奥歯が痛い:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
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気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
東京歯科大学オーラルメディシン・病院歯科学講座 主任教授、東京歯科大学市川総合病院 歯科・口腔外科
松浦 信幸 先生【監修】
歯の痛みの性質は、ズキズキとした痛み、ズーンと重く鈍い痛み、歯が刺激を受けたときだけ刺すような鋭い痛みなどさまざまで、ときに激烈な強い痛みに襲われることもあります。
奥歯が痛む原因の多くはむし歯によるものですが、それ以外にもさまざまな原因が考えられ、原因の中には命に関わる危険な病気が潜んでいる可能性があるため、注意が必要です。
奥歯の痛みはさまざまな病気によって起こりますが、必ずしも奥歯に原因がある場合だけでなく、奥歯以外に原因があることも珍しくはありません。
奥歯を由来とした痛みには、以下のようなものがあります。
いわゆるむし歯のことで、口の中のむし歯菌が作り出した酸によって歯が溶けた状態を指します。歯の表面を覆うエナメル質が溶けた浅い虫歯であれば、ほとんどの場合痛みはありません。
しかし、内部の象牙質と呼ばれる部分にまでむし歯が達すると、冷たいものや甘いものがしみたりします。歯髄というさらに歯の奥の部分にまでむし歯が進行すると、何もしなくてもズキズキとした激しい痛みを感じるようになります。
智歯(親知らず)の周りの歯肉(歯ぐき)に炎症が起きている状態です。上の顎よりも下の顎の親知らずに起こることが多く、無症状で経過することもありますが、智歯周囲の歯肉が赤く腫れ、痛みを自覚することがほとんどです。
炎症が進むと歯と歯肉の間から膿が出たり、嚥下(飲み込み)時の痛み・顎下リンパ節の腫れや痛み・体のだるさ・38℃以上の発熱が起こったりすることもあります。
不適切・不十分なブラッシングなどによって、除去しきれずに歯や歯肉の溝に残ったプラーク(歯垢)が原因で歯肉に炎症を起こす病気を歯肉炎といい、この状態がさらに進んで炎症が歯を支える顎の骨などの歯周組織に波及したものが歯周病です。
歯周病では歯肉の発赤や腫れに伴い歯周ポケット(歯と歯肉の間の境目)が深くなり、痛みやブラッシング時の出血などの症状が現れます。重症化すると歯の周りの骨が溶けて歯がぐらつくようになり、この状態を放置すると最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
象牙質は本来エナメル質や歯周組織に覆われていますが、むし歯や外傷、歯周病、加齢による歯肉の痩せなどによって象牙質がむき出しになると、冷たいものがしみたり歯ブラシなどの刺激で痛みを感じたりするようになります。これを象牙質知覚過敏症といい、痛みはピリッとした一過性のもので刺激がなくなると痛みが治まるのが特徴です。
奥歯には原因がないのに、奥歯に痛みが生じる場合もめずらしくはありません。主な原因には以下のようなものがあります。
歯に原因がないにもかかわらず、歯に痛みを感じる状態を総称して非歯原性歯痛といいます。痛みの原因には筋肉、神経、心疾患、副鼻腔炎などが関与しています。
咀嚼筋(咬む筋肉)への慢性的な過度の負荷により、筋肉が凝り固まり関連痛(痛みの原因とは異なる部位に感じる痛み)として歯の痛みを感じます。
咀嚼筋への負担を減らし、筋肉をほぐすことで痛みは軽減します。
顔面や口に分布する神経(主に三叉神経)に傷がついたことで生じる歯痛です。三叉神経痛などによって発症する発作性神経障害性歯痛と帯状疱疹や神経損傷によって生じる持続性神経障害性歯痛があります。
痛みの特徴としては、ズキズキした痛み、焼け付くような痛み、触っただけでも生じる痛みなどです。
片頭痛や群発頭痛の症状のひとつとして歯痛を感じることがあります。症状は拍動性の激痛で、頭痛の消失と共に歯痛も消失します。
多くは上顎洞の炎症に起因する歯痛です。上あごの小臼歯(奥歯の手前の歯)から大臼歯(奥歯)部に痛みを生じます。
狭心症や心筋梗塞による心臓の筋肉の関連痛としての歯痛です。主に胸部、左の腕や肩、下あごや歯、耳などに痛みを感じます。
心の病気やストレス、不安などが原因となり、身体化症状としてされたものです。
痛みの原因が明らかでない歯の痛みで、上記のどの分類にもあてはまらない歯の痛みです。原因不明の歯の痛みといえます。1本以上の歯または歯を抜いた部位に生じる持続的な痛みであることが多いです。
その他に首の骨の異常、がん、内服薬の副作用などによっても歯痛が生じることがあります。
奥歯に激しい痛みがある場合や痛みの程度が弱くても長く続いている場合、歯肉の腫れや出血がある場合、頭痛や発熱といった体の症状が伴う場合には早めに歯科医院を受診したほうがよいでしょう。体の症状が伴う場合はかかりつけの内科で相談するのもよいでしょう。
病院を受診した際には、いつから奥歯が痛むようになったのか、どのような痛みでいつ痛むのか、ほかに気になる症状などがあればその旨を医師に伝えましょう。
病気だけでなく、食いしばりや歯ぎしりといった習慣も痛みの原因になりえます。
習慣的な食いしばりや歯ぎしりによって慢性的に歯や歯肉、顎に強い力が加わると歯・歯肉・顎に痛みが生じる場合があります。
食いしばりや歯ぎしり癖のある方はむし歯になりやすいばかりか、歯周病を悪化させたり顎関節症などの病気の原因にもなったりするため注意が必要です。
食いしばりや歯ぎしりを防ぐには、マウスピースの装着が有効です。歯科医院で自身の歯型にあったマウスピースを作ることができるため、食いしばりや歯ぎしりの習慣がある方は一度歯科医院に相談してみましょう。
歯の治療やマウスピースの装着などをしたにもかかわらず、歯の痛みがよくならない場合には、非歯原性歯痛やほかの病気の可能性も考えられます。その場合には、歯科または医科の痛みの専門医(ペインクリニックなど)に相談してみるのがよいでしょう。