院長インタビュー

先端的医療の提供と開発を使命に、未来の医療の礎を担う東京大学医科学研究所附属病院

先端的医療の提供と開発を使命に、未来の医療の礎を担う東京大学医科学研究所附属病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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1894年2月に伝染病研究所附属医院として開設された東京大学医科学研究所附属病院は、国内唯一の国立大学の研究所附属病院です(2024年7月現在)。研究所内外の部門や施設などと協働し臨床研究の第一線を走る同院には、どのような特徴や強みがあるのでしょうか。第23代病院長である藤堂 具紀(とうどう ともき)先生にお話を伺いました。

1894年の設立から2024年で130年の節目を迎えた東京大学医科学研究所附属病院は、“近代日本医学の父”として知られる北里 柴三郎(きたさと しばさぶろう)博士が初代所長として就任していた大日本私立衛生会附属伝染病研究所(現・東京大学医科学研究所)の附属病院として設立されました。

当院は、先端的な医療の提供にとどまらず“次の先端的医療を開発する”という役割をも担っています。常に高い医療技術と開発力の両方を備えることを期待されている、国内唯一(2024年7月時点)の国立大学研究所の附属病院なのです。

当院は、2011年10月に脳腫瘍外科(のうしゅようげか)をおそらく日本で初めて診療科として標榜しました。当科ではさまざまな脳腫瘍を対象とした診療の中で、手術や放射線治療、化学療法だけでなくウイルス療法なども行っています。悪性脳腫瘍の摘出手術においては、脳腫瘍を最大限に切除しつつ脳機能の損失を最小限に抑えることが重要であるため、脳の術中ナビゲーションや脳機能の術中モニタリングなど脳外科手術で用いる最先端の医療機器をそろえています。

そして当科最大の特徴は、悪性脳腫瘍の1つ神経膠腫(しんけいこうしゅ)グリオーマ)に対して、世界でもまだ珍しいウイルス療法を行っているという点です。2021年6月に、当院が開発した“テセルパツレブ”が、脳腫瘍に対する世界初のウイルス療法薬として承認されました。当科には全国各地から、さらには海外の方からの問い合わせも届いています。

外科では大腸がん胃がん鼠径ヘルニア大腿(だいたい)ヘルニア・閉鎖孔ヘルニア、急性腹症虫垂炎大腸憩室炎など)や肛門疾患(こうもんしっかん)、一般的な外科(胆石症など)といった幅広い範囲に対応しており、その中でも特に力を入れているのが大腸がんと胃がんの外科手術です。“初診から1か月で手術・退院まで”を目指し、可能な限り低侵襲(ていしんしゅう)(体への負担が少ない)な手術をするよう心がけています。たとえば大腸がんの場合、直腸がんや結腸がんに対してロボット支援下手術を取り入れ、胃がん手術では“がんに対する根治性を損なうことなく、残せる胃は残す”という方針で、傷口の小さい腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)を積極的に行ってきました。我々は、治療を通じて患者さんに笑顔になってもらえるよう日々全力を尽くしています。

2020年7月に新たに開設された泌尿器科は、前立腺がん腎臓がん膀胱がんといった泌尿器科の悪性腫瘍を得意とするほか、尿失禁過活動膀胱前立腺肥大症などの治療にも対応しています。外科手術においては、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術などの低侵襲手術を積極的に導入し、患者さんの心身の負担の軽減に努めてきました。また、女性の患者さんに対しては女性医師が担当するなどの配慮もしていますので、気になる症状があれば遠慮なくご相談いただければと思います。

当院は設立以来、時代の先端的医療を提供し開発するという使命を果たすべく、トランスレーショナルリサーチ(新しい医療開発のために研究者が発見・発明したことを実用化させるまでのプロセス)や治験に尽力してきました。それは、たとえば1998年にがん遺伝子治療として腎臓がんを対象とした臨床試験を日本で初めて実施したことや、1980年代に国内でいち早くHIV感染症への診療に取り組んだ歴史にも表れています。

さらに前述のとおり、2021年には世界で初となる脳腫瘍に対するウイルス療法薬の承認も実現させました。この薬についても、承認がゴールだとは考えておりません。「今や日本人にとって最大の国民病ともいえるがんを治したい」その一心で研究を続け、ようやく今に至るのです。しかしここからが、がん治療の可能性をさらに広げるための新たなスタートとも捉えています。悪性脳腫瘍だけでなく、そのほかのあらゆるがんにも使えるように、次世代のウイルス療法薬の研究と開発を続け、がん治療の選択肢を広げたいと考えています。

当院はその病院名ゆえに「先端的医療を受ける患者さんしか受け入れていないのでは」というイメージを持たれることも少なくありません。しかし、実は紹介状がなくても受診が可能ですし、紹介状なしの患者さんに対して選定療養費(保険外自己負担)をいただくこともないという、門戸の広い医療機関なのです。

標榜する診療科は時代によって変容した部分もありますが、設立以来、高い医療技術を保ちながら、内科・外科の基本の診療と地域医療を大切にしてきました。治療内容の変化や医療技術の進歩などに順応すると同時に、“常に患者さん目線を忘れず診療する”という基本姿勢は、今後もしっかりと守っていく所存です。当院のこうした一面をもっと皆さんに知っていただき、地域の方々に当院をもっと気軽に頼っていただけるようになれたらうれしいです。

研究所の附属病院という珍しい特色を持つ当院は、設立以来、常に時代の先端的医療の提供に努めるとともに、新たな科学技術や知見を用いて革新的医療の開発も続けてきました。

医療は時代とともに目まぐるしい変化と進化を続けてきましたが、我々は今後も“時代の先端的な医療開発を担い続ける存在”であるとともに“地域の方々に気軽に頼ってもらえる、親しみを持ってもらえる病院”でもありたいと考えます。当院に対する、より一層のご理解とご協力を賜れましたら幸いです。

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