インタビュー

「発作のバカヤローーーッ!」そう叫んで日々を乗り越える――レノックス・ガストー症候群(LGS)の子どもの親としての思い

「発作のバカヤローーーッ!」そう叫んで日々を乗り越える――レノックス・ガストー症候群(LGS)の子どもの親としての思い
メディカルノート編集部 【患者・家族取材】

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レノックス・ガストー症候群(以下、LGS)は幼児期から小児期に発症するてんかん症候群の1つで、薬の効きづらいてんかん発作が何種類も起こることが特徴的な病気です。河越 直美(かわごえ なおみ)さんのお子さんはMECP2重複症候群を原因にLGSを発症し、日々発作と闘いながら暮らしています。コントロールできない発作に無力感を覚え心が折れそうになりながらも、よりよい未来に向けて少しずつ歩みを進める河越さんに、発作との向き合い方や現在の生活、患者家族会の活動などについて伺いました。

息子は2012年にマレーシアで生まれました。成長の遅れが気になっていた私はたびたび小児科の先生に訴えていましたが、最初は「大丈夫、気にしすぎだよ」と言われるだけでした。それでもやはり違和感は拭いきれず、一度きちんと検査してほしいと伝えてMRI検査をしたところ、脳に問題があることが分かりました。

その段階では何の病気なのかまでは分かりませんでしたが「何か病気があるなら日本に帰ったほうがよいだろう」と判断し、家族で帰国の準備を進めることに。ちょうどそのとき、通院先の病院で日本から来ていた先生との偶然の出会いがあり「日本に帰るなら僕の病院に来るといいよ」と声をかけていただきました。そして帰国後、その先生のもとで定期的に経過をみていくことになりました。

MECP2重複症候群*の診断のきっかけになったのは、1歳半のときに受けた遺伝子検査です。半年に1回ほど定期通院しているなかで「もしかしたらこの病気かもしれない。一度遺伝子検査をしてみましょう」と医師にすすめられ、検査を受けることにしました。半年後に結果が出たときには、当初医師が推測していた病気ではありませんでしたが、さらに半年間かけて解析が行われました。その結果2歳半のときにMECP2重複症候群と診断されたのです。

*MECP2重複症候群:X染色体上にあるMECP2遺伝子の重複により、乳児期早期からの筋緊張低下、運動発達遅滞、知的障害のほか、繰り返す呼吸器感染症や薬剤抵抗性てんかんなどの症状を呈する病気。2005年に初めて報告された。

MECP2重複症候群と診断されたとき、医師からは将来的に難治性のてんかん発作が現れる可能性が高いこと、てんかん発作が出てしまったら治療で抑えるのは難しいことを伝えられていました。初めて発作が出たのは小学校入学を控えた冬のことです。最初は時々発作が起こる程度だったのですが、小学2年生後半くらいから徐々に発作の回数が増えていきました。抗てんかん薬もだんだんと効かなくなっていき、複数のタイプの発作が1日に何十回、多いときには何百回と連日続くようになったのです。日に日に悪化していく過程の中で「先生が言っていたとおり、こうしてどんどん悪くなっていくのだな……」と気持ちは落ち込んでいきました。コントロールできない発作が1年以上続いたころ、24時間連続で脳波を記録する検査(長時間ビデオ脳波モニタリング検査)を行うことにしました。その結果LGSに特徴的な脳波がみられ、LGSと診断されました。

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長時間ビデオ脳波モニタリング検査の様子(提供:河越 直美さん)

LGSは何種類ものてんかん発作が起こるのが特徴的な病気です。息子の場合、最初に出たのは向反発作(こうはんほっさ)です。向反発作とは、自分の意識とは無関係に首だけが片側に回ってしまうような発作のことで、普段と変わらず遊んでいるときに突然起こりました。それからは、全身に力が入ってピーンと伸びて硬くなってしまう強直発作(きょうちょくほっさ)や、突然全身の力が抜けてしまう脱力発作をはじめ、何種類もの発作が出たり消えたりを繰り返し、LGSと診断される前後からは強直発作がメインになりました。今は1日10〜30回ほどの強直発作がほぼ毎日起こっている状況です。

治療ではたくさんの抗てんかん薬を服用してきました。ただ息子の場合は効果よりも副作用が強く出てしまうケースが多く、始めてすぐに服用をやめざるを得ない薬もいくつかありました。薬を飲んでもコントロールできない発作に、何もしてあげられない無力感を抱く毎日です。

