飲み込みにくい:医師が考える原因と対処法|症状辞典
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東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授、東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション科 科長
戸原 玄 先生【監修】
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 講師
山口 浩平 先生【監修】
私たちには、口の中にある飲食物や唾液などを無意識のうちに飲み込んで食道から胃へ送る“嚥下”という機能が備わっています。しかし、嚥下の機能はさまざまな原因によって障害を受けやすく、“飲み込みづらい”といった症状を引き起こすことがあります。
こういった症状がみられる場合、原因としてどのようなものが考えられるのでしょうか。
飲み込みづらさのなかには、病気が原因となって引き起こされるものもあります。
私たちが物を飲み込むには口や喉など、さまざまな部位の筋肉が順序よくはたらく必要があり、それらを司るのは脳と神経です。このため、脳や神経の病気を発症すると飲み込みづらさが現れることがあります。原因となる主な病気は次のとおりです。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など、脳の血管が詰まったり破れたり、脳の損傷部位によっては物を飲み込む機能にダメージを受けることがあります。
前触れもなく突然発症することが多く、同時にろれつが回らなくなる・うまく言葉が出てこないなど言語の障害を起こすことが多いのも特徴です。
脳の一部に変性が生じ、脳内の神経のはたらきに必要な“神経伝達物質”が不足する病気です。
初期症状としてはふるえ、歩き方の異常、手足のこわばりなどが起こりますが、進行すると物を飲み込む機能も低下していきます。パーキンソン病の発症者の約半数は飲み込みづらいとっいた症状がみられるようになるといわれています。
末梢神経と筋肉をつなぐ部分(神経筋接合部)の筋肉側の“受容体”が自己抗体に破壊されてしまう自己免疫疾患です。主な症状として、筋力の低下や疲れやすさが挙げられ、患者によって目立つ症状が異なることが特徴です。人によっては、言葉を話したり、物を飲み込んだりする機能の障害が強く現れることもあります。
筋肉を動かす“運動ニューロン”と呼ばれる神経が障害されることにより、手足や呼吸に必要な筋肉が痩せて弱くなっていってしまう病気です。初期症状が多様で、中には話しにくい、食べ物が飲み込みにくいといった症状をきっかけに病気が見つかることもあります。進行すると全身を動かすことが難しくなり、飲食物の飲み込みも困難になります。
全身に広がっている末梢神経が自身の免疫システムによって障害されることで、手足のしびれや脱力感などが現れる病気です。重症の場合は、飲食物の飲み込みがしづらくなることもあります。ギラン・バレー症候群は主に感染症などにかかった後に生じることが一般的で、発症後2〜4週間で症状がピークを迎えることが特徴です。多くの患者は、時間の経過とともに治癒が期待できます。
飲食物や唾液など、胃へ送られる際の通り道である口や喉、食道などの病気によって飲み込みづらさが引き起こされていることがあります。
食道がんや咽頭がん、喉頭がんなど飲食物や唾液の通り道である部位にがんができると、スムーズに胃に送り込まれなくなるため、喉のつかえ感を覚えることがあります。また、がんが進行すると食道や咽頭、喉頭の粘膜が大きなダメージを受けるため、飲食物などの刺激で痛みを感じることがあります。
アカラシアは食道の筋肉のはたらきが悪くなることによって、食道に送り込まれた食べ物が正常に胃に流れ落ちにくくなる病気です。食道内に食べ物が滞留するため、胸のつかえ感や飲み込みづらさを感じるとされています。
重度な場合には嘔吐を繰り返すこともあり、食道が異常収縮を起こすことで胸の強い痛みが引き起こされることも少なくありません。
舌がんや歯肉がんなど口の中にできるがんも、舌の運動が悪くなることなどから物の飲み込みづらさを生じることがあります。
口腔がんは、発症初期の段階では痛みを伴わない口内炎のような病変が形成されるのみで自覚症状はほとんどありません。しかし、進行すると転移したりすることもあるため注意が必要です。
口腔乾燥症は唾液の分泌が減少して口の中が乾いた状態になる病気です。原因はさまざまで、糖尿病や自己免疫疾患の1つであるシェーグレン症候群などの病気によるものもありますが、加齢や薬の副作用が関係するケースも多々あります。
唾液は口の中を清潔に保つだけでなく、かみ砕いた飲食物をまとめて咽頭へ送りやすくする作用もあります。このため、唾液が減少すると物が飲み込みづらいと感じることがあります。
そのほかにも、口の中のヒリヒリ感や虫歯の増加、口臭の悪化といった症状も伴うのが一般的です。
物の飲み込みづらさは痛みや発熱などの症状とは違い、異常に気付いたとしても病院を受診せずにやり過ごしてしまうケースも多いのが現状です。しかし、上で述べたような病気が原因のことも少なくありません。特にがんは命に関わることもある病気です。
突然物を飲み込みづらくなった、言葉の出にくさや麻痺などの神経症状を伴う飲み込みづらさが続いて食事量が減っている、物を飲み込むと喉や胸に痛みを覚える、口の中にトラブルがあるといったケースでは、軽く考えずにできるだけ早く病院を受診するようにしましょう。
受診に適した診療科は症状によって異なり、何らかの神経症状を伴うときは脳神経外科や神経内科、喉や胸の違和感を伴うときは消化器内科、口の中に異常があるときは口腔外科や一般的な歯科医院に行くとよいでしょう。ただし、原因がはっきり分からないときはかかりつけの内科などで相談するのもひとつの方法です。
受診する際はいつから症状が出たのか、ほかにどのような症状があるのか、症状は悪化しているかどうかなどを正確に医師に伝え、普段から飲んでいる薬があるときはその旨も伝えるようにしましょう。
飲み込みづらさは日常生活上の好ましくない習慣が原因で引き起こされていることもあります。
物を正常に飲み込むには、喉周りの筋肉や神経が正しく機能することが必要です。年齢を重ねると筋肉や神経に異常がない場合でも機能が衰え、飲み込みが悪くなることがあります。
加齢は誰もが避けて通ることはできず、飲み込みに必要な筋肉や神経は衰えていきます。加齢による飲み込みの悪さを防ぐには、いわゆる“嚥下体操”と呼ばれる発声や舌の運動などをすることが大切です。口を大きく開ける開口訓練も効果的でしょう。
また、むせ込みやすくなったときは汁物にとろみをつけるなど、食事の形態に注意しましょう。
物を十分にかまずに飲み込んだり速いスピードで食べたりすると、むせ込むことで飲み込みづらさを感じることがあります。
飲み込みづらさを感じることなくスムーズな飲み込みを行うには、ゆっくりしっかりと咀嚼し、適度なペースで食事を取るようにしましょう。また、固形物だけではなく、汁物や飲み物も一緒に取るのも大切なポイントです。
食道の入り口は気管の入り口と隣接しており、物を飲み込むときに通常は声帯が閉じて飲食物や唾液が気管内に入り込まないようになっています。しかし、話しながら飲み込む動作を行うと気管に飲食物が入りやすくなるため、むせ込みや飲み込みづらさを感じることがあります。
家族や友人との食事では会話をすることが多いでしょう。誤嚥を防ぐために食事中の会話を一切中断する必要はありませんが、飲み込む動作に入るときは声を出すのをやめるようにしましょう。
上記で述べた日常生活上での対策を行っても症状がよくならないときは、思いもよらない病気が隠れていることがあります。その場合には放置せず、一度病院で相談するようにしましょう。