抗菌薬は、細菌を殺すことのできる強い薬ですが、私たちは抗菌薬を長年使いすぎてきました。その結果、今では抗菌薬に抵抗性がある細菌(以下耐性菌)が出てきました。耐性菌による感染症はより治りにくく、治療に多額の費用が必要になります。
耐性菌による感染はだれにでも起こりえることで、他人にも容易に移っていきます。アメリカでは薬剤抵抗性の感染症によって、毎年少なくとも23,000人の子ども・大人が亡くなっています。たとえば健康な若者の間で、MRSA―多くの一般的な抗菌薬―に耐性のある細菌による皮膚感染症が増えてきています。MRSAによる感染症は家庭・デイケア・学校・基地・寮・体育館・チームスポーツ・そして軍隊の中でも拡大しています。自分自身と愛する人を守ってください。以下に、耐性化を防ぐために知っておく必要があることを記します。
感染を予防する、あるいは治療するために抗菌薬が必要になることがあります。しかし抗菌薬の処方の半分くらいは必要がありません。
体の表面や体内に細菌がいることは正常なことであり、多くの細菌は無害なのです。ときには、細菌がヒトの健康を保つ上で必要な役割を果たしている場合すらあります。抗菌薬を使うと多くの細菌を殺すことになりますが、その中にはそのような無害な菌も含まれているのです。そして生き残った耐性菌は増殖していきます。
耐性菌による感染症は、一般的により高価な薬剤・より多くの医療行為もしくは、より長期の病院滞在を必要とします。耐性菌による血流感染の入院患者を一人治療するためには、40,000ドル(日本円で約500万円)以上余分に必要で、耐性菌による感染で、毎年2000億ドル(日本円で約2500億円)かかっています
ありふれた軽い症状でも、抗菌薬を誤って使ってしまう─この問題に医療界は危機感を感じており、問題を以下の様に挙げています。
問題点:条件によって治療は異なります。
※抗菌薬を考慮に入れるケース
問題点:副鼻腔炎のほとんどはウイルス感染によって引き起こされます。鼻が詰まったような感じがしたり、鼻水が出たり、顔面痛等の症状が表れます。細菌が原因の場合でも、1週間もすれば自然に治ります。
※抗菌薬を考慮に入れるケース
問題点:ほとんどの耳感染症は2~3日で自然に治り、特に2歳以上の子どもは治りやすいです。市販の痛み止めを数日使うのみにとどめ、抗菌薬は使わないようにしてください。2~3日経っても症状が良くならない場合、または悪化してくる場合は医療機関を受診してください。
※抗菌薬がすぐ必要なのは
問題点:鼓膜チューブを入れている子どもには、経口(口から飲む)抗菌薬よりも点耳液が有効です。点耳液は鼓膜チューブの中を通って中耳に入ります。中耳は最も感染の起こりやすい部位です。なお、点耳薬は耐性菌を生み出しにくいのが特徴です。
※経口抗菌薬を考慮するケース
問題点:外耳炎は外耳道(耳の穴)に水が入り込むことによって起こります。通常市販されている点耳薬は抗菌薬と同等に有効で、耐性菌を生み出しません。しかし、鼓膜に穴が開いている・もしくはチューブが挿入されている場合はまず医師の診察を受けましょう。処方箋外の点耳薬は聴覚に害を及ぼす危険があります。
※抗菌薬が必要なら
問題点:結膜炎は通常ウイルスやアレルギーによって起こるので、抗菌薬は役に立ちません。細菌性結膜炎であっても通常10日もすれば自然治癒します。
※結膜炎に対して抗菌薬を使うケース
問題点:注射は眼疾患に対しては一般的な治療です。注射後、感染を予防するために医師は抗菌点眼薬を処方する場合が多いです。しかし、殺菌剤で目は洗浄されているので感染のリスクは低く、抗菌薬はリスクを抑えることが出来ないばかりか、むしろかゆみの原因となる恐れがあります。
※抗菌薬を考慮するケース
問題点:定期的な尿検査で細菌が検出された場合、医師は患者に尿路感染症状が見られないにも関わらず抗菌薬を処方してしまうことがありますが、高齢者だと尿路感染がなくても尿から細菌が検出されるのはよくあることです。このような場合、薬を使っても効果はありません。
※抗菌薬を考慮するケース
問題点:湿疹は乾燥、かゆみ、赤みを引き起こします。医師は抗菌薬を用いてこれらをコントロールしようと試みることもありますが、抗菌薬はかゆみや赤みといった症状の改善に効果はありません。湿疹を上手くコントロールするには、肌の保湿をしてかゆみを起こすものを遠ざけることです。かゆみ、腫れを抑えるためには、医師から医療用クリームや軟膏を処方してもらいましょう。
※抗菌薬を考慮するのは以下のように細菌感染症状があるケースのみです
問題点:手術創は通常感染のリスクは低く、抗菌薬で感染のリスクは下がりません。ワセリンなど油性の軟膏を塗っておけば治癒します。
※抗菌薬を考慮するのは以下の場合のみです
まずなんと言っても、感染を避けるよう努めることです。感染した場合は、抗菌薬を適切に使用することです。以下の手順がよく効くでしょう。
家の中では
ジムでは
医師と一緒にできることは
病院では
毎年14,000人のアメリカ人が、抗菌薬により引き起こされる深刻な下痢により死亡しています。他の副作用としては、膣内の感染・吐き気・嘔吐などがあります。強いアレルギー反応により、急激な発疹や、顔や喉が腫れ呼吸障害を起こすことなどがあります。抗菌薬の中には、永続的な神経障害や腱断裂を引き起こすものもあります。
※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。
翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 学生メンバー・大阪医科大学 荘子万能
監修:小林裕貴、徳田安春先生
群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長
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