インタビュー

女性にも多い睡眠時無呼吸症候群(SAS)――見逃されやすい症状と適切な治療とは?

女性にも多い睡眠時無呼吸症候群(SAS)――見逃されやすい症状と適切な治療とは?
池上 あずさ 先生

社会医療法人芳和会 くわみず病院 院長

池上 あずさ 先生

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睡眠時無呼吸症候群SAS)は“大きないびきをかく男性の病気”と思われがちですが、実際には女性にも多くみられます。しかし女性では、いびきや強い眠気といった典型的な症状が目立たず、不眠や気分の不調として現れることが多いため見過ごされやすいという特徴があります。社会医療法人芳和会 くわみず病院 院長の池上(いけがみ) あずさ先生は、女性では見逃されやすいSASの特徴に着目し、診療や質問票の開発にも取り組まれています。今回は池上先生に、女性のSASの特徴や、CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)などの治療のポイントについてお話を伺いました。

SASでは、睡眠中に気道が狭くなり、何度も呼吸が止まったり浅くなったりします。こうした呼吸の異常は一晩に数十回、重症になると数百回に及ぶこともあります。

呼吸が止まると身体は低酸素状態となり、それを改善しようとして脳が覚醒します。そのため、本人は眠っているつもりでも、脳は何度も目を覚ましており、睡眠が分断された状態になっています。その結果、日中の眠気や疲労感、集中力低下だけでなく、イライラや気分の不調、頭痛夜間頻尿といったさまざまな症状が現れます。さらに、高血圧糖尿病などの生活習慣病の悪化にもつながることがあります。

患者さんには、SASは単にいびきや無呼吸の病気ではなく、睡眠の質や生活の質を低下させる全身の病気であることをお伝えしています。

女性はSASの検査を受けていない方が多く、以前当院で調べたところ受診者の男女比は約5対1でした。男性は「いびきがうるさい」と家族から指摘されて受診することが多い一方で、女性はそうしたきっかけが少なく、受診につながりにくい傾向があります。また、女性ではいびきや強い眠気といった典型的な症状が目立たず、不眠や気分の不調として現れることが多いため、SASと気付かれにくいという特徴があります。日本ではSASの患者さんは約2,000万人といわれており、男性は40~50歳代に多く、女性は閉経後に増加してピークを迎えます。

さらに、一般的にSASは肥満と関連があると考えられていますが、小顔や痩せ型など気道が狭くなりやすい骨格の影響で発症することもあります。また、女性で更年期以降に増加する背景には、女性ホルモンの低下も関与していると考えられています。

写真:PIXTA
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SASを放置すると、さまざまな健康リスクにつながることが知られています。睡眠中に呼吸が止まることで身体は低酸素状態となり、それに伴って交感神経が活性化し、血圧の上昇や心血管系への負担が続きます。その結果、高血圧糖尿病脂質異常症不整脈脳卒中などの生活習慣病の発症や悪化に関与することが分かっています。また、SASの影響は身体だけではありません。睡眠が分断されることで、日中の眠気や疲労感につながります。夢をみる睡眠でもあるレム睡眠*は、感情を整理し、ストレスをリセットする重要な時間です。この時間に無呼吸・低呼吸が増えることでレム睡眠が障害され、イライラや日中の気分の不安定さ、さらには認知機能の低下が現れることもあります。こうした変化はご本人だけでなく、周囲との関係にも影響を及ぼすことがあります。実際に、認知症を疑って受診された高齢の患者さんでSASが見つかり、CPAP療法(後述)によってSASの治療を行ったことで、結果的に認知機能が改善したケースもあります。特に女性では、いびきや強い眠気などの典型的な症状が目立たないため、これらさまざまな不調がSASによるものと気付かれにくく、長期間放置されてしまうことも少なくありません。

このように見過ごされやすい女性のSASがしっかり診断されれば、多くの女性の睡眠の質が改善され、生活の質が大きく向上するでしょう。また、治療によって熟睡できるようになると、イライラが軽減し、穏やかさを取り戻される方も少なくありません。心身の不調を感じたら、放置せず医療機関を受診していただきたいと思います。

*レム睡眠:睡眠段階の1つで、深いノンレム睡眠の後に出現し一晩の睡眠の約20%を占める。ノンレム睡眠とレム睡眠は90~120分の周期で繰り返す。

写真:PIXTA
写真:PIXTA

SASが疑われる場合は、これまでは呼吸器内科や循環器内科、総合診療科、耳鼻科などを受診される方が多かったと思います。2026年6月から新しく、内科などと組み合わせて標榜可能な診療科の名称に「睡眠障害」が加わりました。従いまして、「睡眠障害内科」「睡眠障害呼吸器内科」など睡眠障害を専門に診療する医療機関の受診をおすすめします。

