知らず知らずのうちにゆっくりと腎臓のはたらきが低下していく慢性腎臓病。慢性腎臓病では一度低下した腎臓の機能を回復させることは難しいため、原因や症状を知ることで早期発見に努めることが大切です。今回は、国立国際医療研究センター病院 腎臓内科診療科長でいらっしゃる高野 秀樹先生に、腎臓が持つ役割や慢性腎臓病の原因・症状について伺いました。
腎臓は大人の握りこぶしくらいの大きさの臓器で、腰の少し上の背中側に背骨を挟むようにして左右に1個ずつ存在しています。
腎臓の主な役割の1つが血液のろ過です。腎臓には糸球体という組織があり、ここに全身を巡ってきた血液が流れ込んできます。糸球体は毛細血管が絡み合い、その血管の表面は網目状の構造をしており、これがろ過フィルターとなって水分や老廃物を取り除きます。ろ過された液体はその後、尿として排出されます。
さらに、腎臓にはもう1つ大切な役割があります。それは必要な物質の再吸収です。糸球体で血液がろ過される際、不要な成分だけではなく、体が必要とする糖分やアミノ酸、電解質も一緒にこし出されてきます。しかし、これらの物質は体にとって大切な成分のため、糸球体から出て尿細管を通過する際に再び体の中に戻されます。糸球体では1日に約150Lもの血液がろ過されていますが、尿細管で再吸収が行われることで、体外に排出される尿量は1日1L〜1.5Lくらいに収まっています。なお、糸球体と尿細管を合わせて“ネフロン”と呼び、1つの腎臓におよそ100万個も存在しています。
このように腎臓は老廃物を除去するだけでなく、必要なものは体に取り戻すことで、体全体のバランスを保つ役割を持つ臓器なのです。
腎臓はホルモンに関わる役割もあります。代表的なホルモンは主に3つで、1つ目は赤血球(酸素の運搬をする血液成分)をつくるのに必要な“エリスロポエチン”というホルモンです。腎臓は酸素に対して敏感な臓器で、腎臓が「酸素が足りない」と感知すると、エリスロポエチンをつくり出します。これによって、体が貧血*に陥らないようコントロールされています。
2つ目に、腎臓はビタミンDを活性化させます。ビタミンDには、丈夫な骨をつくるのに必要なカルシウムの吸収を促す役割があります。
3つ目が血圧を上昇させる“レニン”というホルモンです。腎臓でスムーズに血液をろ過するためには圧力(血圧)が必要です。そのため、腎臓が血圧の低下を感知するとレニンが分泌され、血圧をコントロールしています。
*貧血:赤血球の中にある酸素を運ぶ役割を持つヘモグロビンの濃度が低くなった状態。
慢性腎臓病とは、何らかの原因によって慢性的に腎臓の機能が低下する病気の総称です。原因によっていろいろな腎臓病がありますが、以下の(1)(2)のいずれか1つ、または両方が3か月以上続いていれば、どのような腎臓病であっても“慢性腎臓病”と定義されます。
(1)尿異常、画像診断、血液、病理診断などで明らかな腎障害がある(特に0.15g/gCr以上のタンパク尿〈または糖尿病で30mg/gCr以上のアルブミン尿〉を認める場合)
(2)糸球体ろ過量(GFR)<60ml分/1.73㎡
(1)の腎障害を確認するうえで大切な指標となるのが、タンパク尿です。腎臓の障害が起こると、糸球体のフィルター機能が壊れてしまうため、本来ならば糸球体を通過するはずのないタンパク質が尿に漏れ出てきます。尿検査でタンパク質がどれくらい出ているかを調べることで、腎臓、特に糸球体の障害の程度を確認することができます。
なお、単位の“g/gCr”は、尿中のタンパク質をクレアチニン(Cr)で割ったものです。健康診断で行うような(+)(−)で表示される尿検査だけでは、その時々の尿の濃い/薄いによって尿のタンパク質の濃度も変動してしまうため、1日の排泄量が一定であるクレアチニンを利用して計算しています。すなわち濃い尿では尿中クレアチニンも多くなり、その比を取る(濃度で補正する)ことで真のタンパク尿の量が分かるようになるのです。
(2)の糸球体ろ過量(GFR)とは、1分間で糸球体が血液をろ過する量のことです。老廃物の代表格であるクレアチニンの排出量から、腎臓のはたらきを確認することができます。
