造血器腫瘍とは、血球(白血球・赤血球・血小板など)をつくる骨髄のなかにある、造血幹細胞を由来とするがんです。造血器腫瘍は貧血、血小板減少に伴う出血、白血球減少による感染症を3大症状とし、以前より難治性の病とされてきました。造血器腫瘍の分類・症状について、秋田大学血液内科の高橋直人先生にお話を伺いました。
造血器腫瘍とは、血液細胞が腫瘍(がん)化したものをさします。
血液細胞には大きくわけて、白血球・赤血球・血小板の3つの血球があり、それらはすべて、骨髄のなかにある造血幹細胞からつくられます。この造血幹細胞、あるいはそれが分化(成熟)した段階の組織に由来するがんを総称して、造血器腫瘍といいます。造血器腫瘍は血液のがんであるため、発症した時点で全身にがん細胞が流れ始め、あらゆる症状を引き起こします。
造血器腫瘍の症状は、大きく3つあります。
造血器腫瘍の3大症状は、貧血、白血球減少による抵抗力低下に伴う感染症リスク上昇、血小板減少による出血(鼻血・口内出血・月経などが止まらない)です。それに加えて、全身に流れる血液に由来する腫瘍であることから、最終的にあらゆる臓器不全が引き起こされます。
【造血器腫瘍のおもな症状】
造血器腫瘍は造血幹細胞に由来するがんで、おもに加齢をリスクとして造血幹細胞のDNA(遺伝情報を記録している物質)に傷がつき、それが累積することで、細胞ががん化します。造血器腫瘍をはじめとする悪性腫瘍は、遺伝子異常がかかわる疾患であるため、後天的な遺伝子疾患といえます。親からの遺伝で先天的に起こるものではありません。
なお、「がん家系」という言葉がありますが、がん細胞そのものは遺伝しません。しかしながら、がんを抑制する遺伝子の働きが生まれつき弱い家系があることが知られています。また、私たちの体内には、発生したがんを異物として排除する腫瘍免疫という機能が備わっていますが、この腫瘍免疫のやや劣る家系が存在する可能性があります。それらの家系の方々は遺伝的に、がんの増殖に対する抑制力が低く、がんが育ちやすい環境と考えられています。
造血器腫瘍は、白血病・悪性リンパ腫・骨髄腫の3つに大きくわけられます。すべて造血器(血球をつくる骨髄)を由来とし、治療の難しい疾患です。
白血病は、造血器腫瘍の増殖が骨髄から全身に広がり、先述した3大症状を引き起こします。白血病には、由来するリンパ節・リンパ球によって非常に細かい分類が存在しますが、ここではおもに急性・慢性の違いをご説明します。
白血病の急性・慢性の違いには2つの捉え方があります。
1つ目は、がんの進行速度です。無治療と仮定したとき、急性白血病は数週間〜数か月、慢性白血病は年単位で、病状の悪化に伴い死亡に至ります。急性白血病ではおもに、発熱や出血といった症状が起こります。一方、慢性骨髄性白血病は、慢性の状態が5〜6年間持続したのち、急性転化(急激な症状の悪化)するといわれています。
2つ目は、造血幹細胞の本来持つ分化・成熟機能を止めているか否かです。急性の場合には分化能(細胞が異なる細胞腫へ分化する能力)が失われ、未熟な細胞が増殖します。一方、慢性の場合には分化能が保たれており、成熟した細胞の増殖がみとめられるという違いがあります。
【白血病の分類】
悪性リンパ腫とは、造血器腫瘍がリンパ節、あるいはリンパ節組織のある臓器(胃・脾臓・扁桃腺・消化管など)で増殖し、リンパ節を中心としたリンパ組織が腫れる疾患です。悪性リンパ腫は、進行速度によって低悪性度(年単位)・中悪性度(月単位)・高悪性度(週単位)にわけられます。たとえば下記の分類で、1〜3は低悪性度、5は中悪性度、6・9は高悪性度のリンパ腫です。
【悪性リンパ腫の分類】
多発性骨髄腫とは、造血器腫瘍が骨髄・骨で増殖し、全身に症状をきたす疾患です。骨髄では、血液細胞の一種である形質細胞から免疫グロブリン(外部のウイルス・細菌から体を守る抗体)が生成されます。この形質細胞が腫瘍化すると骨髄腫となり、役に立たない免疫グロブリンが余分に生産され、全身の臓器障害を引き起こします。
造血器腫瘍でみとめられる貧血・感染症・出血という3大症状に加えて、多発性骨髄腫では、CRAB症状と呼ばれる症状がもっとも多く起こります。CRAB症状とは、C:カルシウム(calcium)値の上昇によるカルシウム血症、R:腎臓(renal)の障害、A:貧血(anemia)、B:骨(bone)の病変をあらわします。
多発性骨髄腫は、CRAB症状があるものを症候性、ないものを無症候性として分類できます。
記事2『造血器腫瘍の検査・治療—分子標的薬と治療薬物モニタリング』では、造血器腫瘍の検査・治療についてご説明します。
秋田大学 血液腎臓膠原病内科 教授
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