群馬県立心臓血管センターは、1940年6月に県立の教員保養所として群馬県前橋市に開設されました。1962年に県立前橋病院と名称を改め、1994年には県の方針により循環器系の専門治療を提供する体制を強化、県立循環器病センターに改称をします。その後も心血管分野の治療実績や設備の強化を重ね、2001年に現在の群馬県立心臓血管センターに名称変更、心疾患を持つ患者さんに対して専門的な医療を提供しています。
今回は院長の内藤 滋人先生に、これからの循環器医療を専門とする病院としてのあり方や、患者さんとの向き合い方についてお伺いしました。
当院では、心血管分野に特化した“虚血部門(循環器内科)”、“不整脈部門(循環器内科)”、“心臓外科部門(心臓血管外科)”、“心臓リハビリ部門(循環器内科)”の4つの診療部門が病院の4本柱として連携し、日々患者さんの治療にあたっています。
この4本柱が一体となることで、狭心症や心筋梗塞を主とする虚血性疾患、各種不整脈疾患、成人先天性疾患、心不全、大動脈疾患などの患者さんに対し、専門医療の提供から再発予防のリハビリテーションまでを一貫して行っています。
また、当院では24時間体制の心疾患救急対応を実施しています。心血管疾患の中でも、特に不安定狭心症・急性心筋梗塞・大動脈瘤破裂、大動脈解離などの治療は時間との闘いであり、迅速な対応が求められます。遠方で発症し、一刻を争う患者さんのために群馬県ドクターヘリの受け入れも行っています。
心臓血管手術においては、循環器内科と心臓血管外科が診療科を越えたチームとなって治療にあたり、心房細動などに対するカテーテルアブレーションや経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)、冠動脈形成術、大動脈瘤に対するステントグラフト治療などの手術に積極的に取り組んでいます。
また、当院には手術台と心・脳血管X線撮影装置を併設したハイブリッド手術室があり、2015年より運用を開始しております。術中に患者さんが移動することなく、内科治療と外科治療を組み合わせたフレキシブルな治療ができる手術室です。これにより、より迅速かつ衛生的に取り組むことが可能になりました。
先に述べた手術のほか、心臓移植を待つ患者さんへの植込み型補助人工心臓の装着手術にも対応していますし、リードレスペースメーカーの埋め込みや、感染リード抜去も行っています。
成人先天性心疾患(アダルト・コンジェニタル)とは、生まれつき心臓が悪く小児期に手術を受けたり、経過観察を経て成長し、成人した患者さんが持つ心疾患です。当院は、2012年4月に群馬県立小児医療センターと連携して、成人先天性心疾患の患者さんを受け入れる成人先天性心疾患外来を立ち上げ、治療や経過観察にあたってきました。その実績により2019年6月、成人先天性心疾患専門医療連携修練施設に認定されています。今後は総合修練施設と連携し、心臓血管外科・循環器内科における成人先天性心疾患の診療と同分野を専門とする医師の育成を行っていきます。
また、成人先天性心疾患の患者さんのなかには、心房中隔欠損(ASD)ならびに動脈管開存症(PDA)を持つ方がいます。これらの病気は、治療しないまま成人期や中年期を迎えると、心不全や不整脈の原因となることが知られています。当院は、2019年5月に日本Pediatric Interventional Cardiology学会(JPIC)と日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)におけるASD、PDA両方の施行施設に認定され、ASDやPDAの患者さんにも可能な限り適切なカテーテル治療を提供しています。今後も、患者さんの負担が少ない手術や治療の実施に取り組んでいきます。
当院は循環器系の診療科以外にも整形外科、消化器外科を併設し、循環器疾患と合併した消化器疾患や整形外科疾患に対応しています。
整形外科では、四肢の外傷やスポーツ障害、脊椎などの変形疾患の治療を行っています。また、患者さんの高齢化から、転倒などによる骨折に対する外科手術や、骨粗しょう症を予防するための検査と診断後の治療、リウマチや痛風などの治療にも積極的にあたっています。さらに、高齢患者さんの日常生活動作の維持・改善のために、リハビリテーション課と連携して手術前の機能訓練も行っています。
消化器外科では、腹痛、下痢や便秘などの消化器関連症状の診察・治療や、消化器(食道・胃・大腸・肝胆膵)の検査や診断を行っています。また、消化器がんの患者さんに対しては、手術や抗がん剤による治療から緩和ケアまでを行っています。群馬大学大学院医学系研究科総合外科学講座と連携を取りながら、可能な限り患者さんの望む治療を提供できるように努めています。
現在の群馬県立心臓血管センターに改称した2001年、当院は隣接する県有地にぐんまリハビリパークを開園しました。寺沢川が流れる高台の自然豊かな環境の中に建つ当院と同様に、四季の花々を楽しみながら、散策や運動をすることができる自然に恵まれた環境にあります。患者さんのリハビリテーション施設として活用されているほか、地域の皆さんの憩いの場にもなっています。
心筋梗塞や狭心症が起こりやすくなる原因(冠危険因子)には、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙が挙げられます。これらの冠危険因子を持つ方々を対象に、当院では毎月ヘルスアップ教室を開催しています(2019年9月時点)。医師・看護師・理学療法士・管理栄養士・薬剤師・健康運動指導士などの医療スタッフによる運動指導などを行い、動脈硬化の予防やメタボリックシンドロームの解消を目指しています。今後も、参加した皆さんの身体機能を高め、QOL(生活の質)の向上や健康年齢を延ばせるようにさまざまな試みを行っていきます。
心疾患を持つ患者さんの急性期治療やその後の再発防止に対応するためには、地域のかかりつけ医との緊密な連携が必要になります。当院は地域医療支援病院に認定されていることから、定期的に勉強会や講演会を行い、当院と連携している登録医療機関や登録医との相互理解や協力体制を強化しています。また、地域の患者さん一人ひとりの症状に合わせた医療を地域全体で効率的に提供するため、紹介型外来の導入と逆紹介の推進に努めています。
1996年より、当院ではレジデント(後期研修)制度を導入しています。初期臨床研修が終了した研修医に対し、協力型臨床研修病院として後期臨床研修を実施しています。当院のこのレジデント制度は、すでに20年以上の歴史があり、当院で研修を終えた医師が各地で活躍しています。
当院には、日本心血管インターベンション治療学会認定の心血管インターベンション指導医や日本ステントグラフト実施基準管理委員会の認定する胸部ステントグラフト指導医・腹部ステントグラフト指導医をはじめとした、各学会認定指導医がそろっています(2019年9月時点)。こうした専門医・指導医から指導を受けながら、これからの心血管分野を担うための専門知識を臨床現場で身につけていってほしいと思います。当院は、これからも患者さんの未来の生活をつくり、共に寄り添っていける医師を育成していきます。
当院では、在籍医師が心血管分野を担当する医師として知識を深め、より専門性を高められるように、研究や学会発表への支援を積極的に行っています。学会に参加するために出張する際は、国内はもちろん海外でも費用をサポートし、意欲ある医師の研究を応援しています。
私は院長という立場ですが、外来診療も担当します。現場第一で診療に携わり、当院が理念としている“患者本位の医療”を実現するため、日々邁進しています。
常により新しく高度な心血管治療を、可能な限り確実かつ安全にお届けできるように尽力するとともに、近年は、地域の患者さんに心疾患以外の症状に関してもお気軽にご相談いただけるように、複合的な症状を持つ患者さんの治療にも積極的に対応しております。
群馬県立心臓血管センター 院長
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まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。