クレアチニンは本来なら尿中に排出されますが、腎臓のはたらきが低下していると尿中のクレアチニンの排出が低下し、血中クレアチニンの濃度が上昇します。なお、実際の診療時に厳密なGFRを測定するのは難しいため、病院では年齢、性別、クレアチニン値から算出する“eGFR”(estimate〈推測する〉のeを頭につけたもの)が用いられます。
慢性腎臓病の原因の1つが慢性糸球体腎炎です。慢性糸球体腎炎とは糸球体に慢性の炎症が起こる病気の総称を指し、代表例にはIgA腎症*などがあります。
そのほか血管に動脈硬化をもたらす、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病も慢性腎臓病の原因となります。肥満なども腎臓に大きな負荷をかけることから、メタボリックシンドローム**も重大なリスク因子です。近年はこうした生活習慣病が背景にある慢性腎臓病の患者さんが増えてきています。また、喫煙も慢性腎臓病のリスクとなります。
なお、こうした生活習慣病は慢性腎臓病のリスクであると同時に、心筋梗塞や心不全、脳卒中のリスクでもあります。腎臓の血管は非常に細いので、動脈硬化の初期病変を捉えやすくなることから慢性腎臓病の患者さんでは、心血管系疾患の発症率も高いことが分かっています。
*IgA腎症:糸球体のメサンギウムという領域に免疫グロブリンの一種であるIgAが沈着することで、糸球体に炎症が生じる病気。
**メタボリックシンドローム:内臓肥満に加えて、糖尿病、高血圧、脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態。
初期の慢性腎臓病では目立った自覚症状は現れません。気付かないうちに時間をかけてゆっくりと進行していくため、症状に気付いた段階ではすでに人工透析*が必要な状態にまで進行しているケースもあります。慢性腎臓病は一度進行すると完治は難しいため、早期発見のためには定期的に健康診断を受けることが大切です。
*人工透析:腎臓に代わり、機械を使って人工的に血液をろ過する治療のこと。
慢性腎臓病が進行すると出てくる尿の異常として、尿の泡立ちが現れることがあります。尿中にタンパク質が漏れ出てくるようになると、尿の粘り気が増すため尿が泡立ちやすくなるのです。加えて糖尿病が背景にある方の場合は糖分も尿の粘稠度を上げるので、さらに泡が立ちやすくなります。
そのほかの症状としては、尿量が異常に増えたり減ったりすることもあります。
むくみも慢性腎臓病の代表的な症状です。腎臓の機能が低下すると、本来なら排出されるはずの不要な水分や塩分が体にたまっていきます。これがむくみの症状となって現れます。地球には重力があるので、分かりやすいのは足のむくみになります。靴下の跡がなかなか取れなくなったり、すねを指で押すとしばらく元に戻らなかったりすることが特徴です。そのほか、顔(特に目の周り)もむくみやすくなります。
腎機能の低下によって塩分の排出がうまくできなくなると、塩分濃度を薄めるため、水分が血液中にため込まれます。すると、体の水分と塩分のバランスが崩れて高血圧になります。また高血圧は腎臓、特に糸球体に大きな負担をかけるため、腎機能のさらなる低下を招いてしまいます。このように、高血圧は慢性腎臓病の悪循環を引き起こす重大な要因となるのです。
先述したように、腎臓では赤血球をつくる“エリスロポエチン”が産生されていますが、腎機能が低下すると必要量のエリスロポエチンがつくられなくなるため、赤血球が不足して貧血を引き起こします。このようにして起こる貧血を“腎性貧血”といいます。腎性貧血になると、疲れやすさやめまいなどの症状が起こります。
腎機能がさらに低下すると、腎臓で血液がろ過できなくなり、老廃物や毒素を体の外に出せなくなってしまいます。体に毒素がたまると、食欲不振や吐き気、倦怠感といった症状がみられたり、全身の臓器にも影響が及んだりします。こうした状態を“尿毒症”といいます。尿毒症になると命に関わるため、人工透析によって人工的に老廃物や毒素を体外に排出する必要があります。ただし、実際には尿毒症になるまで放置されているケースは少なく、尿毒症になる前に人工透析を開始している方がほとんどです。
次ページでは、慢性腎臓病の検査方法について解説します。
国立国際医療研究センター病院 腎臓内科 診療科長
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