院長インタビュー

満足と納得が得られる医療を実践する東北労災病院

満足と納得が得られる医療を実践する東北労災病院
井樋 栄二 先生

東北労災病院 院長

井樋 栄二 先生

目次
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東北労災病院は“満足と納得が得られる医療の実践”を理念に掲げ、地域医療の中核を担う病院として医療や福祉を提供し続けています。今回は、院長の()(とい) 栄二(えいじ)先生に、同院の特徴や診療体制などについてお伺いしました。

当院は1954年の開設以来、“患者さんの立場に立った、満足と納得をして頂ける医療の実践”を理念として掲げ、地域に根ざした医療機関として、住民の皆さんへ安全な医療を提供し続けられるよう体制を築いてきました。

労災病院には “勤労者医療”の提供と“地域中核病院”としての役割を果たすという重要な2つの使命があります。勤労者医療とは働く人の健康と職業生活を守るための医療を指します。近年、勤労者の職場環境は大きく改善していますが、引き続きアスベスト関連疾患じん肺振動障害などの各種健診による労働災害の予防や早期発見、治療、リハビリテーションが必要です。また、2014年には“勤労者予防医療センター”の名称を“治療就労両立支援センター”と改め、予防や治療に加え、職場復帰などの支援にも力を入れています。

当院のもう1つの重要な使命として、地域の中核病院として住民の皆さんの健康を守ることがあります。当院は、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院、日本医療機能評価機構認定病院などの認定や指定を受けており、さらに災害拠点病院としての指定も受けています。東日本大震災を機に、院内にDMAT(医師、看護師、業務調整員で構成される災害派遣医療チーム)を立ち上げ、救急医療や災害医療にもますます力を入れています。

このように幅広く地域のニーズに応える中で、皆さんに満足・納得いただける安全な医療をお届けできるよう、職員一同日々努力を重ねています。

外観
東北労災病院外観(提供:東北労災病院)

整形外科

整形外科では患者さんのニーズに合わせた診療を心がけており、下肢関節外科、リウマチ関節外科など細分化して、それぞれ専門分野をもった医師が診療にあたっています。下肢関節外科は下肢(()関節(かんせつ)(ひざ)関節(かんせつ))を中心に、リウマチ関節外科は上肢(肩関節、肘関節、手・手関節)とリウマチ性疾患を中心に、外傷・関節外科は関節外科全般と外傷を中心に診療を行なっています。

また、内視鏡や関節鏡などを用いた低侵襲(ていしんしゅう)な治療を行っており、脊椎内視鏡手術も本格導入しています。さらに、“股関節センター“および“膝関節センター”を新たに開設し、整形外科領域の人工関節手術支援ロボット“ROSA”も導入しました(ROSA……Robotic Surgical Assistant)。

脊椎外科の手術は、高位別では頚椎(けいつい)が28%(うち上位頚椎が5%)、胸椎が8%、腰仙椎が64%です。疾患別では腰部(ようぶ)脊柱管(せきちゅうかん)狭窄症(きょうさくしょう)がもっとも多く、次いで頚部(けいぶ)脊髄症(せきずいしょう)(含 後縦靱帯(こうじゅうじんたい)骨化症(こっかしょう))、腰椎(ようつい)椎間板(ついかんばん)ヘルニアの順となっており、リウマチ頚椎病変(上位頚椎疾患)やChiari奇形などの頭蓋頚椎移行部病変、脊髄(せきずい)腫瘍(しゅよう)(硬膜内髄外腫瘍)といった特殊な病気にも対応しています。

消化器内科

消化器内科では、上部消化管疾患(食道、胃、十二指腸)、下部消化管疾患(小腸、大腸)はもちろん、肝臓・胆道(胆嚢、胆管)・膵臓(すいぞう)まで広く診療を行っています。

上部消化管領域、下部消化管領域ともに、内視鏡検査による病気の診断を通じて、良性・悪性疾患や他の病気の合併症の治療まで幅広く行っています。内視鏡による悪性腫瘍治療は、練度の高い専門の医師が安全性に留意しながら行っており、手術適応の場合には消化器外科と密に連携を取って治療を進めています。また当院では、潰瘍性(かいようせい)大腸炎(だいちょうえん)クローン病を指す炎症性腸疾患(IBD)を専門的に診る“炎症性腸疾患(IBD)センター”も開設しています。

