クローン病にはさまざまな治療法がありますが、近年「症状を抑える」ことに対して有効な治療が見つかりはじめました。本当にクローン病に「効く」治療法とはどのような治療なのでしょうか。東京山手メディカルセンター副院長、炎症性腸疾患センター長高添正和先生にお話をうかがいます。
病気の原因、というとより小さい領域の働きに注目する傾向がありますが、私はもっと大枠で病気の原因をとらえることが必要だと考えています。そこで、ここ3年ほどで注目されている自然免疫系の働きは、クローン病の治療において今後重要なキーになるのではないかと考えています。
「自然免疫系」とは、もともと人間の体に備わっている、バクテリアなどが侵入してきた際にそれを敵だと認識して攻撃しようとする作用です。本来誰しもが持つその力が何らかの理由で異常反応してしまい、炎症を起こして大腸の粘膜を荒らすのがクローン病です。
クローン病は、自然免疫系にバクテリアが作用することが原因で起こります。
つまり、「粘膜に炎症が起きる病気」ではなく「粘膜下にある免疫が外からの刺激によって異常反応を起こす病気」ということです。ですから、自然免疫系へのバクテリアの作用を抑えないことには炎症も抑えられないのです。
従来のクローン病の治療は「免疫系へのバクテリアの作用」そのものではなく、バクテリアの作用によって刺激された「TNFα(サイトカイン)の働き」を抑えようとするものばかりでした。前述した「より小さい領域の働き」とはこのことを指します。つまり、いくら炎症を起こす物質を抑え込んだとしても、最初の刺激を止めないことには意味がないということです。
2000年頃、アメリカでクローン病の患者さんの血液から「NOD2」という遺伝子が発見されました。このNOD2は、バクテリアを認識する役割を担っています。人種差のためか、日本人のクローン病の患者さんからNOD2は発見されていません。しかしながら、NOD2がバクテリア認識に関わるのであれば、やはりバクテリアなどによって最初に作用する自然免疫への刺激を抑えることが、クローン病の治療に最も有効なのではないかという考えの走りになると思われました。
ところが同時期、TNFα(サイトカイン)を抑えるとクローン病が良くなるという研究データが広まりました。クローン病に絶大な効果のある治療がなかった当時、確かに、起きた炎症を抑えるという意味では大きく効果があると評価されたのでしょう。「バクテリアなどによる自然免疫への初期反応を抑え込む」という根治を軸にした考え方は、サイトカインの研究結果の広まりによって忘れ去られる結果となってしまったのです。
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