インタビュー

赤ちゃんの発熱―生後3か月未満の発熱で注意すべき疾患とは

赤ちゃんの発熱―生後3か月未満の発熱で注意すべき疾患とは
橋本 祐至 先生

うさぴょんこどもクリニック 院長、千葉市立海浜病院 小児科 非常勤医師

橋本 祐至 先生

この記事の最終更新は2017年10月29日です。

赤ちゃんはしばしば熱を出します。元来子どもは大人よりも体温が高く、些細な刺激で体温が上昇しやすいのですが、生後3か月未満の赤ちゃんに38.0℃以上の発熱がみられた場合は、状況にかかわらず、すぐに病院を受診することが必要だといいます。なぜ、赤ちゃんの発熱には緊急受診が必要なのでしょうか。千葉市立海浜病院小児科の橋本祐至先生にお話していただきます。

生後3か月未満の赤ちゃん(乳児)が38.0℃以上の発熱をきたした場合、基本的には入院での対応が必要となります。

通常、生後1か月未満の新生児の体温は正常時でも37.0~37.5℃程度は認められます。37.5℃以上は注意が必要な状態ですが、新生児は特に外気などによる環境温に影響を受けやすいため、部屋の温度が高いとき、哺乳後、激しく泣いた後は体温が高くなることがしばしばあります。元気があり、部屋の温度を調整してすぐ体温が下がる場合は大きな心配はいりません。

ただし、3か月未満で38.0℃以上が続く場合は、明らかな発熱であり、緊急受診が求められると考えたほうがよいです。

ぐったりする赤ちゃん

胎児は、通常10か月程度母親の胎内で過ごします。このとき、胎児は母親の免疫機能によって守られています。

妊娠32~33週(8か月)頃を過ぎると、母体の免疫(抗体)が胎盤を通してお腹のなかの胎児にたくさん移行し始めます(ただし早産児(32週未満)で生まれてきてしまった赤ちゃんの場合、母体から十分に抗体が移行しないまま生まれてくるので、生まれつき体が抗体に守られていない状態です)。40週前後で生まれた赤ちゃんの免疫機能は自分自身で作ったものではないので、出生後、徐々に母体から移行した免疫(抗体)は減少していきます。その後、徐々に赤ちゃん自身が抗体を作り自分中心の免疫に変わっていきます。それが入れ変わる時期が、ちょうど生後3か月頃です。よって、3か月頃までは、母からの免疫で守られているはずなのです。ですから、その免疫機能に守られているはずの赤ちゃんが発熱した場合、重篤な細菌感染症ではないかと考え、当院では原則的に入院させ、精査としています(施設によって多少異なります)。

では、実際には3か月未満の赤ちゃんの発熱すべてが緊急受診の必要な状態かというと、そうではありません。重篤な細菌感染症であることを想定して対応にあたることが重要だということです。3か月未満の発熱において、重篤な細菌感染症である確率は全体の5~15%とされています。

一般的には38.0℃以上であっても機嫌がよく、哺乳ができていれば、夜中に慌てて受診をする必要はそれほどないと考えていますが、少なくとも翌日の日中には一度受診されることをおすすめします。

繰り返し述べますが、38.0℃以上の発熱をきたしたすべての3か月未満の赤ちゃんが、重篤な感染症なわけではなく、重篤な感染症の割合は5~15%とほんの一部にすぎません。多くの場合は通常の風邪か環境温によるもので、ほとんどは特別な治療なしでも解熱します。

また、新生児(生後1か月未満)において、全身状態の良好な赤ちゃんが発熱をきたした場合の重篤な感染症のリスクは7%と報告されています。この内訳には菌血症、髄膜炎肺炎骨髄炎化膿性関節炎腸炎尿路感染症、晩期新生児の感染症(B群溶連菌、大腸菌、リステリア)、周産期に発生する感染症(単純ヘルペスウイルス感染症)などが主に含まれています。

発熱+咳・痰

咳や痰が出ている場合、細菌性(抗菌薬で治療)やウイルス性(抗菌薬は無効)感染症による気管支炎肺炎が考えられます。また、RSウイルスによる細気管支炎(発熱、咳嗽に加えてゼーゼーする)の可能性もあります。

