インタビュー

緊急治療室での不必要な処置の避け方-医師との対話で最善の決断を

緊急治療室での不必要な処置の避け方-医師との対話で最善の決断を

筑波大学附属病院 水戸地域医療教育センター  

梶 有貴 先生

徳田 安春 先生

群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 ...

徳田 安春 先生

Choosing Wisely

この記事の最終更新は2016年05月08日です。

緊急治療室(ER : emergency room)での処置中に、医師が決めた治療方針について“No”と言うのは難しいことですが、緊急治療室(以下、ER)の医師とよく話し合うことは、高額な検査を避けることにつながります。そこで米国救急医学会は、ERでよくある処置のうち知っておくべきものとして、以下の3つを挙げています。

・頭部の軽傷に対するCTスキャン

・尿道留置カテーテル

・抗生物質と、瘍の培養検査

CTスキャンはX線により脳を画像化する検査ですが、頭部の損傷が重症でない場合、CTスキャンから得られる有益な情報はありません。まずは、問診と身体診察によって損傷の程度を判断してもらいましょう。これにより、不要なCTスキャンを受けずに済ませることができます。

CTスキャンには放射線が用いられているので、がんを発症する危険性が高まります。子ども、中でも幼児には、より強い悪影響を及ぼします。なぜなら、彼らの脳はまだ発達途中だからです。

また、医師・サービス・施設全てが充実しているERでの治療費はただでさえとても高額です。そこに2000ドル以上(日本円で約24万円以上)かかるCTスキャンが加わると、とても大きな負担になるでしょう。

以下のような危険な症状があるときはCTスキャンを行う必要があります。

・   医師が視認、もしくは触知できる損傷がある場合。

・   意識を失いつつある場合。

・   精神状態や覚醒状態が安定していない場合。

・   進行中の嘔吐や強い頭痛がある場合。

ワルファリン(Coumadin®)のような抗凝固薬を服用している場合は出血しやすくなりますので、軽度の損傷であってもCTスキャンが必要となる可能性があります。

導尿のために膀胱に留置する管のことを「尿道留置カテーテル」といい、別名「フォーリー(内在)カテーテル」とも呼ばれます。カテーテルは便利ですが、ときには有益性よりも害の方が上回ることもあります。

カテーテルを使用することで尿路感染症にかかりやすくなり、尿道や腎臓が傷ついてしまうかもしれません。それも、たった3日使っただけで感染の可能性が高まるのです。また、カテーテル治療には1000ドル以上もの費用がかかる可能性があります。入院が長引いたり、追加で経過観察のケアが必要になると、さらに費用がかかるかもしれません。

・   何度か試みても排尿ができない場合。

・   体の調子が非常に悪く、排尿量を測定する必要があると医師が判断した場合。

・   泌尿器の手術を受ける場合。

・   終末期医療を受けていて、排尿痛がある場合。(ただしその場合でも、男性向けコンドームカテーテルのような、他の方法もあります。)

毎年、大変多くのアメリカ人が膿瘍によりERに運ばれてきます。ここでいう膿瘍とは、皮膚の下に溜まった膿のことです。皮膚を切開し、膿瘍を除去するのが一般的ですが、処置後は患者自身で傷の管理をする必要があります(★ただし、日本ではあまり一般的ではありません)。抗生物質なしに自然に治癒し、細菌培養の必要はありません。細菌培養は、原因菌を特定するだけの検査に過ぎません。

細菌培養それ自体は害にはなりませんが、100ドルかそれ以上の費用がかかる可能性があります。さらに、抗生物質をむやみに服用すると、菌が薬剤への耐性を獲得してしまう可能性があります。つまり、将来本当に抗生物質が必要となったときに、役に立たないことになりかねないのです。また、アレルギー反応や下痢といった副作用もあり、薬剤耐性菌の治療や副作用への処置は高額になります。

ただし、以下のような場合は抗生物質が必要となるかもしれません。

・   免疫力が低下している場合。

・   例えば糖尿病やHIV/AIDSにかかっている場合、あるいは化学療法を受けている場合がこれに当たります。

・   膿瘍を除去しても、すぐには治癒しない、あるいは膿瘍が再発する場合

ERに行く前にERへ行く前に以下のようなことを知っておきましょう。

【ERへ行く必要のあるとき】

自分が危険な状態にあると思えば、迷わずERへ行きましょう。

以下の状態を例として挙げます。

・   突然の胸痛

・   呼吸困難

・   視力喪失

・   激しい頭痛

・   極度の出血

・   骨折のようなひどい外傷

・   手足があまり動かない

・   激しい痛み

【ERに行く必要性が低いとき】

ERで扱う健康問題は、多くの場合危険な状態ではありません。時間に余裕があるときにかかりつけ医にかかるか、救急受診が可能な外来治療施設を利用しましょう。かかりつけ医に電話すれば、どの施設に行くべきか教えてもらえます(★日本ではこのほか、各自治体の救急医療情報システムを利用することもできます)。

●救急車を利用しましょう

緊急の場合には、911(★日本では119)に電話して救急車を呼びましょう。体調が悪いときには自分で運転しないようにしましょう。

●重要な情報を財布に入れておきましょう

・   自分の健康状態と服用している薬のリストを携帯しておきましょう。

・   保険証は常に持ち歩きましょう。

・   個人でアクセス可能な電子カルテを持っている人は、その使い方を知っておきましょう。旅先でERに受診するときに役立つかもしれません。

●ERに行くときには誰かに付き添ってもらいましょう

付き添いがいると、病状を説明するときや、その後の治療を理解するときの助けになります。

 

※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。

翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 京都大学医学部医学科 鈴木智晴

監修:梶有貴、徳田安春先生

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  • 群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長

    徳田 安春 先生

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  • 筑波大学附属病院 水戸地域医療教育センター  

    日本内科学会 認定内科医日本感染症学会 会員

    梶 有貴 先生

    初期診断能力、初期治療能力に加え入院患の急性期・亜急性期の診断・管理も請け負う「病院総合医」の能力をもった、「日本型病院総合医」を目指すべく筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター・水戸協同病院に勤務。若手医師をリーダー的立場から牽引している。Value Based Medicineを推進する立場から、この度Choosing Wisely翻訳プロジェクトに参画。

  • 群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長

    日本内科学会 総合内科専門医日本プライマリ・ケア連合学会 指導医・プライマリ・ケア認定医

    徳田 安春 先生

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