肝臓領域では、抗ウイルス薬の進歩でB型・C型肝炎患者さんの病状進行抑制、治癒が確立しています。一方で、飲酒・肥満等による代謝性肝疾患が増加しており、肝生検による診断、治療を行っています。各肝疾患を背景とした肝硬変では現在でも肝がん発症の危険性が高く、当科ではラジオ波焼灼術・(かん)動脈(どうみゃく)塞栓術(そくせんじゅつ)・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬で治療をしています。

胆・膵領域はこれまでの内視鏡による胆嚢・総胆管結石・胆膵系悪性腫瘍による閉塞性(へいそくせい)黄疸(おうだん)に対する減黄処置に加えて、超音波内(ちょうおんぱない)()鏡下穿(きょうかせん)()吸引法(きゅういんほう)(EUS-FNA)による診断も積極的に行っています。良性・悪性を問わず、診断・治療の選択肢を広げた診療が可能となっています。

消化器外科

消化器外科・大腸(だいちょう)肛門(こうもん)外科(げか)では、胃・大腸手術(主に悪性腫瘍)、胆石などの胆道疾患、ヘルニアなどの良性疾患手術のほか、肝切除術・胆膵悪性腫瘍手術、虫垂炎・腸閉塞などの緊急疾患も多く行っています。

腹部手術は6割以上が腹腔(ふくくう)鏡下(きょうか)で行われています。腹腔鏡下手術は、(そう)(傷のこと)が小さく術後の回復にも優れていますが、症例によっては極めて高度な技術を必要とすることがあります。当科では1990年代はじめの早い段階から腹腔鏡下胆嚢摘出術に取り組み、以来腹腔鏡下手術においては東北地方の先駆的施設として、手術手技の向上・普及に努めてまいりました。

手術治療を例にあげると、下部直腸がんでは、肛門機能の温存を図り通常の腹腔からの操作に加え肛門からもカメラと鉗子を挿入し、直腸と直腸間膜を切除する経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)を行っています。また、当科では腹腔鏡下肝切除術や一部の腹腔鏡下膵切除術も保険診療で手術が行える施設認定を受けています。

鼠経ヘルニアでは、患者さんの病状・状態を十分に精査して、前方から進入する手術や腹腔鏡下手術などさまざまな治療が可能です。また、食道裂孔ヘルニア手術においても患者さんの状態・状況を考慮した手術を行っています。

現在、消化管、肝胆膵・ヘルニアの2領域では、それぞれ内視鏡外科技術認定医(日本内視鏡外科学会認定)をリーダーとして配置するチーム制を取っています。これにより、日常診療においてさまざまな状況で迅速な対応が可能となり、安心・安全な外科治療の実現を目指しています。また、根治性と安全性を両立した手術レベルの維持・向上と、若手後進の育成に寄与するものと考えています。

手術支援ロボット“Da Vinci(ダヴィンチ)”の導入

また、当院では2024年6月に手術支援ロボット“Da Vinci(ダヴィンチ) Xi”を導入し、8月から外科で稼働しています。これにより、さらに低侵襲かつ緻密で安全性の高い手術を目指せるようになりました。前述のとおり、当院にはこれまで培ってきた腹腔鏡手術の技術がありますので、それを生かしてより精度の高い手術を行ってまいります。適応範囲についても今後、徐々に拡大していく予定です。

呼吸器内科

呼吸器内科では、肺炎や気管支喘息COPD(慢性閉塞性肺疾患)など患者数が多い一般的な病気から、肺がんや間質性肺炎、気胸など専門的な検査、治療を要する病気まで幅広く診療しています。また、当院は労災病院であるため、塵肺やアスベスト関連疾患など職業に関連した病気の診療も行っており、呼吸器疾患のほぼ全てに対応していると言えます。

