がんにかかると、おおよそ30~80%の人が痩せてしまうといわれています。特に消化器がんや頭頸部のがんでは、おおよそ70~80%の高い確率で体重が減少すると考えられています。しかし、痩せると身体機能が下がり、生活の質(QOL)の低下にもつながるうえに、適切な治療を行えなくなる可能性があるため、十分な食事を心がけることが大切です。
本記事では、がんによって痩せてしまう理由や、食事で心がけるポイントについて詳しく解説します。
がんで痩せてしまう理由には、主に“何らかの原因で食事が取れなくなること”“悪液質という状態になること”“がん治療の負担が大きいこと”の3つが挙げられます。
がんにかかると、痛みや呼吸困難、味覚障害などの症状が起きることがあり、それに伴って食事がうまくとれなくなったり、食欲が低下したりすることがあります。
特に、胃がん・膵臓がんなどの消化器がんにかかっている人の場合、食べ物の通り道である口内や食道、胃腸などにがんができることによって、痛み、飲み込みにくさ(嚥下困難)、吐き気、下痢などの症状が現れるため、食事がとりにくくなるといいます。
また、抗がん剤治療や放射線治療などの治療を行うことで、その副作用から食欲不振が生じることもあります。さらに、がんを告知されたことによる精神的なショックで食事が喉を通らなくなり、痩せてしまう人もいます。
なお、がんを診断された段階でおよそ半数の人が食欲不振であるといわれ、進行がんではおよそ70%の人が食欲不振になるといわれています。
悪液質とは病気の進行によって筋肉などが減少し、体の機能に障害が現れる複合的な栄養不良のことをいいます。がんだけでなく、さまざまな病気の合併症として生じます。
がん悪液質の場合、がん細胞が原因の代謝異常によって筋肉や脂質の分解が起こって体重が減少するほか、進行すると栄養を取ってもそれがうまく活用できない状態になってしまいます。
そもそも、がん細胞は自身が生き残るために特別なエネルギーを必要とします。そのエネルギーを得るために、がん患者が持っているたんぱく質や脂質を自分に必要なエネルギー源に変えるのですが、このときにがん細胞が放出する物質によって、がん患者の代謝を狂わせて栄養を奪い取ってしまうのです。また、悪液質の症状として食欲不振が生じることもあります。
がん治療によって痩せてしまうこともあります。たとえば手術を行うと、体には手術による侵撃だけではなく、傷を治すために多くのエネルギーが消費されます。しかし、前述のような理由によって十分な食事ができず栄養が不足すると、エネルギーの消費量と摂取量のバランスが悪くなり、痩せてしまうことがあります。
また、食事が取れずに栄養が不足している状態が続くと、治療による副作用が出やすくなります。副作用が強い場合はその治療を中断せざるをえないケースがあるため、この結果がんの状態が悪化してしまう恐れもあります。
がんの治療中は普段よりも多くのエネルギー量を使用するため、バランスのよい食事をしっかり取り、体力をつけることが大切です。しかし、無理して食べようとすると、食事をすることが苦痛になってしまい逆効果になる可能性もあるため、“食べられるときに食べたいものを食べる”ということを意識しましょう。
食事において工夫するポイントは以下のとおりです。
がんで痩せないためには、特に高カロリーな食べ物やたんぱく質の含まれた食べ物などを摂取することが大切です。
少量で高カロリーな食事として、油や砂糖を使用した料理を食べるのもよいでしょう。たとえば、同じ米でも白米を食べるより油で炒めたチャーハンやチキンライスを食べるほうが高いカロリーを摂取できます。
また、紅茶を飲むときもストレートで飲むより砂糖、ジャム、牛乳などを入れて飲んだほうが、摂取カロリーが高くなります。食欲がないときは、調味料として酢や香辛料などを活用することで食欲を増進させるのも効果的です。
体重の減少が著しいときには、カロリーやたんぱく質を効率よく摂取できる栄養補助食品を活用することも検討しましょう。栄養補助食品にはスープやゼリー、ドリンクなどさまざまなタイプがあるため、好みに応じて選択できます。
体重の減少が気になるときは1回の食事の量を減らして間食を増やし、小まめに食事を取るように心がけましょう。
また食欲が落ちて食事に気が進まないときは、料理を自分好みの味付けにしたり盛り付けに気を配ったりするほか、気が向いたときに食べられるよう好きな食べ物を常備しておくとよいでしょう。一般的には、食欲不振の際は果物やプリン・ゼリーなどの冷たい食べ物や、あっさりした食べ物が食べやすいといわれています。
がんで痩せ過ぎてしまうと、治療や回復に悪影響がおよぶことがあります。そのため、食欲不振や体重減少などの兆候が現れたときは食生活に気を配り、無理のない範囲で食事をすることが大切です。
吐き気や味覚困難などで食事ができないときや食事内容について悩んでいることがあるときは、医師や看護師、栄養士などに相談しましょう。
医療社団法人小磯診療所 理事長
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