認知症はメディアでたびたび取り上げられており、世間でも有名な病気です。しかし認知症と一言で言っても、そのなかにはアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症と様々な種類があります。今回は血管性認知症(VD)について、脳神経外科専門医でありばんどうクリニック院長の板東邦秋先生にお話をお聞きしました。
血管性認知症(VD)とは、脳卒中(脳血管障害:脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)によって脳内の神経組織が破壊され、そのことが要因となって現れる認知症のことを指します。単なる動脈硬化ではなく、脳血管障害により急性もしくは慢性の脳虚血により脳機能が低下することで認知症を来たすという考えが主流となっています。
ただし非常に難しい病気のひとつであり、認知症専門医でも十分理解されていない部分もある疾患の一つです。
多くは、脳梗塞などが原因で脳の血管が詰まり、脳へ酸素が運ばれず、その結果神経細胞や神経線維が壊れることが原因です。また、同じ脳卒中の仲間である「脳出血」の後遺症として、血管性認知症(VD)になることもあります。
そのほか、海馬や視床など、「記憶」に関係する部位への血管が破綻して発症するケースもあります。心停止や呼吸不全などによる脳虚血が原因となることもあります。
また、直接的な原因ではありませんが、血管性認知症(VD)を招く危険因子もあります。それは、脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の危険因子と同じく、高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、不整脈。さらに悪影響を与える生活習慣として、喫煙、過度の飲酒、肥満、ビタミン・ミネラルなど必要な栄養素の不足、バランスの悪い食事、運動不足、ストレス、日光浴などで浴びる紫外線、放射線、大気汚染物質、そして遺伝的素因などが挙げられます。
日本の認知症患者数は462万人と推定され、そのうち血管性認知症(VD)は約92万人(20%程度)といわれています。
かつては認知症は単一疾患であるとの考えが主流で、2大認知症であるアルツハイマーか血管性認知症(VD)の二者択一であるというような診断されませんでしたし、両者の混合型が存在するのではという概念もありませんでした。CTやMRIで小さな梗塞があれば、それはすべて血管性認知症(VD)にしていたのです。レビー小体型認知症は注目すらされていませんでした。それゆえ、1990年代は世界各国で日本でだけ、4割~5割くらいの割合の方が血管性認知症(VD)と診断されてきました。
今日では様々な研究結果から、認知症の分類も複雑になってきています。近年の日本の研究結果によると、アルツハイマー病、血管性認知症(VD)、レビー小体型認知症とそれぞれ呼ばれる認知症のうち、血管性認知症(VD)は全体の約20%を占めます。なお、認知症の約70%はアルツハイマー病であり、レビー小体型認知症は全体の4.3%程度です。
しかしアメリカなどの世界基準では、レビー小体型認知症が20%を占めます(レビー小体型認知症を初めて発見された小阪先生もこのように発言されています)。そして血管性認知症(VD)は17%程度であり、アルツハイマー型認知症は全体の半分程度だと言われています。そして残りの10%程度が前頭側頭葉変性症や「治る認知症」、例えば慢性硬膜下血腫などの頭部外傷、脳腫瘍、特発性正常圧水頭症、甲状腺機能低下症などのホルモン疾患や代謝性疾患などの病気です。
アルツハイマー病と比較すると、血管性認知症(VD)は男性に多いといわれています。しかし、男女差よりも年代で区別するほうが大事であり、40代以降になったら定期検査をした方がいいでしょう。
なぜなら、血管性認知症(VD)にもアルツハイマー型認知症にも言えることですが、認知症は生活習慣病と深いかかわりがあるからです。高血圧、コレステロール、糖尿病、尿酸、喫煙、過度の飲酒、栄養素の不足、バランスの悪い食事、ストレス、日光浴など紫外線、放射線など、様々な要素が脳血管疾患及び血管性認知症(VD)の原因となりえます。
一度原点に戻ってみましょう。そもそも脳卒中というのは何だかご存知ですか?
脳卒中とは、脳の血管が破れたり詰まったりすることにより発症する疾患です。脳卒中は、その直前まで健康であった方が突然症状が現れ、倒れてしまうのが特徴です。「脳が」「卒然として」「中る」から、「脳卒中」と呼ばれるのです。
前述のとおり、血管性認知症(VD)は脳卒中を原因とした認知症で、脳卒中の方の3~4割に発症するといわれています。
血管性認知症(VD)の最大の特徴は、MRI画像で脳血管病変が認められることです。症状としては、脳血管障害発症後認知症症状が突然出現したり、段階的に悪化しゆくなど特異的経過を取ることが多いとされています。繰り返しになりますが、血管性認知症(VD)になる方は、高血圧、糖尿病、心疾患など脳血管障害の危険因子(つまり生活習慣病の危険因子)を持っている方が多いことも特徴です。
つまり、カギとなるのは生活習慣病です。高血圧、高脂血症(高コレステロール・高中性脂肪)、一番いけないのが糖尿病。肥満や高尿酸血症、喫煙、過度の飲酒、栄養素の不足、バランスの悪い食事、ストレス、日光浴など紫外線、放射線など、あらゆるものが引き金になってきます。この生活習慣病を合併している・もしくは血管性認知症(VD)を発症する前に生活習慣病だった方が多いということです。
アルツハイマー型認知症と血管性認知症(VD)は表裏一体の存在であり、明確な差はあまりないとされています。ですから、少なくとも私自身は、血管性認知症(VD)とアルツハイマー型認知症はほとんど分けておりません。
実は、アルツハイマー型認知症と血管性認知症(VD)の血管性病変のうち6割程度は共通しているという事実があります。ですから、両者の区別はほとんどつかなくなっているといえるでしょう。血管性認知症(VD)が引き金になってアルツハイマーが出ることもあるのです。
アルツハイマーの診断基準となる「アミロイドβ蛋白」という物質が、脳梗塞になることによってもたまってくることがわかっています。両者の境はとても曖昧になってきており、「血管性認知症(VD)」と断言できる純然とした血管性認知症(VD)はもはや少なくなってきています。つまり、血管性認知症(VD)とアルツハイマー型認知症の混合型が出てきているということです。
前述のとおり、血管性認知症(VD)は脳卒中によって脳内の神経組織が破壊されたことによって現れる認知症です。
これに対してレビー小体型認知症は60歳以降に多く発症し、進行性の認知機能低下とともに幻視、パーキンソン症状などを起こす疾患です。初発症状として便秘や鬱などの症状がみられたり、認知の変動と比較的鮮明でリアルな幻視、歩行障害や振戦などのパーキンソン病にみられる症状を呈することが多いようです。
レビー小体型認知症は「レビー小体(αシヌクレイン)」と呼ばれる異常な構造物が脳の中枢神経系に広くできてしまうことによっておこります。つまり、同じ認知症ではあるものの、認知症を発症するメカニズムが異なるのです。
しかし血管性認知症(VD)とレビー小体型認知症混合型や互いの移行型の有無などは、報告例も少なく、明確な結論は出ていません。
ばんどうクリニック 院長
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