患者さんがよくなることが、何にも代えがたい喜び

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患者さんがよくなることが、何にも代えがたい喜び

よりよい医療を追求すべく、世界にも視野を広げていく秋山 純一先生のストーリー

国立国際医療研究センター病院 消化器内科 医長・診療科長
秋山 純一 先生

医師を目指したきっかけ

私が医師を目指し始めたのは、高校3年生の時です。それまでは、大学の英語を教えていた父と祖父の影響や、高校時代のアメリカ留学の経験から、「将来は自分も英語を専門とした仕事をするのだろう」と何となく考えていました。

そんなふうに考えているとき、父から「これからの時代、国際交流がもっと盛んになっていくだろう。だから、英語を専門にするのではなく、英語を使いながらほかに専門を持ったほうがよいのではないか。」とアドバイスをもらいました。また留学中、アメリカの家庭で生活していたときに偶然周りに医師が多くいた環境だったこともあり、「ならば医師を目指してみようかな」と思ったのが始まりです。

人生のターニングポイントとなった、恩師との出会い

卒業後すぐに国立国際医療研究センターへ

医師として国際的な活動をできればという思いもあったことから、大学卒業後は、当時から国際交流が盛んだった国立国際医療研究センターに入職しました。それ以来、2年間の留学を除き、この病院で医師をしています。

たくさんの患者さんと関わりたいという思いから内科に進みたいと思っていましたが、具体的な診療科については決めかねていました。そんななか、消化器内科に進むきっかけとなったのが、2人の先生との出会いでした。

1人は当時の消化器内科の部長で、後に病院長になられた故・梅田 典嗣(うめだ のりつぐ)先生です。以前、筑波大学消化器内科の助教授をされていたことから、当時の医学部長の先生より紹介を受けて学生時代に見学に伺いました。親分肌の非常に面倒見の良い先生であり、内科の中でも患者さんの数が最も多い消化器内科への道を勧めて下さいました。もう1人は、消化器内科の医長だった松枝 啓(まつえだ けい)先生です。松枝先生は、米国で医師として勤務されていた経験もあり、炎症性腸疾患や消化管運動について日本での中心的な役割を果たされていました。これからは逆流性食道炎の患者さんが増えるからと、逆流性食道炎の病態を詳細に調べることができる24時間pHモニタリング検査の機器を購入し、臨床研究を行うことを勧めて下さいました。機器が高額なこともあり、日本では今でもこの検査ができる施設は限られていますが、当院では松枝先生が作って下さったきっかけによって、積極的にこの検査を実施しています。

また梅田先生の後に、消化器内科の部長に就任された上村 直実(うえむら なおみ)先生との出会いも私の人生に大きな影響を与えています。上村先生は臨床研究に非常に精通されている先生で、疫学研究によってピロリ菌と胃がんの関係性を突き詰めたことで世界的にも名が知られています。上村先生からは、臨床研究の進め方や手法について多くのことを学びました。この経験は私にとって非常に大きな糧となりました。

*24時間pHモニタリング検査:逆流性食道炎の病態を詳しく調べるために行うもので、食道や胃のpHを24時間連続で記録することができる検査。

スタンフォード大学への留学――病態生理学の学びを深める

こうした恩師のすすめもあり、2010年に米国のスタンフォード大学へ2年間の留学をしました。そこで出会ったのが留学先の研究室のボスであり食道疾患の専門家のDr. Triadafilopoulosです。

消化器内科は内視鏡を使って検査や治療を行うことが多いですが、実はそれだけではなく、内視鏡では見えないような隠れた原因などを解明する、病態生理学からのアプローチも非常に重要です。先に述べた24時間pHモニタリング検査も、まさに病態生理学からのアプローチによる検査です。

日本は内視鏡検査・治療においては世界をリードしている一方で、病態生理学からアプローチする診療は、世界に対して遅れをとっていました。Dr. Triadafilopoulosは米国の著名な内視鏡学会雑誌の編集者であると同時に、食道機能検査にも非常に詳しい先生で、留学中にたくさんのことを教えていただきました。Dr. Triadafilopoulosのもとで内視鏡診療とともに食道機能に関しての最新の知識をアップデートでき、非常に得るものの多い2年間になりました。

病態生理学:生体の正常機能の破綻により何らかの症状や病気が引き起こされる原因や経過を理解するための学問

医師として大切にしていること

私が大切にしていることの1つは、EBM(evidence-based medicine)の実践です。EBMは日本語にすると“根拠に基づく医療”のことで、これまでに得られた研究結果(科学的な根拠)を基に、よりよい医療を患者さんに提供しようとするものです。EBMの実践のために、日本だけでなく世界の状況にも目を光らせて、常に最新の知識や技術をアップデートしていくことを意識しています。

一方で、患者さん一人ひとりによって抱える悩み、取り巻く状況といった社会的背景が違うため、EBMに基づく医療だけが、必ずしも患者さんにとって適切とは限らない場合があります。そのため、患者さんを診るときには医師と患者ではなく、“人と人”という目線で、目の前の患者さんと対話することをとても大事にしています。こうして患者さん特有の状況を理解することで、その患者さんにとってのよい医療に結びつけることができると思っています。

当然全ての治療が100%うまくいくわけではありませんが、こうした診療を心がけた結果、これまでなかなか治療がうまくいかなかった患者さんの症状を取り除くことができたときには、私も本当に嬉しくなります。

「先生のおかげで、楽になりました」と、患者さんに笑顔で言っていただいたときは、医師をやっていてよかったな、と心から思う瞬間です。

世界にも目を向け、活動の場を広げていきたい

医師になった最初のきっかけが、「英語を使って専門的な仕事をしていきたい」という思いだったこともあり、今後も世界に目を向けて、活動の幅を広げることを心がけています。積極的に海外の学会に参加したり、海外の先生方と交流を深めたりすることで、常に新しい情報や知識を吸収し、患者さんへのよりよい医療の提供につなげたいと思っています。

最近では、食道機能検査の1つである食道内圧検査の国際ワーキンググループの一員として、新しい診断基準の改訂にも携わりました。

また、厚生労働省から依頼を受けて、10年ほど前からICD-11への改訂に向けたWHO(世界保健機関)の会議にも参加しています。診療に限らず、幅広いフィールドで医療に携わっていくこともこれからの目標です。

*ICD:世界における疾病や傷害、死因の統計分類である国際疾病分類のこと。WHOによって作成されている。2003年に第10版であるICD-10に改訂され、現在は第11版となるICD-11への改訂作業が進められている。

チームの総合力で、患者さんにとってよい医療を提供していく

目の前の患者さんにとって適切な診療は何かを慎重に見定め、実践していくこと。これが、医師として何よりも大切なことだと思っています。しかし、このためにはチーム全体の力が必要です。当院の消化器内科には、多様な個性と才能を持った多くの先生たちが集まってきてくれています。これからも、それぞれの先生が持つ個性を生かして、活気のあるチームに成長させていくことで、患者さんへのよい医療を提供していければと思っています。

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