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慢性腎臓病の治療――専門医とかかりつけ医の連携と多面的なサポートで腎臓の機能を若く保つ

慢性腎臓病の治療――専門医とかかりつけ医の連携と多面的なサポートで腎臓の機能を若く保つ
藤村 龍太 先生

市立東大阪医療センター 腎臓内科 部長代理

藤村 龍太 先生

目次
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腎臓の機能が慢性的に低下する慢性腎臓病は、近年、患者数が増加し、新たな国民病ともいえる病気になりました。しかしながら、日本腎臓病学会が認定する腎臓専門医(以下、腎臓専門医)の数は限られているため、慢性腎臓病の治療はかかりつけ医と協力し、連携しながら進めていく必要があります。そこで今回は、市立東大阪医療センター 腎臓内科 部長代理 藤村 龍太(ふじむら りゅうた)先生に、慢性腎臓病の特徴や治療、専門医とかかりつけ医の連携の取り組みなどについてお話を伺いました。

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は、なんらかの原因によって腎臓が障害されることにより、血液をろ過して老廃物や不要な水分を除去する機能が低下したり、タンパク尿などの異常を認めたりする病気です。医学的には、以下の状態のどちらか、または両方が3か月以上続いた場合に慢性腎臓病と診断されます。

  1. 各種検査から腎障害であることを示す異常がみられる状態
  2. 糸球体ろ過量(Glomerular Filtration Rate:GFR、腎臓の機能を示す指標)60mL/分/1.73m2未満の状態

近年、慢性腎臓病患者さんの数は増加傾向にあります。日本での患者数は約1,330万人(成人の8人に1人、2011年時点)にのぼると推定されており、新たな国民病ともいえる病気です。

“沈黙の臓器”とも呼ばれる腎臓は、その機能が少し低下しても自覚症状がないため、日々の体調の変化に気を付けているだけでは、慢性腎臓病を発見することができません。

病状が進行すると、むくみや疲労感などを自覚するようになり、腎臓の機能が正常の15%未満に低下する末期腎不全に至ると、吐き気、食欲低下、息切れなどの症状が現れます。また、腎臓には赤血球の産生を促す造血ホルモンや骨を丈夫にする活性化型ビタミンDをつくるはたらきがあるため、腎臓の機能が低下すると貧血骨粗鬆症骨折を起こしやすくなります。

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画像提供:PIXTA

慢性腎臓病の発症には、慢性腎炎などの腎臓の病気のほかに、糖尿病高血圧症高尿酸血症などの生活習慣病による血管の動脈硬化が大きな影響を及ぼしています。また、腎臓は加齢によって機能が低下する“老化していく臓器”であるため、慢性腎臓病は高齢者にも多い病気です。人生100年時代において健康寿命を延ばすためには、体内の老廃物の排泄やホルモンの産生など健康維持の司令塔としての役割を担う腎臓の機能を“いかに若く保つか”が重要なカギになると考えられます。

慢性腎臓病治療の第一の目的は、腎臓の機能低下を食い止めることです。また、慢性腎臓病が続くと動脈硬化が進行するため、それが心筋梗塞(しんきんこうそく)脳梗塞といった心血管病を起こすリスクを高めます。慢性腎臓病の治療は、こうした命に関わる病気の発症予防にもつながります。

慢性腎臓病の治療では、生活習慣の改善や食事療法を中心に、原因や病態に合わせて以下のような方法が用いられます。腎臓の機能を若く保つためには、これらの治療をバランスよく組み合わせることが大切です。

肥満や喫煙は慢性腎臓病を進行させることから、生活習慣(食事・運動)の改善による肥満の解消、禁煙を行います。また、それぞれの患者さんの状態に合った運動習慣の獲得は、肥満の解消のみならず、腎臓の機能維持・改善や心血管病の予防、高齢者に起こる筋力の低下(サルコペニア)の予防などにも有用です。

腎臓に負担をかけるタンパク質の摂取量を減らします。ただし、高齢者の場合は過度なタンパク質制限によって栄養状態が悪化することもあるため、患者さんの体の状態や病状を踏まえて個別に調節する必要があります。

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また、食事療法では減塩も重要なポイントです。これは腎臓の機能が低下すると塩分の体外への排泄が滞り、体内に残る過度な塩分によって、むくみや高血圧が悪化し、心臓への負担が大きくなるためです。

