お尻のしこり:医師が考える原因と対処法|症状辞典

お尻のしこり

受診の目安

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • かゆみ、皮むけ、赤み、腫れ、痛みなどがある
  • 短期間で明らかにしこりが増えている、大きくなっている。特に痛みや赤みがどんどん悪くなっている。
  • しこりのサイズが大きい

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • 打撲によってしこりができた
  • 短時間でよくなり、その後繰り返さない

聖マリアンナ医科大学 皮膚科 教授

門野 岳史 先生【監修】

お尻は下着や衣類などで蒸れやすく、座ることで負荷がかかりやすい部位です。そのため、しこりができるなどさまざまなトラブルが起こることがあります。

  • お尻にしこりができた
  • お尻にできたしこりにかゆみ、腫れ、痛みなどがある
  • お尻にしこりができ、下着に(うみ)や血液が付着する

これらの症状がみられた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。

お尻にしこりができる病気には以下が挙げられます。

お尻は皮脂や汗の分泌が多く、下着や衣類による蒸れや摩擦が起きやすいため、感染や炎症を起こしやすい部位です。以下のような病気によってお尻にしこりができることがあります。

毛包炎(毛嚢炎)

毛包炎毛嚢炎)とは、毛穴の奥にある毛包に炎症が生じる病気です。かき傷やカミソリなどによる小さな傷から細菌が侵入して炎症が起こります。毛包炎は、炎症が生じた場所に赤みがあるぶつぶつや(うみ)が入った発疹膿疱(のうほう))、軽い痛みなどの症状がみられます。症状が進行すると、膿疱が硬いしこりになり、痛みやほてりを伴います。

毛嚢炎
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尋常性ざ瘡(にきび)

にきび尋常性ざ瘡(じんじょうせいざそう))は、毛穴に皮脂がたまることで起こる病気です。顔や背中など皮脂の分泌が多い場所に生じやすいことが特徴ですが、お尻にみられることもあります。多くの場合、お尻にできたにきびは、前述の毛包炎との区別が困難です。最初は毛穴を中心に白い小さなできもの面皰(めんぽう))ができます。面皰に炎症が生じると赤くなったりがたまったりし、さらに進行すると硬くなって、しこりのようになることがあります。

にきび
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粉瘤

粉瘤(ふんりゅう)は、皮膚が盛り上がってしこりを形成する病気です。皮膚の下にできた袋状の組織に角質や皮脂が蓄積することで発症します。通常、皮脂や角質がたまって徐々に大きくなり、自然に消えることはありません。原因は外傷ウイルス感染とされていますが、明確なメカニズムは明らかになっていません。一般的に痛みはありませんが、細菌感染などで炎症が起こると急速に赤みや腫れ、痛みが生じます。しばしばしこりの中央に黒い点があり、強く押すと内容物が出てくることがあります。

粉瘤
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痔(内痔核、外痔核)

肛門(こうもん)にいぼやしこりのようなできものができる病気です。便秘や下痢、長時間座り続けるなど肛門に負担がかかることが原因で発症します。腫れやかゆみのほか、排便時の出血や痛み、(じかく)が外に飛び出るなどの症状が現れることもあります。

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肛門周囲膿瘍

肛門の周囲にがたまる病気です。肛門と直腸の間にあるくぼみから細菌が侵入し、肛門腺に炎症が起こることで発症します。下痢や軟便、飲酒などがきっかけで発症するほか、免疫が低下しているときに起こりやすいといわれています。発症すると、肛門付近の痛みや腫れ、しこり、発熱などの症状が現れます。肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)*が進行すると、肛門周囲の皮膚と直腸の間にを排出するトンネルができて痔瘻になります。痔瘻になると細菌が侵入しやすくなり、感染を繰り返しやすくなります。

*瘍:組織にがたまった状態

肛門周囲膿瘍
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臀部慢性膿皮症

お尻の毛包に炎症が起こり、しこりのようなできものができたり、赤く腫れたりする病気です。皮膚の下にが溜まる瘍を形成します。汗腺が多い(わき)の下や足の付け根などに症状が現れる“化膿性汗腺炎”のうち、症状がお尻(臀部)に限局するものを指します。臀部慢性膿皮症では、患部に繰り返し炎症や細菌感染が生じて症状を繰り返すのが特徴です。進行するとしこり同士がつながって患部が広がったり、皮下でトンネルを形成して傷跡が残ったりします。まれに、長期間放置することで皮膚がんが発症します。

臀部慢性膿皮症
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毛巣洞

毛髪が皮膚に食い込んで皮膚の内部にトンネル状の空洞ができる状態のことです。慢性的に炎症がおこり、が蓄積しやすくなります。座っている時間が長い人や体毛が濃い人に発症しやすい傾向にあります。毛巣洞は再発しやすく、腫れや痛みなどの不快な症状が続くことがあります。再発を繰り返すと、皮膚がんの一種である有棘細胞がんの発症リスクが高くなります。

