地方独立行政法人 市立大津市民病院(以降、市立大津市民病院)は、大津市を中心に各種専門的医療や救急医療、地域医療などを手がける公立病院です。
市立大津市民病院が手がける診療と特徴、病院設備や独自の取り組みなどについて、病院長の若林直樹先生にお話を伺いました。
医療に対するニーズは、高度かつ複雑なものになっています。当院は地域の健康と医療を預かる公立病院として、1人でも多くの方のご要望に応えられるよう、地域にお住まいの方に提供できる医療の選択肢の幅を広げてきました。
たとえば、医療技術の進化や平均寿命の延伸などによって、がんは珍しい病気ではなくなりました。当院では、病気の診断、体にかかる負担をなるべく抑えた低侵襲治療、リハビリテーションなどの社会復帰へ向けたトレーニングなど、シームレスな診療を提供可能な体制を構築しています。
外科、消化器外科では、食道から腸管までの消化器と肝臓・胆のう・膵臓に生じたがん、胆石症や食道アラカシアなどの良性疾患、ヘルニア、痔などの手術を行っています。特に、患者さんの体にやさしい低侵襲の鏡視下手術の提供に尽力しています。がんは病気の進行が早まることも多いため、診断がつき次第、手術、抗がん剤による化学療法、放射線療法による治療スケジュールを組みます。
乳腺外科では、年々増加する乳がんに対し、病気の性質や進行度のみでなく、乳房温存など患者さんの要望を治療に反映できるよう努めています。当院では形成外科との連携による乳房再建術を2013年度より開始しています。
呼吸器外科は、肺や隣接する縦隔などの組織に生じた異常を診療する診療科で、肺がんや他部位からの転移性肺腫瘍のほか、膿胸や気胸などの良性疾患を治療しています。呼吸器外科でも胸腔鏡などを使用する低侵襲治療を実施しており、体に負担の少ない治療をつうじて早期の退院と社会復帰を実現しています。
泌尿器科では、前立腺、腎臓、膀胱などのがんや、前立腺肥大症、尿路結石、尿失禁などの良性疾患の治療を手がけています。
当院では内視鏡手術支援ロボット『ダヴィンチ』を導入しており、前立腺がん、腎がん、膀胱がんのロボット支援手術において、健康保険適用を受けています。
泌尿器の病気は、たとえ良性のものであっても家族や周囲の方に相談しにくく、ときに生活の質低下を招くこともあるため、内服薬による治療から手術まであらゆる選択肢の中から患者さんそれぞれに適した治療方法をご提案しています。
脳神経外科では、脳卒中から顔面けいれんや三叉神経痛までさまざまな診療をしています。特に、脳卒中の患者さんは救急車で搬送されてくることが多く迅速な対応が必要なため、24時間対応可能な体制を整備しています。
また当院は、脊椎や脊髄の病気も治療できる病院としても知られており、頚椎椎弓形成術や腰椎手術、椎体形成術、脊柱固定術などの手術も行っています。
患者さんの1日でも早い社会復帰を実現するため、当院ではリハビリテーションにも注力しています。
当院では、心臓の病気に伴う心臓リハビリテーション、がんのリハビリテーション、慢性閉塞性肺疾患の呼吸リハビリテーション、言語リハビリテーションなどに細分化して、患者さんが抱える病気と健康状態などに応じたリハビリテーションを行っています。
また、Vojta(ボイタ)訓練室を併設しており、脳性麻痺やダウン症候群などの子どもに対して、積極的にボイタ法や発達援助を行っています。
当院では、とまらない救急を目指して「ERおおつ」が北米ER型救急を展開、救急診療科の医師が中心となって病気の診断や重症度・緊急度の判断、処置、入院の決定など、救急医療と総合診療を一体化したような診療体制を展開しています。必要に応じてICU(集中治療室)、救急病棟、重症観察室、一般病棟に入院していただき、早期の退院と社会復帰を目指します。
2018年11月に集中治療室(ICU)を全面改装し、ベッドを2床増床し8床とするとともに、ベッドに寝たまま起き上がる訓練ができるトータルリフトベッドを導入しました(2019年8月現在)。
2017年11月から、膵臓がんの検診を始めました。膵臓がんは、症状が出にくく早期発見が難しいといわれています。検診では血液検査やMRI撮影によって胆管や膵管の状態を調べ、膵臓がんにつながりやすい病変などを見つけることで早期治療につなげます。
治療が難しいとされる膵臓がんですが、早期に発見できれば治療の幅が広がります。ですから、より多くの方に検診を受けていただきたいと思っています。
当院は、滋賀県地域がん診療連携支援病院に指定されており、地域がん診療連携拠点病院と協力して地域の皆さんが適切ながん治療を受けることができるように尽力しています。
当院では、内視鏡手術支援ロボット『ダヴィンチ』を導入しています。ダヴィンチは腹部を数センチ切って内視鏡や鉗子を挿入して手術を行います。通常の開腹手術に比べて体にメスを入れる量が少なく、手術中の出血や手術後の痛みが少ないのが特徴です。また、医師はモニターを見ながらロボットを操作するため、体内の様子を詳しく観察できるうえ、ブレを軽減した手術を行うことができます。
ダヴィンチを使用した手術で健康保険の適用が認められていたのは、腎臓がんや前立腺がんなど、ごく一部に限られていました。しかし、2018年に健康保険適用範囲が拡大され、大腸がんや胃がんなどが保険適用されたことを受け、当院ではダヴィンチをはじめとして鏡視下手術をより多くの方に向けて提供できるよう尽力しています。
地域からのニーズを反映して、県内で早い時期から緩和ケアを導入しています。
専門チームによる緩和ケアは、病気による心身の苦痛を軽減して患者さんの生活の質向上を図ることが目的で、当院ではがん治療を選択しない患者さんを対象に心身のケアや薬剤調整などを行います。
外来で診察の順番を待つ患者さんが、診察の進行状況を携帯電話やスマートフォンから確認できる「診察待ちWEB確認システム」を導入しました。
院内に掲示されているQRコードを携帯電話やスマートフォンでスキャンしてサイトにアクセスし、受付番号を入力すると、最新の診察状況が表示されます。
診察の待ち時間に患者さんやご家族の皆さんがスマートフォンやタブレット端末などを使用できるように、サービスの一環として院内にWi-Fi環境を整備しました。
院内のWi-Fiに接続して、診察待ちWEB確認システムにアクセスすることももちろんできますので、ぜひ活用してください。
患者さんや地域の皆さんに、医療や病気などに関心を持ってもらうことを目的に、市立大津市民病院大学・健康講座、公開講座を開催しています。
親子参加の「夏休みわくわく病院体験・探検」イベントも開催しており、内視鏡を操作したりダヴィンチを間近で見学したりして、子どもたちに病院を身近な存在に感じてもらい、「大きくなったら病院で働きたい!」と思ってもらえるきっかけづくりもしています。
地域の皆さんに信頼され、「市立大津市民病院があってよかった」と思っていただける病院を目指しています。
当院は、病気と闘う皆さんの生活支援する体制も整えています。今後も患者さんやご家族の皆さんに寄り添いながら治療を進められるよう努めていきます。