栃木県宇都宮市にある独立行政法人国立病院機構 栃木医療センター(以下、栃木医療センター)は、開設116年(2024年時点)の歴史ある総合病院として、がんや脳卒中、循環器疾患などの急性期医療や救急医療に対応しています。近年は地域の医療機関と協働して地域包括ケアシステムを推進するほか、コロナ禍では地域災害拠点病院や第二種感染症指定医療機関として患者さんを積極的に受け入れるなど、多方面で地域貢献に努めています。そんな同院の特長について、院長の石原 雅行先生にお話を伺いました。
当院は1908年に陸軍病院として開設され、独立行政法人化を経て2013年に栃木医療センターへと改称しました。現在は、がんや脳卒中、循環器疾患などの急性期医療や2次救急(入院を要する救急)の対応を通じて地域医療に貢献しながら、高齢化の進む社会に順応できる医療体制の構築を急いでいます。
宇都宮市はなだらかな山地が続く見晴らしがよい土地です。病棟の上層階からは美しい富士山を眺めることができます。観光資源の多い活気のある街で、当院の職員は生き生きと医療活動に励んでいます。
高齢化は、年々進行しています。そのような状況で当院は肺炎、心不全、高齢の方のがん、骨折、脳卒中などの高齢の方によくみられる疾病に対する急性期医療を充実させ、時代に即した医療を提供できるように努めてきました。一般的には高齢になるにつれて複数の病気を抱える方が多くなるため、当院では総合内科(総合診療科)、救急科、循環器内科、脳神経外科、精神科、整形外科など、多職種の連携により包括的な診療を行っています。
実際に当院を退院された患者さんの年齢分布では、60歳代以上の患者数が全体の70.2%を占めていました(2023年1〜12月病院指標より)。高齢の方の転倒による骨折や、老化に伴う消化器や口腔内の機能低下はもとより、認知症の患者さんに多く対応しています。中でも、認知症の診療としては2023年に認知症(アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症)の進行を抑制する新薬として薬事承認を受けた“レカネマブ”を、当院でも早速治療の選択肢の1つとしています。
小児外科・小児泌尿器科では、ヘルニアや虫垂炎、肥厚性幽門狭窄症などの小児外科疾患のほか、水腎症、膀胱尿管逆流症、尿道下裂といった小児泌尿器科疾患に幅広く対応しています。医師や看護師はもちろん、日本小児臨床アレルギー学会認定の小児アレルギーエデュケーター(アレルギーのある患者さんを専門に指導する医療従事者)の資格を有するスタッフと協力し、専門性的な診療と看護を提供しています。
現在はスタッフを増員し小児外科・小児泌尿器科に常勤医が3名在籍する体制で(2024年5月時点)、地域の医療ニーズに応えています。小児診療は、お子さんの健全な成長を支える役割を担う重要な分野です。我々は地域を支える医療機関として、親御さん世代が安心して子どもを育てられるような環境づくりに今後も尽力する所存です。
当院は、4階フロア全体を地域包括ケア病棟として運用し、在宅復帰に向けた診療、看護、リハビリテーションにより患者さんの退院をサポートしています。急性期の治療が済んだら終わり、ではなく、在宅復帰に向けた診療や看護、そして安心して退院後の生活に移行できるような橋渡しも当院の責務です。たとえば退院後の生活を見据えたリハビリや服薬指導のほか、社会復帰や経済的問題などについても職員が相談に応じ、一貫して患者さんに寄り添うシームレスな診療に努めています。
そうした取り組みの根底には、院長として大切にしている「地域のニーズを中心に考える」という信念があります。伝統的な医療の枠組みだけで病院運営を考えるのではなく、時代の変遷とともに変わりゆく地域のニーズを敏感に察知し、医療体制を柔軟に改革していかなければなりません。
以前より率先して取り組んでいる地域医療構想*においても、地域のニーズをきちんと反映した医療機関の統廃合や病床の機能分化(一般病床が担う機能を分析し、地域ごとに必要に応じた適切な病床を割り当てること)を重要視しています。病院ごとにさまざまな考え方があり一筋縄ではいきませんが、地域の医療機関と協議するなかで、まずは新興感染症などが発生したときでも破綻しないような救急連携体制を整備することから進めようと話し合いを行っています。
*地域医療構想:2025年に向け、病床の機能分化と連携を進めるために、医療機能ごとに2025年の医療需要と病床の必要量を推計し、定めるもの。
当院の理念は“信頼、貢献、協働”です。あえて単語にしているのは、シンプルさを追求したのと、主語を置き換えられるからです。たとえば「地域に信頼され、地域に貢献し、地域と協働する病院」とも捉えられますし、「職員に信頼され、職員に貢献し、職員と協働する病院」とも言い換えられます。
当院には、医師が少なかった時期の名残で、診療科の枠を越えて職員同士が助け合う風土が育まれています。限られた医療資源の中でなるべく多くの患者さんを救おうとする、職員の力を結集したチーム医療の挑戦はこれからも続くでしょう。地域を支える総合病院として、人々のニーズに柔軟に応えられるよう、今後も全力で医療活動に励んでまいります。