2019年10月24日(木)〜10月26日(土)の3日間にわたり、福岡国際会議場・福岡サンパレス・マリンメッセ福岡にて、第57回日本癌治療学会学術集会(以下、本学術集会)が開催されました。本学術集会では、“社会と医療のニーズに応える−TACKLING THE NEEDS OF SOCIETY AND MEDICINE−”をテーマに多数の講演やシンポジウムが行われ、これからのがん治療について、各会場にて活発な学術的議論が繰り広げられました。
本記事では、1日目の14:00~第1会場(サンパレス1階大ホール)にて行われた、日本癌治療学会 理事長 北川雄光先生(慶應義塾大学医学部 外科学教室 教授)による講演“日本癌治療学会の未来をみつめて”についてレポートします。
司会:
吉田 和弘先生(岐阜大学 腫瘍外科、第57回日本癌治療学会学術集会 会長)
演者:
北川 雄光先生(日本癌治療学会 第6代理事長、慶應義塾大学医学部 外科学教室 教授)
日本癌治療学会は、内科、外科、産婦人科、放射線科などの20の分野の専門科(2019年現在)からなる、領域、職種横断的ながん治療の学術団体です。本学会は、学術集会の主催のみならず、認定がん医療ネットワークナビゲーター制度の発足、がん関連3学会合同タスクフォース、領域横断的がん取扱い規約の作成、成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドラインの作成など、がん治療に関するあらゆる活動を行ってまいりました。
本学会のミッションの1つは、社会に向けて、がん治療の正確な情報を伝えることです。なかでも私は、科学的根拠(エビデンス)に基づいた標準的治療をガイドラインとして伝えることが、重要なミッションであると考えています。
実用的、横断的なガイドラインであることを意識的に作成された代表例として、『制吐薬適正使用ガイドライン』などがあります。このほか、近年の成果として、2018年に公開した『小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』と、2019年10月24日に発刊された、『成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療ガイドライン』があります。
『小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』は、AYA世代(15歳~39歳くらいまでの思春期および若年成人)に対する妊孕性温存療法の可否を判断しやすくさせると共に、患者さんのサバイバーシップ*向上を目指して作成されました。各臓器・領域の専門家が、AYA世代のがんという特性に応じた見解を臓器別、分野別に提供しており、妊孕性喪失が予想される患者さんの診療に役立てることができていると感じています。
また、『成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療ガイドライン』の発刊にあたっては、国立がん研究センター東病院の吉野孝之先生や、がん診療ガイドライン作成・改定委員長の小寺泰弘先生が尽力されました。
*サバイバーシップ:がんサバイバーである患者さんが抱える社会生活面での諸問題を、周囲の人々および社会全体で協力して乗り越えていくという考え。
科学的根拠(エビデンス)に基づいたがん治療が行われているとしても、そうしたがん治療に関する情報を各地域の患者さんやご家族に対して正確に伝えることは、実際には容易ではありません。この課題を解決するため、本学会は“認定がんナビゲーター制度”を設立しました。
本制度は、患者さんやそのご家族に向けて、地域のがん診療情報や医療サービス情報を収集、提供する、認定がん医療ネットワークナビゲーターと認定がん医療ネットワークシニアナビゲーターを育成します。ネットワークナビゲーターは、地域のがん医療ネットワークに所属し、がんに関する正しい情報の啓発や、患者さんとご家族の疑問や悩みを解決するために活動しています。
今後も活動の効果検証を行い、認定がんナビゲーターの全国展開を目指します。
本学会は、世界をつなぐというミッションのもと、国際機関との連携を強めるために国際的学術団体との学術的交流を行ってきました。ASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)の開催時には、学会後に若手医師が欧米屈指のがん専門施設を訪れてがん医療を学ぶ機会を作っています。
そして近年、アジアにもASCOやESMOのようながん関連学術活動を推進する学術団体を設立する動きが強まり、この度、AOS(アジア腫瘍学会)が結成されました。この結成調印式が、本学術集会の会期中に行われます。1つの学会の結成調印式という、記念すべき瞬間に立ち会える機会をくださった先生方に、心から感謝いたします。
がんを予防する1つの手段として、子どもの頃からがんに罹患しないような生活習慣を教育することが挙げられます。
本学会では、2016年に横浜にて“がん教育支援 横浜宣言2016”への調印を行いました。この宣言では、小学生からのがん教育に対する積極的支援、教材作成と改訂、教員および講師の研修支援、生徒へのフォローアップなどを、学校医と協働で行うことを示しています。
小学校からのがん予防教育のほか、小児がん患者さんや、ご家族にがん患者さんがいる子どもの心のケアも必要です。“がんになることはいけないことである”という認識を子どもが持ってしまったり、それによって子どもたちが傷ついてしまったりしないように、両面をサポートしながら、注意深く教育を進めていきたいと考えています。
本学会は、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会とのがん関連3学会合同ゲノム推進タスクフォースを結成し、社会への情報提供、人材育成、厚生労働省への要望など、がんゲノム医療の推進活動に取り組んできました。
2019年6月より、がんゲノム医療におけるがん遺伝子パネル検査は、その一部が、標準治療がない、または終了しているなどの一定条件を満たす場合に保険適用となりました。新しいがん医療が保険下で開始されることは、患者さんの治療選択肢を増やすことにつながり、今後のがん治療発展が期待されます。
しかし、その実装には、まだ多くの課題が残っていると考えます。ゲノム医療でどこまでがんの治療ができるかを社会に情報発信しなければなりませんし、ゲノム医療を担う人材育成も必要です。制度設計や診療報酬の設定にあたり、厚生労働省への要望も必要です。
そこで3学会合同ゲノム推進タスクフォースは、今後のさらなるゲノム医療推進に向けて、“がんゲノムネット組織体制”を構築しました。これにより、がん患者さんとそのご家族、一般市民に向けて、SNSや書籍、講習会などのあらゆる手段を用いてがんゲノム医療に関する正しい情報を伝えていこうと考えています。
このように、これからのがん医療は、ゲノム医療をはじめ、AIの活用や遠隔医療の推進などにより、より発展していくでしょう。しかし、がん医療では、新しい技術の導入だけでなく、患者さんやそのご家族に寄り添い支えることが非常に重要です。だからこそ、本学会では、“心のケア”というがん医療の基礎の部分も大切にしていきたいと考えています。
会長である吉田先生が第57回日本癌治療学会学術集会のテーマに選定された“社会と医療のニーズに応える”は、本学会が長年にわたり目指しているテーマでもあります。本学会では緻密な計画のもと、医療技術から心のケアまで、多数のセッションを用意しました。これからも、がん医療を適切に社会に還元できるよう、努力を続けていきます。
最後になりますが、本学会が継続してこられたのも、多くの関係者のご支援があったからこそのことです。こうして4年間の理事長の任期の最後を迎えられたことに、心から感謝いたします。
慶應義塾 常任理事、慶應義塾大学医学部 外科学 教授、国立がん研究センター 理事(がん対策担当)兼任
北川 雄光 先生の所属医療機関
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