発作に対してやるせない気持ちを抱え心が折れてしまいそうななかで、どうにか私が持ち堪えられているのは「発作のバカヤローーーッ! 発作になんか負けてたまるか!」と気持ちを奮い立たせているからだと思います。ネガティブな気持ちを外に向けて発散させることで、「なんとかしなくては」という気力が湧いてきて、新しい薬を試すことは勇気がいるけれど一度試してみようと気持ちを少しだけ前向きにすることができます。気持ちを自分の中に閉じ込めるのではなく、正直に「嫌なことは嫌。発作なんて大嫌い!発作のバカヤロー!」と叫ぶことで、少しだけ気持ちが楽になるような気がしています。

今年(2025年)の春に息子は中学生になり、公立中学校の支援学級に通っています。胃ろうによる経管栄養*や喀痰吸引**をしているため、学校にいる間は看護師さんが常時付き添って医療的ケアを行ってくれています。看護師さんや先生たちのサポートを受け、参加できる授業は通常学級のみんなと一緒に受けています。

小学校から中学校への進学は大変なこともありましたが、周囲のご協力のおかげで新しい環境へとスムーズに移行することができました。たとえば、病院がカンファレンスを開いてくださり、学校の先生など息子に関わるさまざまな方に対して主治医の先生から息子の病状を説明いただく機会を何度か作っていただきました。また、中学校の職員会議で私から息子についてお話しする機会をいただいたり、同じ学年の子どもたちへの紹介の時間を持たせてもらったりしました。息子が学校に通いやすいようにといろいろな提案をしてくださった中学校の先生たちには心から感謝しています。

中学校は息子のような病気がある子どもを受け入れることが初めてだったようで、最初はとても不安が大きかったようなのですが、自治体の医療的ケア児等コーディネーター***の方が学校にベテランの看護師さんを配置してくださるなど、学校側の不安が少なくなるように動いてくださいました。皆さんがあらゆる手を尽くしてくださったことを本当にありがたく思っています。

*胃ろうによる経管栄養:胃ろうという胃にあけた穴から専用のチューブを挿入して栄養補給をすること。
**喀痰吸引:自力で痰を出すことが難しい場合に、痰を吸引する処置のこと。
***医療的ケア児等コーディネーター:人工呼吸器や痰の吸引、経管栄養などの医療的ケアを必要とする子どもと家族が安心して暮らせるよう、医療、福祉、教育などの関係機関と連携して支援を総合的に調整する役割を担う。

てんかん発作はいつ起こるか分からず、一回出るとその後も発作が続いてしまうこともしばしばあります。「また発作が起こるかもしれない」と気にしすぎるとまったく身動きが取れなくなってしまうので、たとえば「今日は買い物に行く」と決めたら、発作が起こっても本人の体調次第で行けそうであれば、出足が遅くなっても外出するようにしています。そうすると、息子も外に出られたことが気分転換になるようで、家の中ではずっと続いていた発作が外に出ると落ち着くことがあります。発作に振り回されすぎず、できるだけ普段と変わらない生活を送ることを心がけるようにしています。

team LGS(https://www.teamlgs.jp/)(レノックス・ガストー症候群と薬剤抵抗性てんかん患者家族の会)は2024年にスタートしました。私はもともとMECP2重複症候群患者家族会(https://mecp2.jp/)の代表として活動をしていたのですが、その中で、治療を前に進めるためには患者家族が集まる団体が必要であることを感じていました。それはLGSに携わる先生方ともずっとお話ししていたことでした。

これまでLGSの患者家族会が存在しなかったのは、私自身も息子がLGSと診断されてから実感していることなのですが、日々を乗り越えるのに精いっぱいで患者家族会を立ち上げるだけの余力を持ったご家族がいなかったからではないかと思います。だからこそ、患者家族だけでなく、医師や製薬企業などさまざまな立場の方を巻き込んでいければ長く続けていくことができるのではないかと考え、LGSに関わる方々の協力を得ながらteam LGSをスタートさせることができました。実際に始めてみて、すでに分かっていたことですが、日々の発作やそれによって低下した息子のQOLや身体・認知機能と向き合いながら、会の運営を続けていくことはやはり大変です。でも、team LGSは患者家族だけで活動をしているわけではありません。患者家族が大変で動けないときは、代わりに動いてくださる方がいます。これからも患者家族だけではなく、LGSや薬剤抵抗性てんかんに関わる方々と喜怒哀楽を共にしながら活動を続けていければと思っています。

team LGSでは参加者全員がとにかく楽しく活動できるコミュニティを目指し、仲間になってくれた人のことを“レンジャー”と呼んでいます。発作を緩和できるヒントや生活を楽にする工夫などについて、宝探しをするようにみんなで探すことができればよいなと思っています。