毛巣洞
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お尻にも腫瘍(しゅよう)が発生することがあり、しこりを形成することがあります。お尻に発生する腫瘍として最も多いのは粉瘤ですが、それ以外に以下のようなものが挙げられます。

脂肪腫

良性の腫瘍で、皮下の脂肪細胞が増殖して軟らかいしこりを形成する病気です。全身のどの部位にも発生し、脂肪の多いお尻に形成されることもあります。一般的に脂肪腫は軟らかく、痛みを伴わないことが特徴です。しこりの大きさはさまざまで、1cm程度のものから10cm以上になるものもあります。

脂肪腫
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お尻にしこりができるまれな病気には以下のものがあります。

肛門がん

肛門や肛門付近の皮膚に悪性の腫瘍ができる病気です。自覚症状として肛門周囲の痛みや腫れ、しこり、排便時の違和感や痛み、血便などが生じますが、症状が現れない場合もあります。一部の肛門がんは、痔瘻やヒトパピローマウイルス(HPV)の感染、喫煙が発症に関与していると考えられていますが、詳しい原因は明らかになっていません。

肛門がんの種類
  • 腺が
  • 扁平上皮が
肛門がん
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皮膚がん

皮膚に発生するがんの総称です。皮膚がホクロやシミに似た色調に変化したり、湿疹のような症状が生じたりします。これらは進行すると表面が盛り上がってしこりを形成するようになります。通常、痛みやかゆみは伴いません。全身の皮膚に現れる可能性があり、お尻に生じることもあります。詳しい原因は分かっていませんが、紫外線や放射線、化学物質、慢性的な皮膚のダメージなどが関与しているといわれています。これらの皮膚症状がなかなか治らない場合、できものが大きくなる場合は一度病院を受診するようにしましょう。

皮膚がんの種類

など

基底細胞がん
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ボーエン病
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乳房外パジェット病
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脂肪肉腫

筋肉や脂肪などの軟部組織や骨などに発生する腫瘍(骨軟部腫瘍)のうち、悪性のものを肉腫といいます。脂肪肉腫は、脂肪組織にできる悪性の腫瘍の一種で、多くは遺伝子の異常によって発症し、お尻以外に全身にしこりができることもあります。皮膚の下の軟らかい部位に発生するため、ある程度大きくなるまで気付かないことも少なくありません。

脂肪肉腫の種類
脂肪肉腫
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胞巣状軟部肉腫

皮下組織や筋肉に腫瘍ができる軟部肉腫の1つです。四肢(特に太もも)やお尻に腫瘍を生じることが多く、腫瘍が大きくなるとしこりとして触れることがあります。20〜30代の若年者での発生が多く、他の軟部肉腫に比べて進行は緩やかな特徴があります。

お尻のしこりは、毛包炎など日常的に起こり得る症状であり、様子をみることもあるでしょう。しかし、中には何らかの病気が原因であるケースもあるため注意が必要です。

特に、強い痛みを伴うため日常生活に支障がある、しこりが圧迫されて座る時に違和感がある、しこりが徐々に大きくなってきた場合などは、なるべく早めに病院を受診するようにしましょう。

受診する診療科は皮膚科や形成外科が適しています。受診の際には、いつからしこりがあるのか、他に症状はあるかなどを詳しく医師に説明するようにしましょう。

お尻のしこりは、日常生活上の習慣が原因で引き起こされることがあります。原因となる主な生活習慣と、それぞれの対処法には以下のようなものが挙げられます。

お尻は下着や衣類の着用、長時間座ることなどで蒸れやすい環境であり、細菌が繁殖して毛包炎などの炎症を引き起こすきっかけとなることがあります。

臀部を清潔に保つには

入浴時は刺激の少ない洗浄剤で皮膚を優しく洗い、皮膚を清潔に保つようにしましょう。洗浄後は乾燥しやすいため、入浴後は保湿をすることも重要です。

下着や衣類は、通気性がよく汗を吸収する素材のものを選ぶとよいでしょう。また、皮膚の摩擦を防ぐため、きつい下着の着用は避けるようにしましょう。

慢性的に下痢や便秘などの便通の異常があると、肛門周囲膿瘍によるしこりの原因になることがあります。

便通を整えるには

便秘の予防には、規則正しい食習慣を心がけることが重要です。1日3食しっかりと摂取しましょう。食物繊維は腸の動きをスムーズにし、排便を促す効果が期待できます。果物や海藻、豆類、穀物など、食物繊維を多く含む食品を積極的に取り入れましょう。水分が不足すると便が硬くなって排便が困難になるため、十分な飲水を心がけることも重要です。

また、消化しにくい食事や暴飲暴食、冷えは下痢の原因になることがあります。過食を避け、脂っこい食事や香辛料の過剰摂取は控えるようにしましょう。体の冷えや冷たいものの摂取は胃腸の機能を低下させるため、腹部を温めたり常温の飲み物を摂取したりすることも有効です。

日常生活上の習慣を改善してもお尻のしこりがよくならない場合や、しこりが複数あるような場合には、何らかの病気の可能性もあります。放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。