くまもと森都総合病院 特別顧問
片渕 秀隆 先生
赤坂山王メディカルセンター 院長、国際医療福祉大学大学院 教授、慶應義塾大学 名誉教授
青木 大輔 先生
横浜市立大学医学部産婦人科学教室 主任教授
宮城 悦子 先生
国立がん研究センター中央病院 感染症部長、慶應義塾大学医学部 客員教授
岩田 敏 先生
2019年10月24日(木)〜10月26日(土)の3日間にわたり、福岡国際会議場・福岡サンパレス・マリンメッセ福岡にて、第57回日本癌治療学会学術集会(以下、本学術集会)が開催されました。本学術集会では、“社会と医療のニーズに応える−TACKLING THE NEEDS OF SOCIETY AND MEDICINE−”をテーマに、多数の講演やシンポジウムが行われ、明日のがん治療について、活発な学術的議論が繰り広げられました。
本記事では、2日目に第2会場(福岡国際会議場3階メインホール)にて行われた【子宮頸がん予防ワクチンを考える】の概要をお届けします。
司会:
青木大輔先生(慶應義塾大学 産婦人科)
片渕秀隆先生(熊本大学 産科婦人科)
会長企画シンポジウム11では、“子宮頸がん予防ワクチンを考える”をテーマにして、5名の演者による講演が行われました。
はじめに、今野 良先生(自治医科大学附属さいたま医療センター)からは、“HPV ワクチン接種後20代女性がん検診受診者の CIN3 +は 91% 減少(相対危険度0.09)”というテーマで、2015年度および2016年度に子宮頸がん検診に参加した20〜29歳の女性を対象にした調査結果について発表がありました。調査の結果、CIN2 +およびCIN3 +の統計的に有意な低い相対リスクは、ワクチン接種を受けていない女性よりもワクチン接種を受けた女性に多くみられました(VE = 76%; RR = 0.24、95%CI:0.10-0.60およびVE = 91%; RR = 0.09、95%CI:0.00- 0.42 それぞれ)。このことから、HPVワクチンによって子宮頸がんの発生率と死亡率を減らすことは有望であり、HPVワクチン接種を緊急に再開することを希望すると述べました。
続けて、上田 豊先生(大阪大学 産科学婦人科)からは、“HPV ワクチン積極的勧奨一時差し控え継続がもたらす悲劇”というテーマで講演が行われました。上田先生によれば、日本では2010年度に13~16歳の女性に対してHPVワクチンの公的補助金が開始され、予防接種率は70%に達しました。過去の調査によれば、公費助成で子宮頸がんワクチン予防接種が可能だった1994年~1999年に生まれた女性では、子宮頸部の上皮内腫瘍の発生率が低下していることがわかっています。ところが2019年現在、予防接種率はほぼゼロです。このことから、2000年以降に生まれた女子の子宮頸がん発生率は、予防接種を受けていない女性の前世代と同じレベルまで必然的に増加することが予測されます。このような状況から、上田先生は、できるだけ早く勧告を再開するようにと訴えました。
鈴木 貞夫先生(名古屋市立大学 公衆衛生学)からは、「HPVワクチン接種と接種後の症状との関連―名古屋スタディの結果と展望」というテーマで、名古屋研究とその結果について講演が行われました。ナゴヤ.スタディは、名古屋の7万人の女性を対象にした、HPVワクチン接種後の症状との関連を目的とした分析疫学研究です。この結果、HPVワクチン接種とその後の症状の間に関係性はみられませんでしたが、研究の発表後、さまざまな異議が唱えられました。鈴木先生は、この問題の結論を出すには、科学的で率直な議論が必要であると述べました。
次に、宮城 悦子先生(横浜市立大学 産婦人科)からは、「いかに日本の子宮頸がん予防の危機的状況を克服していくべきか?」というテーマで講演が行われました。宮城先生は、映像をはじめとしたメディアの影響は大きく、HPVワクチンの積極的勧奨を差し控えた世論の動きにはメディアの影響もあることについて言及したうえで、各行政の動きについて述べました。さらに、「YOKOHAMA HPV PROJECT」の立ち上げと取り組みの内容についても説明がありました。
岩田 敏先生(国立がん研究センター中央病院 感染症部)からは、「HPVワクチン普及のために今私たちにできること、やらなければならないこと」というテーマで講演が行われました。講演内では、ワクチンという観点からHPVを考えるにあたってのHPV増加の傾向やHPV感染症の認知度の低さについて触れ、日本でHPVワクチンを普及させるための情報提供の手段について検討がなされました。岩田先生は、HPVワクチンの存在を広く知らせるためには、学校での情報提供や自治体からのリーフレット配布、医療機関における相談支援の実施など、さまざまな角度からHPVワクチンの予防接種を奨励する必要があると述べました。
このようにして、【子宮頸がん予防ワクチンを考える】は、盛況のうちに終了しました。
くまもと森都総合病院 特別顧問
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
婦人科腫瘍治療で日本をリードする存在で、婦人科病理診断学のエキスパートとしての正確な診断に裏打ちされた治療により子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、絨毛性疾患、子宮内膜症・子宮腺筋症の名医として知られる。地元熊本県のがん治療の地域連携クリティカルパス「私のカルテ」の導入に尽力し、6千人を超える患者さんが使用している現状で、その先駆的取り組みにより全国から注目を集める。日本婦人科腫瘍学会の治療ガイドライン作成の責任者として長年携わる一方で、ライフワークの一つとしてティーンエイジからの「がん教育」に取り組む。その一環として、県内の高校・専門学校・大学に自ら出向き「産婦人科、子宮、妊娠、そして“がん”そんなの私たちに関係ない。自分が生きていることを奇蹟と考えたことがありますか」というタイトルで、命について考える授業を80校以上で行っている。
熊本大学病院成育医療部門 部門長、熊本大学病院総合周産期母子医療センター センター長、熊本大学病院生殖医療・がん連携センター センター長、熊本県「私のカルテ」がん連携センター センター長、大分大学・長崎大学,非常勤講師。
片渕 秀隆 先生の所属医療機関
青木 大輔 先生の所属医療機関
横浜市立大学医学部産婦人科学教室 主任教授
日本産科婦人科学会 特任理事・産婦人科専門医・指導医日本臨床細胞学会 理事・細胞診専門医・細胞診指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本婦人科腫瘍学会 理事・婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医日本産婦人科乳腺医学会 理事・乳房疾患認定医日本婦人科がん検診学会 理事NPO法人婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG) 理事
1988年横浜市立大学医学部卒業、2007年に日本婦人科腫瘍学会が認定する婦人科腫瘍専門医を取得する。2013年より日本産科婦人科学会特任理事(子宮頸がん予防担当)に就任し、婦人科腫瘍の集学的治療と子宮頸がん予防、卵巣明細胞がんのトランスレーショナルリサーチなどを手がけている。
宮城 悦子 先生の所属医療機関
岩田 敏 先生の所属医療機関
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