受診の際には、「夜中に何度も目が覚める」「トイレに起きる」「朝スッキリしない」「日中にイライラする・集中できない」など、気になる症状をできるだけ具体的に伝えることが大切です。

また、2026年6月からの診療報酬改定により、CPAP療法の保険適用基準が見直されました。従来、簡易SAS検査では無呼吸低呼吸指数(AHI)40以上、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)では、AHI 20以上が保険適用とされていましたが、改定後はそれぞれAHI 30以上、AHI 15以上に引き下げられます。これは、男性より比較的軽症から中等症の患者さんが多い女性にとって、CPAP療法を受けやすくなったことを意味します。これまで、自分は重症ではないから治療はできないと思われていた方でも、適切な治療につながる可能性があります。

女性のSASは、男性と比べてAHIが低い傾向があり、完全に呼吸が止まる「無呼吸」よりも、呼吸が浅くなる「低呼吸」が多いとされています。さらに、レム睡眠に関連した無呼吸・低呼吸が起こりやすく、倦怠感や不安、イライラといった情動症状が前景に出やすいことが特徴です。しかし、現在広く用いられているSTOP-BANG質問票やベルリン質問票は、いびきや日中の強い眠気など、典型的な症状を中心に構成されているため、こうした女性特有のSASを十分拾い上げることができない可能性があります。

実際に、当院を含む3施設での検討においても、従来の質問票では見逃されていた症例が一定数存在することが明らかになりました。

そこで、私たちは、女性に特徴的な不定愁訴やレム関連症状、さらには閉経の影響なども考慮した新たな質問票(セルフチェックシート)を作成し、臨床で活用しています。この質問票は、女性だけでなく、レム関連SASを有する男性の検出にも応用できる可能性があり、現在さらに症例を集積し、解析を進めている段階です。

提供:池上 あずさ先生
提供:池上 あずさ先生

治療法は重症度や体型(肥満の有無)、顎の大きさや形、生活背景などを踏まえて判断します。ただし、最も重視すべきなのは生活習慣の見直しです。規則正しく十分な睡眠時間を確保する、適正体重を目指して減量する、いびきがある方は仰向けでなく横向きに寝るなど、無呼吸・低呼吸が起こりにくい生活習慣を身につけることが大切です。また、お酒は中途覚醒を助長するため寝る前には飲まないこと、たばこは気道を乾燥させ無呼吸・低呼吸を助長するため禁煙することをおすすめします。

そのうえで、軽症から中等症であれば口腔内歯科装置(マウスピース)を装着すると下顎が前に出て気道が広がるため、いびきや無呼吸・低呼吸の改善が見込めます。

CPAP療法は、就寝時に専用のマスクを装着し、気道に空気を送り続けることで、狭くなった気道を広げ、夜間の呼吸を安定させる治療です。この治療によって、無呼吸や低呼吸が改善されるだけでなく、「夜中に何度も目が覚める」「朝スッキリしない」「日中の不調が続く」といった症状の改善が期待できます。高血圧のある方では、血圧が下がって、降圧薬を減量できた方もおられます。

一方で、CPAPは単に「いびき・無呼吸を改善するだけの装置」ではありません。睡眠の質が整うことで、気分の不安定さやイライラが軽減し、日中の集中力や生活の質が大きく改善することも少なくありません。

イラスト:PIXTA
イラスト:PIXTA

CPAP療法では、マスクの種類や装着感、圧の設定などを調整しながら、自分に合った使い方を見つけていくことが大切です。

違和感がある場合でも、マスクの変更や圧の調整などで改善できることがあるため、無理に我慢する必要はありません。医師と相談しながら調整を重ねることで、より快適に使用できるようになります。

また、CPAPは「使って終わり」の治療ではなく、継続することで効果を発揮します。毎晩の睡眠を整えることで、体調だけでなく日常生活の質も安定していくことが期待できます。

写真:PIXTA
写真:PIXTA

日中の眠気や慢性的な疲労感、気分の落ち込みなどがあれば、年齢や体質のせい、更年期だからと放置しないでください。女性のSASは大きないびきや強い眠気といった典型的な症状が現れにくく見過ごされやすいので、ぜひご自身で気付く努力をしてほしいと願っています。

また、CPAP療法でAHIは下がったけれどよく眠れないという方は主治医と相談し、モードやマスクを変更するなどしてご自身に合ったCPAP療法を探し出してください。適切なCPAP療法であれば、血圧の安定化や、無呼吸・低呼吸ひいては睡眠の質の改善が見込めます。

患者さんのお話を聞いていると、SASを治療して睡眠を取り戻すことは、単なる症状の改善ではなく、その方の人生そのものを穏やかで前向きなものへと変えていくと感じます。不眠や疲労感などの不調があれば、ぜひ医療機関を受診してSASの診断を受けていただきたいと思います。

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