医療に携われていることへの感謝の気持ちを忘れず、日々の診療に励む

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医療に携われていることへの感謝の気持ちを忘れず、日々の診療に励む

婦人科がんの患者さんやご家族の気持ちに寄り添う冨尾 賢介先生のストーリー

国立国際医療研究センター病院 第二婦人科 医長
冨尾 賢介 先生

子どもの頃にお世話になった先生への憧れから医師の道へ

実際に医師になろうと決めて医学部を目指すようになったのは、中学・高校の頃です。同級生や兄が医師を目指していたことも影響しているだけでなく、やはり幼い頃に医師という仕事に憧れたことが大きく影響していると思います。

子どもの頃の私は喘息(ぜんそく)と中耳炎があって、その治療のために高校生くらいまでは毎週のように通院していました。両親にも苦労をかけたと思います。子どもだと病院を嫌がる場合が多いでしょうが、当時病院の方々が皆とても親切であったため、幸いにもあまり嫌がるということもなく、通院は私の日常の一部になっていました。そして、先生たちがいろいろな医療機器を使って診察する姿を見て「かっこいいなあ」と感じ、子どもながらに医師という仕事に興味を持つきっかけになったと思います。

婦人科がんを専門とする医師になることを決意

初期研修でさまざまな診療科を回るまでは、何科の道に進むかはまったく決めていませんでした。いよいよ初期研修を終える半年ほど前でしょうか。どの診療科を選択するか考えるなかで、産婦人科で研修をしたときの先輩方の雰囲気がとてもよかったことが印象的で。それが産婦人科を選択したきっかけです。また、産科と婦人科でさまざまな患者さんがいる産婦人科医の仕事の幅広さを知るにつれて、やりがいのようなものを感じていたからだと思います。

加えて、当時は産婦人科医不足が問題となっていたことも影響しているでしょう。特に婦人科がんの患者さんの診療にも携わるなかで、進行がんでは合併症で苦しむ患者さんも少なくない状況を目の当たりにして、自分が産婦人科医になることで少しでも力になれることがあるのではないかと思い、産婦人科の中でも婦人科がんを専門にしていきたいと考えたのです。

医師としてあるべき姿について学んだ日々

信州大学医学部で過ごした6年間は、医療とは直接関係ないことでも、できる限り自分自身で経験することを大切に過ごしたかけがえのない時間でした。山岳部に入って、鹿児島出身であったため経験のなかった山スキーに熱中したり、山菜採りや蕎麦屋さんでアルバイトをしたり。こうした活動を通じて当時出会い、お世話になったたくさんの地元の方々には、あらためて感謝の思いしかありません。

山岳部の顧問であった能勢 博(のせ ひろし)先生とは、今も研究面での交流だけでなく、年賀状でのやりとりも続けています。卒業時にいただいた「医師は当たり前のように先生と呼ばれるけれど、医師として働くことができるのは家族や周囲の方のお陰。“働かせてください”という気持ちを大切に」という言葉は私の原点になっていると感じています。能勢先生が信州大学を退官されてからも研究についての相談など交流は続いており、今に至るまで大変お世話になっているため、少しでも恩返しができればと思っています。

また産婦人科医になってからは、所属する医局(東京大学医学部産婦人科学教室)の多くの先生方から受けた教えが、私の財産になっています。大学院での指導教官でもあった川名 敬(かわな けい)先生(現 日本大学医学部附属板橋病院 婦人科主任教授)には、臨床を軸に、常に探究心を持って日々の診療にあたることの大切さとやりがいを教えていただきました。今、私も同じ都内で婦人科腫瘍(ふじんかしゅよう)を専門とする立場となっていますが、少しでも医局の先輩方に近づけるよう努力を重ねたいと思います。

後進の育成に尽力――患者さんとの信頼関係を大切に

後進の医師を指導するということは、自分が授かってきたものを次の世代につないでいくという意味で、大事な役割の1つであると考えています。技術や知識はもちろんですが、患者さんと信頼関係を築くうえで欠かせない“接遇”や“コミュニケーション技術”についても重視しています。

患者さんの状況はさまざまですが、少しでも「今日は病院に来てよかった」という気持ちになって家に帰ってもらいたい。そのためにも、適切な接遇を保ちながら、患者さんそれぞれの困りごとに向き合えるよう、日々の診療でも心がけています。

患者さんもさまざまですが、医療者の個性も十人十色ですから、模範解答があるわけではありません。正直、私自身も後進と一緒になって学ぶことばかりの毎日です。患者さんと接するなかで得られた多くの経験を、できる限り分かりやすく言語化することで共有し、よりよい診療や後進の育成に役立てられるよう、試行錯誤しながら日々の指導にあたっています。

今後の展望――患者さんがより元気に生活できるようサポートしていきたい

現在の医療では、患者さんの生活と治療との間にまだまだ隔たりがあるように感じることがあります。たとえば、がん治療を終えた患者さんや、産後や育児中にトラブルを抱えた方に対しても、もっと医療サイドからサポートできることがあればいいのに……と感じることもしばしばです。

患者さんの中には、適切な知識やサポートがないばかりに、後遺症や体調不良で悩まれている方も少なくありません。治療や出産を経験しながら、社会で活躍される方もますます多くなっている現代社会において、これまでの医療ではケアできていなかった、体調の管理や病気の予防に向けて、より専門的な立場からお役に立てるよう取り組みを行っています。

その一環として、運動についても適切なサポートを心がけています。近年、さまざまな病気の予防に運動が効果的である可能性が示されています。患者さんは何かと運動不足になりがちですが、これまで診察室では「運動してくださいね」と伝えるだけにとどまることも多かったと思います。効果を得るためには、どのような運動をどの程度したらよいのか具体的にアドバイスするのは難しいことでしたが、科学的な根拠を基に、患者さんの状態に応じたアドバイスやサポートができる体制づくりに努めています。

運動以外にも、食事や睡眠などの患者さんへのサポートもまだまだ行き届いていません。産婦人科には、がん患者さんだけでなく、月経不順や産後トラブル、排尿障害など幅広い年代でさまざまな悩みを抱えた患者さんがいらっしゃいます。スタッフ一同、手術や化学療法をはじめとした複数の治療選択肢の中からよりよいがん診療を提供できるよう、日々研鑽を重ねていますが、今後はこのようなサポートも診療の中で充実させていくことで、多くの患者さんにとって、日々元気に過ごすためのお手伝いができれば嬉しく思います。

医療に携われていることに、常に感謝を忘れずに

医師として勤務し始めてから今まで、もちろんつらい経験もたくさんありましたが、今もこうやって医療に携われていることは、何よりもありがたいことだと感じています。きっと医師になるまでも、医師になってからも、多くの方々に助けてもらったおかげで、働くことができているからだと思います。恩師の能勢先生からの言葉でもありますが、これからも常に感謝の気持ちを忘れずに、いつかは何か恩返しができるよう、これからも患者さんやご家族に真摯に向き合って診療を行ってまいります。

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