「緑内障」は日本では失明の原因として最も多い病気です。しかし、ほとんどの緑内障は、はっきりとした症状がなく、代表的な初期症状もありません。そのため早期発見が難しいのですが、この早期発見こそが大切なのです。
緑内障の診療、研究ともに日本の第一人者である東京大学眼科学教授の相原一先生に、緑内障の症状と早期発見の工夫についてお話をお聞きしました。
緑内障には、あまりはっきりとした初期症状がありません。視野障害が出たとしても、その症状は非常にゆっくりとあらわれます。また、日常生活では両眼で見ているため、片方の眼だけに症状があらわれたとしてももう片方の眼が視野を補うことで、症状を自覚できないことも多くあります。
最初の自覚症状として現れるのは、視野障害・暗点の出現です。視野障害とは目が見える範囲が狭くなっていくことを指します。また、暗点とは視野の中で一部だけ見えない場所が出現することを言います。しかし、見えないところは暗くなるわけではありません。何もわからないと言うことは暗くもない状態で、霧の中にいるような感じなので、しかもゆっくり進むためにわかりにくいのです。また視力の低下は末期まで起こらないため、とても気づきにくいのです。
したがって、このような自覚症状が現れた場合、すでに緑内障がかなり進行してしまっていることも多くあります。さらに視力低下や視野障害が進んでしまった場合には、失明することもあります。
多くの場合の緑内障の進行は「慢性進行性」といわれるもので、症状はゆっくりと進んでいきます。進行スピードには個人差がありますが、特に正常眼圧緑内障では末期になるまで20~30年かかると考えられます。従って、ほとんどの緑内障はすぐに失明するわけではありませんから、慌てずに2~3年は眼圧や視野の検査をしながら経過観察をし、どの程度の進行スピードなのかをシミュレーションしていく必要があります。それにより、適切な治療方針を立てていくことが可能です。つまり、根気強く受診していくことが大切なのです。
※ 急激に症状が出る「急性緑内障発作」
一部の緑内障では、急激に眼圧が上昇することがあり、これを「急性緑内障発作」といいます。これは「閉塞隅角緑内障」(参照:「緑内障の種類とそのリスク」)という種類の緑内障の場合に起こります。急速に視力が悪化し、失明のリスクがあります。この発作では眼の痛みや眼のかすみ・充血はもちろんのこと、頭痛や吐き気が起こることも特徴的です。この発作の疑いがある場合は、すぐに眼科を受診する必要があります。
早期発見が難しい緑内障ですが、そのような中でも早期発見のために行われている工夫と啓発活動について、ご説明していきます。まず大切なのは、緑内障の検査を充実させることです。なかでも、早期発見のためには以下の3つが中心になります。
ただし、これらの方法すべてが確立されたものというわけではありません。順に説明していきます。
この検査は、人間ドックや企業健診で眼底の写真を撮るというものです。これにより、視神経の構造異常をみつけていくことができます。ただ、眼底の写真を見たとしても、専門家でなければと緑内障と近視との区別をつけにくい点がひとつの問題です。人間ドックであっても、疑わしいものがあれば専門医が読影(画像により診断すること)していく体制が臨まれます。
眼圧が正常値を超えていた場合、異常であるといえます。しかし、眼圧が正常値の範囲におさまった状態で起こる「正常圧緑内障」は全緑内障のうちの72%にものぼります。「眼圧が高い人」であれば「緑内障である」と考えることができますが、「眼圧が正常値である人」がただちに「緑内障ではない」といえるわけではありません。
現状、視野検査を行うためには暗室を作る必要があり、機械も高価になります。そこで、この簡便性があるとはいえない状況を改善するため、新しい方法での視野検査を目指しています。現在開発中である「ヘッドマウント型(ヘルメット型)の視野計測機器」は、2015年秋に発売される予定です。これを用いれば、毎回暗室を作る必要がありません。この機器を健診レベルで普及させることができれば、緑内障をはじめ、それ以外の疾患の早期発見にも活用することができると考えています。
以上の検査を1年に1度行っていけば、緑内障の健診としては十分であると考えられます。このようにして、少しでも早期発見できるように工夫がなされているのです。
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