院長インタビュー

患者さんと共に笑顔になる医療を目指して――坂総合病院の取り組み

患者さんと共に笑顔になる医療を目指して――坂総合病院の取り組み
冨山 陽介 先生

公益財団法人宮城厚生協会 坂総合病院 院長

冨山 陽介 先生

目次
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坂総合病院は、宮城県塩竃市を中心とする2市3町の急性期医療の提供に尽力しています。同院は地域の方々の“自分たちの住む地域に病院をつくりたい”という思いにより開院に至りました。以降は地域に根差した病院として地域医療に貢献しています。

同院の取り組みについて、公益財団法人 宮城厚生協会 坂総合病院の院長である冨山 陽介(とみやま ようすけ)先生にお話を伺いました。

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坂総合病院の外観

地域の急性期病院として、救急患者さんの受け入れに尽力しています。広大な仙台医療圏の中で、塩竃市だけでなく、多賀城市や七ヶ浜町や利府町、松島町などの近隣市町からの患者さんも多く、2022年度は2,891件の救急車搬入、CPA(心肺機能停止状態)118件の受け入れをしました。

当院の救急科ではER型救急医療の体制を整えて、救急患者さんの対応をしています。ER型救急医療とは北米型の救急診療の体制です。日本救急医学会認定の救急科専門医が、最初に救急患者さんの対応にあたります。救急科の医師が各診療科の医師による治療が必要だと判断した場合には、各診療科までつなぎます。日中は救急科の医師を中心に対応し、夜間は各科の医師が交替で地域の救急患者さんの受け入れを行っています。

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救急病棟での治療

当院の外科はがん・救急疾患の治療を得意分野とし、多職種と連携して常に患者さん個々にとってのよりよい医療を追求し、地域の皆さまに安心を提供できるように努めています。

がんの治療は、専門施設で研鑽を積んだ、呼吸器外科(肺)、乳腺外科(東北大学医師の応援)、消化器外科(食道・胃・大腸・肝胆膵)の診療を専門とする医師が担当します。ガイドラインに基づく標準的治療をはじめ、超高齢の方の体への負担に十分配慮した個別の治療方法まで、安全性を第一に考えた治療を行っています。開腹手術に比べ侵襲(しんしゅう)度が少ない(体への負担が少ない)内視鏡下手術で多くのがんの治療に取り組んでいます。肺がんは9割ほど、大腸がんは8割ほどの手術を内視鏡下で実施しました(2018年度実績)。

乳がんに関しては、検診マンモグラフィ読影認定医*7人と、検診マンモグラフィ撮影認定診療放射線技師*乳がん検診超音波検査実施技師*計9人が一丸となって診察を担当し、迅速な乳がんの診断・治療に努めています(2024年1月時点)。

生命に関わる急病にも迅速に対応しています。救急科や麻酔科**、放射線科との良好な連携により、大腸穿孔(だいちょうせんこう)に対する迅速な手術や、腹腔内出血に対する緊急動脈栓塞術(カテーテル治療)などで救命できる方が増えてきました。

皮膚・排泄ケア認定看護師***と共同で、ストーマ専門外来や難治創に対する陰圧閉鎖療法に取り組んでいます。手術以外にも、院内検討会(キャンサー・トリートメント・カンファレンス)で、抗がん薬治療、緩和治療、在宅医療を含め、患者さんにとってのよりよい治療方法・生活支援を、医療ソーシャルワーカーも交えた多職種で考えています。

先進的な治療が必要な場合など、当院での対応が難しい場合には東北大学病院などへ紹介していますが、地域でできるがん診療は極力地域で行いたいと考えています。よりよい治療を提供するのはもちろん、治療費や治療後の生活のことまで何でもご相談いただけるようがん相談窓口も設置し、あらゆる面から患者さんをサポート可能な体制を整えています。

*日本乳がん検診精度管理中央機構認定

**麻酔科標榜医:土村 まどか先生

***日本看護協会認定

心不全不整脈心臓弁膜症などの心臓血管疾患の治療を行っています。2015年には心臓カテーテル検査室を2室に増やしました。心臓カテーテル検査室を2室にしたことで予定検査の患者さんはもちろん、救急患者さんの緊急検査もスムーズに対応することができるようになりました。

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心臓カテーテル検査室

下肢の重症な虚血状態や間欠跛行(かんけつはこう)(足が痛みなどにより歩けなくなるが、休憩するとまた歩けるようになる状態)の患者さんの治療や症状改善に向けて行う末梢血管(まっしょうけっかん)インターベンションの治療にも力を入れています。

また、高齢化に伴い、不整脈や心不全の患者さんも増加傾向にあります。不整脈の治療にはカテーテルアブレーションを取り入れ、患者さんに適した治療を提供しています。

循環器科では急性期の治療を行う傍ら、心臓リハビリテーションにも力を入れています。退院後の病気の再発を抑えて以前と同じような生活を送れるように、患者さん一人ひとりに合った心臓リハビリテーションを実施しています。

呼吸器科では、肺炎肺結核などの呼吸器感染症から、慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)COPD)などの呼吸器や気道に発生する病気の治療を提供しています。新型コロナウイルス感染症対策にも取り組み、当院の感染対策の中核となっています。

また、肺がんの診療も積極的に行っています。呼吸器外科と連携して内視鏡下手術によるがんの切除にも対応しています。肺がんに関する遺伝子解析の治験(新薬や医療機器の試験)も研究機関と協力しながら積極的に行っています。

