慢性腎臓病の患者さんが腎臓を守るにあたって、減塩はとても大切です。慢性腎臓病における減塩の重要性について、2回にわたってご説明します。
まず前編では、腎臓の働きと構造、過剰な食塩摂取が腎臓・心臓・脳に及ぼすダメージについてご説明します。
まずは、腎臓の働きについて見ていきましょう。腎臓はさまざまな働きをしています。腎臓が尿を作っていることはよくご存知かと思いますが、それにはどのような意味があるのでしょうか? 大切なポイントは、以下の3つです。
です。
また、腎臓は尿を作る以外にも仕事をしています。血圧の調整や赤血球を作るためのホルモン、骨を丈夫に保つためのホルモンにも関わっています。腎臓が弱くなると、貧血がおこったり骨がもろくなったりするのはそのためなのです。
このように、腎臓は24時間休みなく働くことで私たちの全身のバランスをとっています。
ここで腎臓の構造についてご説明します。
腎臓は空豆のような形をした握りこぶしくらいの大きさで、腰のあたりに左右一つずつあります。そしてその腎臓の中には、糸球体と呼ばれる構造がおよそ100万個あります。
糸球体は、細い血管が糸のようにからまってフィルターのようなはたらきをし、全身の血液をきれいにしています。しかし、様々な原因で腎臓の機能が落ちてしまう、つまり働くことのできるフィルターの数が減ってくると、1個のフィルターが行う仕事の量が増えてしまいます。そうなると、フィルターにかかる負担が大きくなるため、機能が落ちるスピードもだんだん早くなってしまいます。
「腎臓を守るために食塩やたんぱく質のとりすぎを控えましょう」というのは、数が減ったフィルターの仕事量を減らしてあげることになるのです。中でも特に、食塩は重要なポイントとなります。
また、食塩摂取は腎臓以外にも、心臓や脳の血管へのダメージにつながると言われています。それはなぜでしょうか?
元来、私たち人間は海から陸にあがり、飢えや脱水との戦いの中で食塩や水分を体内に貯めるための仕組みを培ってきました。逆に、必要以上の食塩に対する防御機構は弱いのではないかと言われています。
食塩を摂取すると、体の中の水分量が増え、血圧も上がります(なぜ水分量が増えるのかについては、後にご説明します)。
血圧が上がることや水分が増えることで、腎臓、心臓、脳の血管への負担が増えるのです。そして、それらはお互い悪影響を及ぼしあいます。
また、尿からタンパクが漏れ出ているような病気をお持ちの方は、食塩を摂取することで、尿から出るタンパクの量も増えてきます。尿から出るタンパクが増えることで、腎臓の機能低下もさらに進行します。
腎臓や心臓、脳の血管が悪化する原因は食塩から出発していることがほとんどなのです。
私たちの体を流れる血液は1L中につき約8gの塩が溶けています。この濃度は一定に保たれなくてはならないため、食塩を摂取するとその分の水分をとろうとする行動につながります。簡単に言うならば、8gの塩をとれば1L水を飲むように脳が指令を出しているのです。
そして、腎臓が弱っている体では、食塩と水を尿として排泄する力が弱まっています。この結果として、体の中全体の水分量が増えることにつながるのです。
特に透析患者さんは、心当たりの無い体重増加の際には塩分の取りすぎの可能性があるので、食事の味付けも気にするようにしてください。(体の中の水分量が増えると、当然その分体重も増えます。)
後編では、実際の減塩目標、減塩の方法などについてご説明します。
記事1:血液透析患者さんは海外旅行できる?―その準備、注意点について
記事2:腎臓移植とは(前編)—ドナーとレシピエントの条件、移植の手順について
記事3:血液透析とは?―そのしくみ、合併症、生活上の注意について
記事4:透析治療を受けている人はどのような食事をとればいい?
記事5:腹膜透析とは?―自宅でできる透析治療
記事6:腹膜透析の合併症にはどんなものがある?-塩分と感染に注意
記事7:腎臓移植とは(後編)ー移植後の生活、移植のメリット・デメリット、費用について
記事8:腎臓を守るためには減塩が大切!(前編)—慢性腎臓病における減塩の重要性について
記事9:腎臓を守るためには減塩が大切!(後編)—慢性腎臓病における減塩の重要性について
記事10:慢性腎臓病(CKD)とは—腎臓が悪くなると、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まる?
医療法人社団善仁会 中田駅前泉クリニック 院長、医療法人社団ときわ 理事、横浜市立大学腎臓高血圧内科 客員研究員
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本透析医学会 透析専門医・透析指導医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本高血圧学会 会員
全人的総合的腎不全医療(Total Renal Care:TRC)を推進・普及させるためにアウトリーチ活動を行っている。一人ひとりの腎不全患者が自己管理や行動変容を実現するための教育というミクロなアプローチから、腎不全患者自身がさまざまな治療の選択肢を持てるようにするための社会システム全体の構築というマクロなアプローチも積極的に行っている。
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