外来を受診する患者さんは、長く続く咳や痰、呼吸困難などを訴えることが多いです。一方で、症状がなく検診などで胸部異常陰影、胸水などを指摘され紹介される患者さんも少なくありません。それらの患者さんを診断するための検査として、特に重要なのは画像検査(胸部単純X線写真、胸部CT)、呼吸機能検査、気管支鏡検査です。外来では画像検査、呼吸機能検査を主に行っており、特に呼吸機能検査は気管支喘息やCOPDの診断に欠かせません。また、通常の呼吸機能検査に加えて気道可逆性試験、呼気NO検査、気道過敏性試験も行っており、気管支喘息やCOPD確定診断のための一助となっています。

気管支鏡検査は主に肺がん診断のために入院で行っていますが、EBUS-GS、EBUS-TBNA、バーチャル気管支鏡など肺がん診断率向上のために新しい技術を導入し、さらに実際の検査時には鎮静剤を常に使用して、患者さんの苦痛軽減にも努めています。また、原因不明の胸水精査のための胸腔鏡検査による胸膜生検も行っています。

現在の呼吸器疾患の診療においては、他科との連携が非常に重要となっています。特に肺がんの治療に関しては呼吸器内科だけでは適切な医療は提供できず、呼吸器外科、放射線治療科、緩和ケア内科、病理診断科などの各科と協力して診療を行っています。各科との協力により肺がんの診断から手術、放射線治療、化学療法、緩和医療(疼痛(とうつう)コントロールなど)まで当院で適切な肺がん治療が一貫して行えるようになっています。

股関節センター・膝関節センター

2023年7月に、人工関節を中心とした手術治療を安全に効率よく提供することを目的に“股関節センター”を開設し、さらに2024年6月には新たに“膝関節センター”も開設しました。両センターでは、高度な設備と技術力で早期治療、早期社会復帰を支援しています。

手術支援ロボット“ダヴィンチ”の普及により、ロボット支援下の外科手術が一般的になりつつありますが、前述のとおり当院では県内でもいち早く人工関節手術支援ロボット“ROSA”を導入しており、保険適用でROSA支援下手術を受けることができます。

ROSAによる手術の特徴としては、術中に骨切りの角度や人工関節の設置位置などを0.5°、0.5 mmといった細かな単位で微調整できることが挙げられます。これにより、患者さんへの侵襲が少なく合併症のリスク軽減、安定した長期成績にもつながり、より質の高い医療を提供することが可能です。

さらに設備面では、バイオクリーンルーム(2室)を完備した手術室や、骨銀行(手術時に採取した骨を無菌処理後に超低温で保存し、必要に応じて使用する設備)などを備えており、仙台市内でも最大級の広さと人員を誇るリハビリテーション室もあります。

股関節センターは開設から1年が過ぎ、人工股関節の手術数がかなり増えてきています。膝関節センターの開設により今後さらに件数が増えることが予想されますので、手術までの待機期間を可能な限り減らすべく、手術室の枠をうまく使うなど工夫をして調整しています。

消化器内視鏡センター

近年、消化器領域において内視鏡は非常に重要な役割を果たしています。たとえば、食道・胃・大腸の消化管領域では、内視鏡診断技術(特殊光観察による内視鏡診断、拡大内視鏡診断、超音波内視鏡診断、経鼻内視鏡検査など)が格段に向上しています。また治療の面でも、早期の食道がん胃がん大腸がんに対する内視鏡的治療(内視鏡的粘膜切除術など)が増加しつつあります。

消化器内視鏡センターでは、消化器全般(上部消化管・下部消化管・肝胆膵)のそれぞれに専門の医師がおり、常に先端の診断や治療を提供できるよう体制を整えています。また、院内の各診療科とはもちろん地域の医療施設とも連携を取り、診断から適切な治療まで有効かつ効率的に提供していく役割も担っています。

内視鏡下手術センター

内視鏡(腹腔鏡)下手術は1990年代に世界的に広まった手術で、機器の発達や手術手技の定型化などが進み、外科手術の中心に位置するような手術となってきています。特徴として低侵襲性や整容性が挙げられ、入院期間の短縮や早期の社会復帰が期待できる手術であることから、当院でも早くから取り入れてきました。胃がん、大腸がんをはじめ、胆石症や胆嚢炎、ヘルニア、虫垂炎手術などさまざまな治療を内視鏡下で行っており、地域医療においても内視鏡下手術の中核的な役割を担っています。今後も腹腔鏡下手術のさらなる拡充を目指し、診療に努めてまいります。

