愛知県豊田市の豊田地域医療センターは、“救急医療”・“健診検査”・“看護師養成”・“在宅医療の推進”の充実を図り、豊田市を中心に多くの患者さんを受け入れている公設民営の病院です。
2020年11月に新病棟が竣工し、施設の充実が図られている同院の役割や今後について、院長の堀口 高彦(ほりぐち たかひこ)先生に伺いました。
当院は豊田市が設立し、公益財団法人豊田地域医療センターが運営している公設民営の医療施設で、豊田市を中心に多くの患者さんを受け入れています。病床は一般病棟が50床、地域包括ケア病棟が100床、回復期リハビリテーション病棟が40床で、急性期から慢性期までさまざまな容体の患者さんに対応しています。
また、市内にはトヨタ記念病院や豊田厚生病院などの病院があり、高度急性期を過ぎた患者さんを当院に紹介してもらうなど、地域の医療機関と連携を取りながら先進的な治療を提供しています。
豊田市は今後高齢化が進み、訪問診療や訪問看護といった在宅医療を必要とされる患者さんが増えて行きます。それに従い、患者さんがご自宅で自分らしい暮らしを続けつつ医療を受けられる体制(=地域包括ケア)が求められていると認識しています。
そこで当院は、2020年11月に新病棟の竣工に際し、より病院の機能を充実させるとともに、“コミュニティ・ホスピタル”を新しく生まれ変わった当院の病院像として定め、地域の方々が安心して医療を受けられるよう支援する体制を強化しました。
"コミュニティ・ホスピタル"は一般的に199床以下の病院で、地域包括ケア病棟を持ち、在宅療養支援を行う病院を指します。このような病院では、総合診療医によって外来・病棟・在宅のシームレスなケアを住民に届けることが多くなっています。当院では豊田市の地域包括ケアの一翼を担う存在として、当院ならではの“コミュニティ・ホスピタル”を以下のように再定義しました。
これにより当院は、豊田市のさまざまな医療機関と連携を強めつつ、外来・病棟・在宅のどこでも患者さんに質の高い医療を提供できる、地域に根ざした病院を目指します。
またこのような“コミュニティ・ホスピタル”になるために、当院では総合診療・地域リハビリテーション・アレルギー疾患の3つの領域を重点的に取り組み、地域でこれらの医療を必要とする患者さんに対して積極的にサポートしていきます。
当院が“コミュニティ・ホスピタル”の中核として位置づけているのが、お年寄りから子どもまで外来・在宅・救急などにかかわらず、シームレスに多くの疾患や健康問題に対応する総合診療科です。総合診療科は特定の部位や専門領域にとらわれず、急性期から慢性期まで幅広い病気を診ることができる点が特徴です。
たとえば、体調が悪くなったけどどの診療科に受診するべきか分からないという外来患者さんの初期診療から、健康診断で異常を指摘された患者さんの健康に関する相談、親の介護で困っているというご家族の健康の相談まで、幅広い病気のケアや悩みに対応します。また診療結果に応じて治療を行い、適切な診療科や病院を紹介しています。当院は総合診療医が約30名在籍しており、現在、在宅医療で600人を超える患者さんを診ているほか、外来診療では予約なしで診察を受けていただくこともできます。健康や病気のことで不安がある方は、ぜひ当院の総合診療科を受診ください。
我が国における死因は、がん、心疾患に次いで老衰が3番目に多くなっています。老衰に対してはご高齢の方の老化に伴う心身機能の低下を防ぐことが重要とされ、そのためには地域の方々が生活の中でも主体的に健康増進の活動を取り組むことが重要です。
当院のリハビリテーション科では患者さんのライフステージに合わせて適切なリハビリテーションを提供し、皆さんが住み慣れた場所で暮らし続けられるよう “地域リハビリテーション”を行っています。さらに当院は、地域の皆さんが生き生きと暮らせる社会を目指して、“地域リハ イノベーションセンター”を設立しました。当センターではたとえば、運動機能に関連した検査結果をもとに、リハビリテーション科の医師が一人ひとりにアドバイスをする“サフロ健診”(サルコペニア、フレイル、ロコモティブシンドローム)や、患者さんの病状に合わせてIT・ロボット技術を活用したリハビリテーションを行っています。
なお、リハビリテーションでは藤田医科大学ロボット技術活用地域リハビリ医学寄附講座と協力のもと、産官学で連携してロボットやIT技術の実証実験を行い、その成果を地域リハビリテーションの発展のために展開しています。
さらに、地域の皆さんがよりよいリハビリ製品を活用できるよう、地域の方々、医療・福祉施設、企業、行政間で製品の体験や議論を行う場として、”地域リハ イノベーションフォーラム“を定期的に開催し、“地域リハビリテーション”を地域に広め、根付かせる取り組みに注力しています。
今や国民の2人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹っているといわれています。
しかし、食物アレルギーについて成人患者さんを扱う医療機関がまだまだ少ないこと、気管支喘息については治療法が進歩しているものの未だに年間で約1,000人の方が亡くなられていることなど、アレルギー疾患の治療にはさまざまな課題があります。