呼吸リハビリテーション教育入院にも取り組み、約2週間の入院プログラムに沿って、医師をはじめとした呼吸器のスタッフがそれぞれの専門性を生かし、多角的にアプローチをしています。

睡眠時無呼吸症候群SAS)に対する診断、治療も行っています。必要な方には終夜睡眠ポリソムノグラフィー(PSG)検査を行い、治療を導入しています。

産婦人科、小児科とも2市3町の中で、病院として入院医療を提供することができます。多くの患者さんの紹介を受け入れて地域医療を支えています。また、世界保健機関(WHO)・ユニセフよりBFH(赤ちゃんにやさしい病院)の認定を受けて母乳育児を推進しています。

世界保健機関(WHO)は、“緩和ケアは治療と並行して診断早期から提供されるべきもの”と提唱しており、当院も緩和ケアに力を入れています。今では、当院のがん治療の大切な柱の1つになっています。専門の医師や緩和ケア認定看護師*などのチームで入院での緩和ケアをさらに充実させていきます。また、在宅での緩和医療に取り組んでいるのも当院の特徴です。

当院は、在宅診療科に2人の医師が在籍しており、24時間対応の在宅医療に取り組んでいます(2024年1月時点)。特にがんの在宅緩和医療に力を入れており、在宅での医療用麻薬の持続注射やご自宅でのお看取りを行っています。

*日本看護協会認定

リハビリテーション科に関しては、46床の回復期リハビリテーション病棟を持ち、4人の日本リハビリテーション医学会認定のリハビリテーション科専門医と2人の専攻医、73人のリハビリテーションスタッフによる包括的なリハビリテーションサービスを提供しています(2024年1月時点)。

摂食嚥下(せっしょくえんげ)リハビリテーションやリハビリテーション栄養*痙縮(けいしゅく)**に対するA型ボツリヌス毒素の注射、バクロフェン髄注療法(ITB療法)などにも取り組んでいます。

自動車の運転再開をご希望される患者さんに対しては、近隣の教習所と協力した実車評価に長年取り組んでいます。

リハビリテーションの特性から診療範囲はICUから在宅医療、医療から介護に及びます。急性期から在宅まで一貫した質のよいリハビリテーション技術を提供することをモットーとしています。

*リハビリテーションを考慮した栄養管理と栄養状態を考慮したリハビリテーションを行うこと。

**脳卒中の後遺症の1つで、筋肉に力が入りすぎることで手足を動かしにくかったり、手足が勝手に動いてしまったりする状態。

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市民公開講演会で体操に取り組む方々

地域の皆さんへの疾患啓蒙活動の1つとして市民公開講演会を年4~5回開催しています。高齢化が進み、糖尿病高血圧症などの基礎疾患のある患者さんも増加しているなか、がん患者さんも同じように増加しています。いざご自身やご家族が病気になったときに、その病気についての知識があるのとないのとでは大きな違いがあるはずです。講演会の内容は、病気そのものの知識から、ご家族やご本人の精神的なサポートまでさまざまな話題があります。地域の皆さんが病気になったときに困らないように、啓蒙活動として実施しています。

市民公開講演会の開催は、公共施設や院内にポスターの掲示をするほかに、会場周辺にはポスティングをしてお知らせをしています。また、連携している地域の病院にも掲示をしてもらっています。

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院内で開催される健康まつりでの1コマ

また、院内では健康まつりも実施しています。健康まつりでは無料の健康チェックや抽選会、フリーマーケットなどの企画を用意しています。健康まつりを通して病院へ行くことのハードルが低くなれば、病気の早期発見・早期治療介入につなげられるかもしれないという思いで実施しています。

当院では、差額ベッド料をいただいていません。また、経済的な理由から受診が困難な方を対象に無料低額診療事業を実施しています。無料低額診療事業とは、社会福祉法第二条三項に基づいて、無料または低額で診療を行う事業です。詳しくは地域医療連携センター内の医療相談室までお気軽にお問い合わせください。

医師は大学卒業後に2年間の研修(診療)をしなくてはなりません。当院では、この初期研修医を毎年10名ほど受け入れています。現在の初期研修の方式であるスーパーローテート方式を早期から病院独自で実施しており、自身の専門性を磨きながら総合的に診療ができる医師の育成に努めています。

当院の医師の中には初期研修を終え、大学で専門研修をした後に再び当院で診療をしている医師も多くいます。研修医時代から共に診療をしてきた医師が多く、他科にも相談しやすい関係性が構築できています。診療科同士の垣根が低いことは日々の診療での連携が取りやすく、ひいては治療リスクが高いとされる患者さんの積極的な受け入れもかなえやすくなります。

若手医師にはジェネラル(総合的)な力を身につけた医師になってほしいと思います。もちろん自分の専門の診療を持つことも大切です。しかし、少子高齢化が進み、患者さんの多くは高齢者です。高齢の患者さんは基礎疾患のある方も多く、一人ひとりを総合的に診療する能力が必要になってきます。地域医療に貢献できる力を身につけ、地域の中で活躍できる医師になってください。

坂総合病院は、地域の急性期病院として皆さんが安心して医療を受けられるよう貢献していける病院を目指しています。安心してこの地域で暮らしていけるように地域の支えとなり、頼りにしていただきたいと思います。地域の病院や介護施設との連携も今まで以上に深めていきます。

患者さんに満足していただく医療を提供するためには、職員が生き生きと働いていることが重要だと考えています。職員が生き生きと働き、力を発揮できれば、患者さんの安心へもつながるはずです。当院はこれからも地域の急性期病院として日々の診療に尽力してまいります。

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