炎症性腸疾患(IBD)センター

炎症性腸疾患(IBD)センターではIBD専門医(日本炎症性腸疾患学会認定)により、IBD(潰瘍性大腸炎、クローン病)の診療を行っています。IBDの治療においては、内科治療・外科治療がスムーズに移行できることがとても重要であり、内科と外科の連携が欠かせません。そのため、両診療科の連携をさらに緊密なものにするために、当センターを設立しました。

IBDは難病指定を受ける原因不明の病気であり根治が難しいですが、近年、有効性の高い治療薬が次々と登場しています。一方で、こうした新しい薬剤でも効果が出づらい患者さんや、治療の途中で効果が薄くなる患者さんもいます。こうした患者さんの治療では、適切な内科治療戦略や、必要に応じて適確なタイミングで手術を選択することも必要です。当センターでは、宮城県内のみならず東北地方のIBD患者さんが、全国レベルの最新のIBD治療を適切に受けられるよう、日々研鑽に努めながら診療にあたっています。

呼吸器疾患センター

呼吸器疾患センターは、呼吸器の病気を包括的に診療することを目的に開設されました。肺がんや肺炎を中心に、COPD増悪や気管支喘息重積発作急性呼吸窮迫症候群といった急性呼吸不全症例なども診療しています。特に肺がんに対する治療では、手術療法・放射線療法・化学療法の三本柱はもちろん、緩和ケアにおいても専門の医師が在籍していることから、集学的治療が可能となっています。

そのほか、COPDや重症喘息の治療にも積極的に取り組んでおり、COPDにおいては多職種間の連携により包括的な診療を行っています。重症喘息に対しては、分子標的薬の導入に加え、東北地方で2番目となる気管支サーモプラスティを呼吸器外科と共同で導入しています。

総合患者サポートセンター

2024年9月に、総合患者サポートセンターを立ち上げました。よりスムーズな連携につなげるため、これまで独立していた地域医療連携センターや入退院支援センターなどを1か所に集約したのが、この総合患者サポートセンターです。

センターの開設により各連携がスムーズになり、以前よりも診療の予約が取りやすくなりました。今後は、電話予約だけでなくオンライン予約もできるようにしたいと考えています。

また、退院支援と入院前支援を隣同士に配置したことで、入退院にまつわる手続きのほか、入院中のよろず支援もできるようにしました。全ての導線が1つにまとまり、患者さん目線の流れが作られたのではないかと感じます。

“労災病院”の大きな役割として、働く人を守る医療や仕事と医療との両立などを支える勤労者医療の提供があります。この役目はこれからも変わらず果たしていきますが、一方で当院は高度な技術や先端の医療提供についても積極的に取り組んでいます。県内初となる人工関節手術支援ロボットにつづき導入した内視鏡手術支援ロボットも今後ますます活用していく予定です。ロボット支援手術は、患者さんにやさしい低侵襲な治療であることもメリットですが、誰が行っても同じように均一な手術ができるという点もメリットだと考えています。

ブラック・ジャックのような凄腕の医師がいたとしても、その卓越した手術手技は属人化しており、決して伝承されることもなく、その人がいなくなれば途絶えてしまいます。大切なことは、誰が行っても安定した成績が得られる治療法、すなわち標準化された治療法の確立です。ロボット支援手術はその一助になると考えています。

また、どんなに素晴らしい医療技術があったとしても、患者さんとのあいだに信頼が築けていなければ、患者さんにとって満足や納得のいく医療の提供は難しいでしょう。これからも当院は、“患者さんの立場に立った、満足と納得をして頂ける医療の実践”という理念を守り、患者さんと対等でいられるよう目線を合わせ、信頼を築きながら医療を提供していく所存です。

*診療科やセンターについての情報や、提供している医療についての情報等は全て2024年11月時点のものです。

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