胸痛:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
医療法人 札幌ハートセンター 理事長 兼 CMO
藤田 勉 先生【監修】
胸痛とは、胸に痛みを感じたり、違和感や圧迫感を覚えたりする状態のことです。胸に不快感を覚えることもあれば、激しい痛みを感じることもあるでしょう。また、胸痛と合わせて息苦しさなどを覚えることもあります。
このような症状がみられた場合、考えられる原因にはどのようなものがあるでしょうか。
痛みのきっかけ、痛みの性状(チクチクするのか? 重苦しいのか?など)、持続時間(数秒から数分、数時間)、場所、部位が重要になります。
胸痛はなんとなく痛むことが続いているという状態から、突然の激しい胸痛まで幅が広く、その原因にもさまざまな病気が考えられます。
突然激しく胸が痛む、冷や汗や息苦しさを伴うなどの場合には、緊急度の高い病気であることが考えられますので速やかに受診しましょう。
ときには、放散痛といって、胃や歯や頸部、手などに痛みを感じることもあります。
胸痛を起こす病気のうち、特に強い痛みを感じることの多い病気には以下のようなものがあります。
心筋梗塞と狭心症は、心臓に必要な酸素や栄養を運んでいる冠動脈が細くなったり詰まったりして起こる病気です。主な症状は、強い胸痛や締め付けられるような胸痛で、冷や汗などを伴い、意識をなくすこともあります。
早期の治療が大切ですので、当てはまる症状が見られた場合には、できる限り早めに受診を検討しましょう。
急性大動脈解離とは、体の中で最も太い大動脈に亀裂が入り、裂けた状態になる病気です。主な症状は、胸、背中、お腹の激しい痛みで、痛む場所が移動していくように感じられることがあります。場合によっては、意識を失うこともあります。
心筋梗塞などと同様に命の危険がある病気ですので、早急に受診することがすすめられます。
胸痛を起こす病気のうち、肺や呼吸に関連しているものには以下のような病気があります。
気胸とは、肺に穴があき、穴から空気が漏れて肺が膨らまなくなってしまう病気です。10代後半から30代のやせ型の男性で、タバコを吸う人に多い傾向にあります。
主な症状は、胸痛、呼吸困難、咳などです。もし当てはまる場合には、早めに受診を検討しましょう。
肺炎とは、肺に炎症が起こっている状態です。肺炎の原因にはさまざまなものがありますが、もっとも代表的なのはウイルスや細菌の感染によるものです。肺炎だけでなく肺の周りの膜に炎症(胸膜炎)を起こすと痛みが強くなります。
主な症状は咳、呼吸困難、発熱、胸痛などです。熱が高い、咳が激しいなど、普通の風邪とは違うと感じた場合には早めに受診することが大切です。
肺炎の原因菌として、もっとも多いものは肺炎球菌という菌です。ワクチンで予防が可能なため、65歳以上の高齢者などでは接種がすすめられています。
肺塞栓症とは、肺に繋がる肺動脈に何らかの異物が詰まって起こる病気です。ほとんどの場合には、下肢の静脈などでできた血栓によって起こります。主な症状は、胸痛、息苦しさなどがあげられます。
これも早期の治療が必要な病気ですので、動いた拍子に息切れが生じて改善しない場合や、下肢が腫れて息苦しさも伴うようになった場合には特に注意が必要です。早急に病院を受診しましょう。
肋間神経痛とは、肋骨と肋骨の間にある肋間神経が刺激されて痛みを感じる、いわゆる神経痛の一種です。骨折や帯状疱疹が原因となることがあります。
主な症状は胸周りの鋭い痛みで、たいていの場合、体の左右どちらかに症状が出ることも特徴です。特に痛みを感じるタイミングは、咳やくしゃみ、深呼吸などで肋骨が動いたときが多いとされています。
胸痛を起こす病気のうち、消化管が原因となって起こる病気には以下のようなものがあります。
逆流性食道炎は、胃液や消化途中の食べ物が食道に逆流することにより、消化液で食道の粘膜が損傷して炎症を起こす病気です。主な症状は、胸やけ、鈍く締め付けられるような胸痛、喉の痛みや違和感、咳、呑酸(すっぱいものがこみあげてくるような感じ)などで、食後や横になった時に症状を感じやすいとされています。
嘔吐など食道に過剰な圧力がかかった場合に食道が裂けることがあります。胸痛のほか背部痛や腹痛を伴うこともあります。
食道破裂は急を要する病気のため、突然起こった激しい痛みで、嘔吐をした後に起こった場合や、胸痛のほかに背中も痛むような場合には速やかに受診しましょう。
胆石症は、胆汁の成分が結晶化し石となる病気の総称です。食生活の欧米化や高齢化などにより増加傾向にあり、とくに女性に多くみられる傾向にあります。
主な症状は痛みで、痛む場所はみぞおち、右上腹部、右肩、背中の右側、胸などです。また、食後(特に脂肪分の多い食事を取った後)に痛くなる傾向にあります。ただし、胆石があれば必ず痛くなるというわけではなく、無症状であることも珍しくありません。
胃潰瘍とは、胃壁の粘膜が傷つくことにより、腹部や胸部の痛み、胸やけ、食欲不振などが生じる病気です。また、悪化し胃から出血したり、胃に穴が空いたり(穿孔)すると、吐血や下血が生じ、冷や汗や胃の激痛が生じることもあります。
また、胃炎とは胃に炎症が起きる病気のことで、腹痛や胸の痛み、吐き気や嘔吐が生じることもあります。
胸痛を起こす病気のうち、肋骨が原因となって起こる病気には以下のようなものがあります。
肋軟骨炎とは、肋軟骨と呼ばれる肋骨と肋骨の間にある軟骨が炎症を起こす病気です。小児や思春期のときに肋軟骨炎になることが多く、特に女性に多くみられるといわれています。多くの場合は原因不明ですが、ウイルスや外傷が原因で肋軟骨炎になることもあるとされています。
肋骨骨折は左右それぞれ12本ずつある肋骨のいずれか、もしくは複数にヒビが入ったり、折れたりしている状態です。肋骨は細く薄い骨のため、少しの衝撃でもヒビが入ったり折れたりしていることがあるため注意が必要です。
皮膚の病気によって、胸が痛むように感じられることがあります。
過去に水ぼうそうにかかったことのある人は、原因となるウイルスが体の中に潜んでおり、抵抗力が落ちたときなどにまたウイルスが活動を始めることがあります。これが帯状疱疹で、水ぼうそうとは症状が異なり、皮膚の一部分にピリピリするような痛み、赤い発疹、水膨れなどがあらわれます。
帯状疱疹ができやすい部位は胸から脇腹にかけてであり、痛みの程度によっては胸そのものが痛むように感じられることもあります。
まず、冷や汗がでるような激しい痛みを感じる場合には迷わず受診しましょう。その場合にはすぐに受診できることを優先し、救急車を含めた対応をとることが必要な場合もあります。
また、そこまで激しい胸痛ではないが、ここのところ続いている・繰り返している、発熱などの症状が伴っているなどの場合にも早めに受診を検討しましょう。原因によって専門科目が異なってきますが、まずは何が原因であるのかの目安をつけるためにも、かかりやすい近くの内科やかかりつけの医療機関などへの受診がよいでしょう。
受診の際には、胸痛が起きるきっかけ、痛みの持続時間、いつからその症状が起きているのか、胸痛以外の症状の有無などをできるだけ詳しく伝えるようにしましょう。