発熱+鼻水

ウイルス性の上気道炎が最も濃厚だと考えられます。ただし、上記に示してきたように、3か月未満の発熱の場合は、こうした症状でウイルス性の上気道炎と考えられても、日中に受診をして頂くことをおすすめします。

発熱+嘔吐・下痢(胃腸炎症状)

ウイルス性の胃腸炎が疑われます。冬はノロウイルス、春先はロタウイルスが多く、アデノウイルスは嘔吐が少なく下痢が中心で年中散発的に認められます。病院で便検査をすることでわかります。

発熱+けいれん

熱性けいれんは一般的には生後半年以降に多い疾患であるため、発熱に加えてけいれんが現れた場合は髄膜炎(特に細菌性髄膜炎)や脳炎・脳症を考えるべきです。けいれんがある場合、すぐに受診する必要があります。

発熱+機嫌が悪い

3か月未満の赤ちゃん(乳児)は自分の言葉で症状を訴えることができません。不機嫌にはさまざまな疾患が考えられますが、上記に示してきたように、生後3か月未満の赤ちゃんはそもそも身体所見があてになりにくい月齢のため、診断には精査が必要です。

発熱+発疹

網状チアノーゼ(皮膚が網目状に青紫色状に変化すること)や手掌・足底の紅斑などが認められれば、記事2(リンク「生後3か月未満の赤ちゃんの発熱で注意すべき重症感染症)に述べたパレコウイルス感染症の可能性があります。また、生後3か月未満にはあまりみられませんが、川崎病(乳幼児がかかる全身の血管炎)も鑑別に挙がります。川崎病の場合、1) 発熱、2) 両側眼球結膜の充血(白目の部分が赤くなる)、3) 口唇・口腔所見(口唇の紅潮、いちご舌、口腔咽頭粘膜の発赤)、4) 頚部リンパ節腫脹、5)不定形発疹(決まった形のない発疹)、6) 四肢末端の変化(手足の浮腫、手足の赤み)などの特徴が認められます。川崎病は感染症ではありませんので、抗菌薬は使用しませんが、特殊な治療が必要な疾患です。

赤ちゃんと向き合うお母さん

最も重要なポイントは、親御さんが赤ちゃんの状態をしっかりとみてあげることだと考えます。親御さんはつい、体温の数字ばかりに注目がいってしまい、常に体温計の数字を軸に判断してしまいがちです。夜間救急の外来にいらっしゃる患者さんに問診を行っても、「日中は38℃台だったけれど夜になったら40℃台になったので救急に来た」とおっしゃる方は少なくありません。数字を判断軸にする方は今でもやはり多いですし、熱が高いほど重症なのではないかと思ってしまうことは、一般的な感覚からすると当然かもしれません。

しかし、発熱のみで、機嫌がよく、哺乳がよくでき、よく眠れているようであれば、夜間に慌てて受診する必要はありません。翌日、日中に受診して頂ければ十分です。一方で、3か月未満の赤ちゃんの場合、医療者側は入院での精査をすすめますので、親御さんは、もっと早く受診しなければいけなかったのかと感じてしまうのかもしれません。

入院をすすめられ、親御さんは心配されるかもしれませんが、3か月未満の発熱の場合、その後の検査・処置の流れは決まっています。ですから検査・処置に関して小児科医は、いつものことで慣れていますので、安心して任せてほしいと思っています。

3か月未満の赤ちゃんは環境温に影響されやすい月齢ですので、まずは部屋の温度や着衣(着せすぎ)で体温を調整することを試みてください。

また、子どもの体温を測定するのももちろん大切なことですが、呼吸が速くないか、手足が冷たくないか、哺乳がしっかりできているか、眠れているか、など子どもの状態をみることも、重症度を鑑別するにあたっては参考になるでしょう。

子どもが発熱したとき、親御さんは驚いてしまうでしょう。しかし、発熱を主症状とする重篤な疾患は記事2『生後3か月未満の赤ちゃんの発熱で注意すべき重症感染症 』で述べる数種類とある程度限られていますし、多くは特別な治療の必要性がないウイルス性疾患です。夜間に救急病院に慌てて受診する必要はなく、翌日かかりつけ医を受診して頂ければ問題ありませんので、ご自分の家庭看護力を信じて、お子さんを見守ってあげてください。そして、「様子が普段と違っておかしい」と思った際は、迷わず救急外来を受診していただいて構いません。

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