口の中が白い:医師が考える原因と対処法|症状辞典
東京歯科大学オーラルメディシン・病院歯科学講座 主任教授、東京歯科大学市川総合病院 歯科・口腔外科
松浦 信幸 先生【監修】
口の中は汚れがたまって細菌やカビが繁殖しやすく、咀嚼や発声などによって常に刺激を受けている部位であるため、さまざまな変化やトラブルを生じることがあります。
なかでも、薄紅色を呈した頬粘膜や歯肉、舌などの変色はよく見られる症状の1つです。とくに、白い変色は発生頻度が高い症状であり、原因は多岐にわたります。
これらの症状が見られる場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。
口の中の白い変色は日常生活上の好ましくない習慣が原因で引き起こされることがあります。原因となる主な習慣とそれぞれの対処法は以下のとおりです。
口の中は食べカスや歯垢などがたまって不衛生になりやすい部位です。舌の表面には乳頭と呼ばれる細かい突起状の構造物が密生しており、口の中が不衛生になると乳頭に“舌苔”と呼ばれる白いカスが過剰に沈着することがあります。
毎食ごとの丁寧なブラッシングはもちろんのこと、歯の隙間などに詰まった汚れは歯間ブラシやデンタルフロスなどで取り除くようにしましょう。また、セルフケアでは落としきれない歯垢・歯石などは、歯科医院で定期的にクリーニングしてもらうことも大切です。
過度なストレスや疲れの蓄積は免疫力を低下させ、口の中に白い病変を形成する口内炎の原因になるばかりでなく、口腔カンジダ症などの日和見感染を引き起こすことがあります。
社会生活を送るうえでストレスや疲れを完全に排除することはできませんが、熱中できる趣味を持つ、一日の中でリラックスして過ごせる時間を確保するなどして、ストレスや疲れがたまりにくい生活を心がけましょう。また、十分な睡眠時間を取ることも大切です。
日常生活上の対処法を講じても、症状がよくならなかったり、再発を繰り返したりするような場合には、思いもよらない病気が潜んでいる可能性も考えられます。看過せずにそれぞれの症状に適した診療科を受診して、早めに検査・治療を受けるようにしましょう。
口の中はさまざまなトラブルが起こり得ますが、なかでも“白い変色”は比較的よく見られる症状の1つです。原因はさまざまですが、以下のような病気が原因のこともありますので注意すべき症状でもあります。
口の中の白い変色は、口の中特有の病気によって引き起こされることがあります。原因となる主な病気は以下のとおりです。
ビタミン不足、口腔乾燥、ウイルス感染や加齢などによる免疫力低下、とがったむし歯や入れ歯による慢性的な刺激などが原因となって、口の中の粘膜に2〜10mm程度の白い偽膜で覆われた潰瘍を形成する病気です。多くは痛みを伴い、悪化すると出血や化膿することもありますが、通常1〜2週間ほどで自然に軽快します。ベーチェット病は多発性の口内炎が特長で、症状が軽快しても2〜3週間で再発を繰り返すことがあります。
また、抗がん剤や関節リウマチ薬(メトトレキサート)など薬の副作用でも口内炎は発症します。口内炎の症状が長く続く(2週間以上)場合には、ほかの病気の可能性もあるため専門医を受診しましょう。
カビ(真菌)の一種であるカンジダが口の中で異常増殖する病気です。カンジダは口の中に常に生息しているカビで、通常であれば人体に害はありませんが、疲れがたまったときや体調が悪いとき、副腎皮質ステロイド薬や抗菌薬の長期服用など免疫力が低下しがちになると口の中で異常増殖を引き起こし、口腔カンジダ症を発症します。特長として白っぽいカッテージチーズのような白い苔状のものが口の中の粘膜を覆いますが、ガーゼなどでぬぐうと除去することができます。白苔を除去した粘膜では発赤やヒリヒリとした痛みを伴うこともあります。
歯肉、頬の粘膜、舌の下の粘膜にできる擦っても除去できない白斑で、口腔がんの“前がん病変”(がんが発生しやすい状態)ともいわれる病気です。発症の原因は不明ですが、とがったむし歯や合わない入れ歯による物理的な刺激、たばこやアルコール、刺激の強い食べ物などの化学的な刺激などが誘因と考えられています。
基本的に痛みはありませんが、食べ物がしみたり、歯ブラシがあたって痛みを感じたりすることもあります。
口の中に発生するがんで、もっとも多いのは舌がんで約半数以上を占めます。喫煙、飲酒、虫歯・入れ歯などによる刺激が慢性的に加わることで発症すると考えられています。
早期の段階では、舌や頬粘膜、歯肉などに口内炎様の潰瘍やしこりを形成するのみで痛みもほとんどありませんが、進行すると徐々に病変が大きくなり、表面のざらつき、強い痛み、歯のぐらつきや出血、味覚障害を認めるようになります。また、進行すると頚部リンパ節転移を生じて、首にしこりを触れることもあります。2週間以上症状に改善がない場合には専門医を受診しましょう。
口の中の白い変色は、口以外の部位で生じる病気によって引き起こされることがあります。原因となる主な病気は以下のとおりです。
全身に酸素を運搬するはたらきを持つヘモグロビンがさまざまな原因で減少する病気です。自覚症状がないこともありますが、労作時の動悸や息切れ、めまい、立ちくらみなどの症状を引き起こし、進行すると慢性的な倦怠感を生じるのが特徴です。また、貧血は赤色色素を有するヘモグロビンが減少した状態であるため、重症化すると血液の色が透けて見えやすい口の粘膜の赤みが薄くなります。そのため、口の中全体的が白っぽく見えることがあります。
口の中が白く変色する病変はしばしば見られる症状であるため、軽く考えられがちな症状の1つです。しかし、なかには思わぬ病気が原因となっていることもあるため、注意すべき症状でもあります。このため、口の中の白い病変がなかなか治らないときや再発を繰り返すときは、病院を受診することをおすすめします。
特に、口の中全体に白いカスのような膜ができている場合、2週間以上口内炎が治らない場合、口の中のしこりが徐々に大きくなっている場合、何らかの全身症状を伴う場合はなるべく早く病院を受診しましょう。受診に適した診療科は口腔外科・頭頸部外科や一般歯科ですが、全身症状を伴う場合にはかかりつけの内科などで相談するのもよいでしょう。また、受診の際には、いつから口の中が白くなったのか、その誘因、随伴する症状、現在かかっている病気や内服中の薬などを詳しく医師に説明するようにしましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。