また、愛知県にはアレルギー学会の認定医が350名程度いるものの、豊田市のアレルギー学会認定の専門医は16名と少ない状況があります。そこで、当院は豊田市のアレルギー診療体制の強化に貢献するため、2023年にアレルギーセンターを開設しました。
対象となる疾患は食物や薬剤を中心とするアレルギー疾患、喘息・間質性肺炎・肺がんなどの呼吸器疾患、さらにアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎などであり、重症や難治性のアレルギー疾患から合併症まであらゆる病気に対して包括的に治療を行います。
当院のアレルギー・呼吸器疾患の治療では、全国から多くの喘息の患者さんが診療にいらっしゃっています。アレルギー疾患にお困りの方はぜひ当院を受診ください。
当院では、目指すべき病院像として掲げる“コミュニティ・ホスピタル”の実現に向けて、地域医療をシームレスにつなぎ、患者さんを支えるために在宅医療の体制整備に力を入れています。
現在は”家に帰りたいを叶える在宅医療“をモットーに、通院が困難な方や自宅で療養生活を送りたい方に対して、子どもからお年寄りまで24時間365日の在宅支援を行っています。当院の在宅医療は入院中とほぼ同様の治療が可能です。在宅で応急処置が必要な場合でも当院でのチーム医療の強みを生かし、他職種との連携を通じて迅速な対応を行うので、ぜひ在宅医療が必要な方は当院へご相談ください。
また、当院の訪問診療の患者さんが在宅療養中に体調が悪くなった場合は、“在宅支援入院制度”にて当院へ入院いただき、体調が回復すればまたで自宅で療養生活を送ることができます。制度のご利用には事前の登録が必要ですが、このように在宅と病棟をシームレスにつなぐことで、在宅療養の患者さんとそのご家族が安心した療養生活を送れると考えています。当院では今後も在宅医療を充実させていき、豊田市の誰もが当たり前に在宅医療を選択できる社会を目指しています。
在宅医療を充実させるためには、それを行う人材が必要になります。そこで当院は“地域医療人材育成センター”を設立し、その中で2つの分野で人材育成を行っています。
1つ目は豊田市の在宅医療を支える訪問看護師の育成です。当センター内に設置した豊田訪問看護師育成センターでは、“豊田市の在宅療養を担う訪問看護師は豊田市で支える”のスローガンのもと、看護師資格を持った方に対して訪問看護に必要な知識や技術の習得ができる育成カリキュラムを提供。毎年20名の受講生を集めています。
2つ目は、当センター内にある“豊田総合療法士育成センター”で行う療法士の育成です。ここでは在宅生活に関する総合的かつ多面的な視野を持ち、社会参加を促進できる療法士の人材の育成を目指しており、受講後は豊田市の在宅生活に携わる療法士として、さらには地域医療を担うリーダーとして活躍することを期待しています。
当院は、我々が掲げる“コミュニティ・ホスピタル”の定義で“市民が集い、交流する地域に開かれた病院”とあるように、地域の方々に知っていただき、頼っていただける病院を目指してさまざまな取り組みを行っています。
その1つが、地域の皆さんを対象に健康増進に関する情報をわかりやすく提供する“豊田市民公開講座”の開催です。2024年の5月には“食物アレルギーの最新情報“をテーマに開催し、多くの方にご参加いただくことができました。今後も豊田市民公開講座にてさまざまな情報を発信していくので、興味のある方はぜひご参加ください。
※詳細はこちらをご覧ください。(https://www.toyotachiiki-mc.or.jp/news/1372/)
また、地域の皆さんにとっての交流の場となっている梅坪台交流館にて当院では月に1度、“うめつぼ保健室”を開催しています。ここでは、子育て中のお母さんから高齢者まで何らかの悩みを抱えている方が当院の医師や看護師、豊田市保健師、社会福祉士などに相談できる場として提供しています。これまで、高齢者の福祉や赤ちゃんの食事について相談したい方など、病院にかかるほどでもないちょっとした悩みの相談にお越しいただいています。是非ささいなお困りごとでもご相談がありましたら、お気軽にお立ち寄りください。
私は大学時代に開発した喘息治療において、吸入器から薬を吸い込む際の吸入方法“ホー吸入”を開発したことから始まり、2020年には日本喘息学会の立ち上げに携わるなど、呼吸器やアレルギーに関する分野で長く研鑽を積んできました。愛知県はアレルギー分野の権威が多い中で、当院が中心的な役割を担っていくのが私の目標です。アレルギー疾患は症状が多岐にわたり、悩んでおられる患者さんが多い国民病です。こうした活動の積み重ねが、地域の皆さんの貢献につながると考えています。
最後になりますが、喘息の治療に関して全国の薬剤師さんにお願いがあります。喘息の治療でとても大事な治療の本幹となる吸入療法については、医師が説明をして、薬剤師さんや看護師さんが具体的な使い方を指導することが多いと思います。そこで、日本喘息学会では吸入のエキスパートを育成することを目的に、資格認定試験を開始することにしました。認定試験を受けるためには学会への入会が必要となりますが、薬剤師さんの入会数が少ない状況です。ぜひ学会に入会し、資格認定試験を受けていただきますようお願い申し上げます。詳細はホームページを参照してください。(https://jasweb.or.jp/)