設が登録してくださり、在宅医療の患者様などの入院受け入れ、精査目的の紹介受診、当院からの地域の先生方へ紹介などをスムーズに行っています。
地域活動としては玉川町会と共催で市民講座を定期的に行っており、過去には認知症、腰痛、皮膚の病気、白内障などのテーマでお話をさせていただきました。また、地域のフェスティバルや学校などにおいてAEDの使い方などをテーマにした医療講習もおこなっています。
先の一般救急診療から回復期診療に加え当院の特徴といえるのは、特定の疾患を持つ患者さんに対し、センター化した各部門で専門治療を行い、研究活動、発表、講演活動なども積極的におこなっていることです。各センターで実績を積んでいる疾患に対して、より多くの知見を基にした最新の治療を行うことで、侵襲が少なく予後が良好な治療の提供をめざしており、全国から患者さんが入院しています。
以下各センターにつき説明します。
気胸センターでは年間約300件(2017年12月時点)の手術を行い、現在まで世界でも類を見ない約8,000例を超える気胸の手術を行ってきました。当センターを立ち上げた当初より、開胸しない、低侵襲な胸腔鏡手術を積極的に導入しています。このほか特に治療が困難とされる「難治性気胸」の診療に注力し、大学病院などからの転院治療も少なくありません。
気胸では、肺の表面に風船のように膨らんだ「ブラ」というものができます。何らかの行為がきっかけでブラが破れると、肺が縮んで胸腔(きょうくう)に空気が溜まるようになります。ブラが多数あり、傷んでしまった状態の肺に対して行う手術法が、当センターで開発した気胸のカバーリング手術です。この手術法ではタイヤのパンク修理のように、ブラを切除した肺の表面にセルロース素材の網を貼ります。この網は約1か月で吸収され、肺の表面が厚くなることで、ブラの再発抑制も期待できます。このような治療の研究発表や、諸外国へも発信しています。
股関節センターでは、股関節疾患である変形性股関節症、大腿骨頚部骨折などを主として治療しています。股関節手術での3D-CTモデルを活用したナビゲーション手術の開発・施行や、新しい人工股関節の開発にも関与しております。
当院での変形性股関節症の人工股関節置換術では、筋腱切離を行わない前側方進入法での可能な限り侵襲の小さい手術をめざしています。筋腱切離を行うと切った部分の筋肉が弱く、そこから関節が抜けないように動作の制限を指導する場合がありますが、当院の手術では、脱臼のリスクが低く、術後の動作に制限が少ないのも特徴です。初回人工股関節全置換術総数4,048例中、入院期間における術後の脱臼は3例であり、2008~2017年12月現在までは術後の脱臼は起こっておりません。
慢性腎不全に関しては総合的に悪化予防を多職種によるチームで取り組んでいます。このような活動を2017年日本腎臓学会東部学術大会で発表し優秀演題賞を受賞しています。また、2016年から透析中の安静などで
筋力低下を招かないよう、運動プログラムのリハビリ訓練も取り入れ、その活動は評価されています。
2014〜2015年には、経済産業省による国際連携事業のインド共和国における透析治療に関する「メディカルエンジニア(ME)トレーニングプログラムの構築に向けた日印医療人材交流事業」に参画し、インドのアポロ病院から透析技師を研修に受け入れ、当センターからも技師が視察に行き、インドの経済省大臣の視察も受けしました。
鼠径(そけい)ヘルニアに対しては、年間約170件手術を行っています(2017年12月時点)。鼠径ヘルニアは、足の付け根の弱い箇所から腸がはみ出てしまう疾患です。人工物を使わない内鼠径輪縫縮術、リヒテンシュタイン法というポリプロピレンの「メッシュ」という網のような形状の人工補強材を使用し補強する手術法、内視鏡手術での「メッシュ」を用いた内視鏡下補強術などで、性別や年齢、ヘルニアの状況を考慮し、個別のADLに即した治療法を提供し疾患の再発率の低下に努めています。
当院では、回復期リハビリテーション病棟というシステムができる以前の1981年から病棟単位のリハビリテーションセンターとして、多職種参加の脳卒中へのリハビリを行ってきました。現在回復期リハビリテーション病棟は病床数41床で、脳卒中の患者さんのリハビリを主としておこなっています。
状態によっては補助デバイスとして、歩行訓練機器として歩行時に股関節の動きをモーターでアシストする医療ロボットを使用しています。また、rTMS(経頭蓋磁気刺激)やtDCS(経頭蓋直流刺激)により脳機能回復を促し、半側空間無視や片麻痺の改善を図る治療も行っております。このほか慢性期の治療法としては、筋肉が硬くなる痙縮(けいしゅく)の症状を抑える「A型ボツリヌス毒素治療」があり外来で随時実施しています。
また、入院患者さんでは常時整形外科約90名、内科・外科約20名の患者さんが当センターのリハビリを受けています。
治療以外の活動としては、東京都の事業である高次脳機能障害支援普及事業を実施しており、地域の高次脳機能障害支援の核としてアドバイザー機能の設置、症例検討会の開催、講演会の開催などに取り組んでいます。
血管外科・静脈瘤センターでは、下肢静脈瘤に対して高周波治療装置による治療を行っています。この治療法は、2、3mmの細いカテーテルを膝下などの血管に挿入し、静脈瘤に高周波をかけて焼いて処理するといった治療法であり、痛みが軽減できると共に傷口が目立たないのが特徴です。
泌尿器科では、「PVP(光選択的前立腺蒸散術)」という治療を行っています。「経尿道的前立腺切除術」と異なり、この手術法は肥大前立腺を蒸散(レーザーで組織を一瞬にして蒸発・消滅)させる方法です。血をサラサラにする薬を飲んでいても治療可能で尿道カテーテルは術後の翌日には抜去でき、3、4日の入院期間となります。
地域に根ざした病院として二次救急医療では、断らない、どんな病気でも受け入れるという方針を取っています。入院後もできるだけ短期の治療での退院を目指す一方、長期化した場合は当院で以前より培って来たリハビリを提供し病後の身体機能回復と無理のない在宅移行を目指しています。このほか専門医療を行うセンターでも、最先端の質の高い医療を提供しています。
当院では研修医はメンターを置き、相談しやすい環境を作り、臨床面での研修は日々の研修の他に週1回網羅的な研修医セミナーなどを行っています。とくに研修医は学会などで発表をしていただき、それらを元に院内で研究発表会を行い、優秀発表には賞を授与しています。研修終了後の進路の相談も随時行っております。診療科同士の風通しもよく、相談がしやすく、医師だけでなくそれぞれのスタッフと協働できる風土があります。このほか研究活動も奨励し支援をしています。当院に在籍しながら海外留学し研修している医師もおります。
日産厚生会玉川病院 院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。