糖尿病脂質異常症高血圧症などの生活習慣病は慢性腎臓病を悪化させることから、これらに対する薬物治療は、慢性腎臓病の進行を抑制することにもつながります。最近では尿タンパクを減少させる効果を持つ治療薬が用いられることもあります。また、慢性腎炎など腎臓そのものの病気が原因の場合にも、食事療法に加えて病気の種類に合わせた薬物治療が行われます。

慢性腎臓病により起こる貧血に対しては、鉄剤やエリスロポエチン製剤の投与、骨粗鬆症を含む骨ミネラル代謝異常に対しては、リンの摂取制限や活性化ビタミンD製剤の投与などが行われます。

慢性腎臓病の治療を行ったとしても、一部の患者さんでは腎臓の機能低下の進行を避けることができません。腎臓の機能低下によって生命の維持が難しいと考えられる場合には、その機能の一部を助ける腎代替療法(透析療法や腎移植)が用いられます。

慢性腎臓病の発症には、生活習慣病や加齢以外にも、慢性腎炎やネフローゼ症候群急性腎障害などの腎臓自体の病気も関与することから、それらを正確に見極めて治療を進めることが重要です。当科では、腎臓専門医を中心に専門的な見地から診察を行っており、近隣の医療機関から慢性腎臓病患者さんを受け入れています。加えて、血液検査や尿検査のみで診断が難しい場合には、腎臓の組織の一部を採取して病気の原因を突き止める“腎生検”を実施することも可能です。適切な検査から正確な診断を目指し、患者さんの状態に応じた治療方針の決定を心がけています。

慢性腎臓病が進行すると治療の選択肢が限られてしまうことから、早期診断と適切な治療によって、腎臓の機能低下を抑えることが重要です。その際、腎臓専門医が重要な役割を担いますが、現在のところ腎臓専門医が在籍する医療機関は限られています。そのため当科では、腎臓専門医と地域のかかりつけ医が協力しながら慢性腎臓病の治療を進める“CKD病診連携”という体制を整えており、腎臓専門医の早期介入や患者さんの状態に合わせた治療選択が可能になりました。また、将来的に透析療法が必要になると予想される場合にも、腎臓専門医のもとで早い段階から準備を進めることができます。

先方提供
市立東大阪医療センターにおけるCKD病診連携(提供:市立東大阪医療センター)

〈市立東大阪医療センターのCKD病診連携の流れ〉

(1)健診などで腎臓の機能に異常を指摘された方は、かかりつけ医を受診して相談します。

(2)かかりつけ医による診察の結果、患者さんの腎臓の機能が基準を下回った場合には、市立東大阪医療センターの腎臓内科へ受診いただきます。

(3)当科の腎臓専門医による診察では、追加の検査および診断を行い、今後の治療方針を決定します。また、検査結果や治療方針はかかりつけ医へ共有されます。CKDの進行した患者さんについては、病態の悪化などがあれば速やかに対処できるよう地域連携パスを発行しています(2022年度*は110名の患者さんに新規のCKD地域連携パスを導入)。

(4)専門的な診断と治療方針に基づいて、患者さんは地域のかかりつけ医と共にCKDの治療を継続します。腎臓の機能低下などが認められた場合などには、必要に応じて当科を再び受診いただき、検査や治療を実施したうえで、あらためて治療方針を変更します。

*対象期間:2022年1月~2022年12月

慢性腎臓病の治療では、薬物治療のみならず、生活習慣の改善など患者さんの自己管理が欠かせません。しかしながら、当科に紹介される患者さんの中には、自身の腎臓の機能がどのくらいまで低下しているかを自覚しておらず、治療の重要性を十分に理解していないケースも散見されます。

そこで私たちは、患者さんが病気の状態を知り、治療に対する正しい知識を身につけることができるよう、管理栄養士や薬剤師、看護師などと共に患者教育にも力を入れてきました。たとえば、透析療法を導入する前には腎不全教室、導入後には透析教室として、患者さんの状況に合った情報提供を行うとともに、教育入院にも積極的に取り組んでいます。また、2018年からは、透析療法導入の原因としてもっとも多い糖尿病性腎症の患者さんを対象とした個別指導である“腎ケア(糖尿病)外来”を開始しました。患者さんの価値観や生活スタイルを把握し、治療の悩みに寄り添いながら、腎臓に負担をかけない生活を続けられるようサポートしています。

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  • 市立東大阪医療センター 腎臓内科 部長代理

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