現在の取り組みとして定期的に行っているのは月1回の“夜会”です。LGSに関する情報交換や新しい薬の情報共有などを行う交流会として開催しています。現在はオンラインのみですが、いつか直接顔を合わせて交流ができればよいなと考えているところです。そのほか、日本小児科学会や日本小児神経学会、日本てんかん学会など関連学会へのブース出展も積極的に行っていく予定です。

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日本てんかん学会学術集会での患者家族会ブース出展(提供:河越 直美さん)

ご家族の方々とお話ししていて感じるのは、LGSは地域による情報格差が大きな病気であるということです。住んでいる場所によっては、小児神経を専門とする医師がいない地域もありますし、LGSは患者数が多い病気ではないのでLGSを少数しか診たことがない、あるいはまったく診たことがないという医師にかかっているケースもあるのではないかと思います。LGSと診断されたものの、症状や治療法について主治医から十分な情報が得られていないご家族もいらっしゃるのが現状です。そのため、家族同士での情報交換によってLGSに関する知識を高めることは、とても意義があると感じます。また近年はLGSに対する新しいお薬も登場していますが、「知らなかった」というご家族もいらっしゃるので、team LGSではLGSに関する最新情報についても積極的に共有するようにしています。

team LGSとして今後力を入れていきたいと考えているのは研究です。たとえば、てんかん発作は発熱によって誘発されるのが医学的な一般論だそうなのですが、ご家族の話を聞いていると「熱を出すと一時的に発作が止まる」という話をよく聞くので、家族の声を集めることで研究につなげられないか考えているところです。毎日子どもの一番近くで見守っている家族だからこそ分かること、出せる意見があると思っています。

また、LGSの患者さんは複数の抗てんかん薬を服用しているケースが多いため、アンケート調査などで「この薬は短い期間だったけど効果があった」「この薬は副作用が少なかった」といった意見を集めることができれば、LGS治療の発展に寄与できるのではないかと思っています。

team LGSへの参加を迷われている方の中には「登録したら何か行動を起こさないといけないのではないか」と心配される方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。LGSは患者数の多い病気ではないので、人数把握だけでも研究につながる可能性があります。レンジャー登録自体が立派な活動の1つですので、LGS治療を前進させるためにもぜひ登録していただければうれしく思います。

息子がMECP2重複症候群やLGSと診断されてから感じるのは「1人じゃない」ということです。それは同じ病気がある子どもを持つ親同士のつながりでも感じることですが、一緒に病気と闘ってくれる医師の存在も非常に大きいなと感じます。何をしてもコントロールできない発作に「もうだめかもしれない……」と諦めの気持ちを抱いてしまうことがしばしばありますが、そんなときでも発作を少しでも軽減できるように試行錯誤して治療にあたってくれる先生がいることはとても心強いです。先生が諦めずに治療を続けてくれるのであれば、親としても諦めずに発作に立ち向かっていかなければならないなと思います。

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MECP2重複症候群患者家族会の写真―研究者、臨床医、患者さんのご家族をはじめ、応援してくれる方々とー teamLGSでもいつか同じような写真が撮影できるようにレンジャーと共に頑張ります(提供:河越 直美さん)

息子を含めLGSの子どもたちのために願うのは“発作のない世界”です。あとは、これだけ技術が進んでいるので、服用する前から一人ひとりに適した抗てんかん薬が分かるような技術があればありがたいなと思っています。抗てんかん薬は効果や副作用に個人差があるので、初めて服用する薬を試すときでも安心して飲ませられるよう、テーラーメイドのような治療ができるようになればと思います。

発作は本当につらく、無力感に落ち込んでしまう日々かと思います。私自身も心が折れそうになってしまいそうな毎日ですが、自分たちの活動によって子どもが少しでも笑ってくれたり、治療を前に進めるきっかけになったりしたらよいなという思いを胸になんとか頑張っています。気持ちが塞ぎ込んでしまうときには、一緒に「発作のバカヤロー!」と叫びなら少しずつでも前に進んでいきましょう。

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