インタビュー

あらゆる年代で起こる“お口のトラブル” その原因と対策とは?

あらゆる年代で起こる“お口のトラブル” その原因と対策とは?
田中 真喜 先生

医療法人誠敬会 誠敬会クリニック 理事長

田中 真喜 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

子どもの頃に乳歯が永久歯に生え変わり、その後一生を共にする大切な歯。歯を含めた口腔機能は、ものを食べる・話すという日常生活に必要な動作に欠かせません。そのような大切な口腔機能ですが、ものが挟まる、歯の着色、口臭など、お口にはさまざまなトラブルが生じる可能性があります。あらゆる年代に起こるお口のトラブルの原因と対策について、誠敬会クリニック 理事長の田中(たなか) 真喜(まき)先生にご解説いただきました。

日本歯科医師会の調査(2016年)によると、ものが挟まる、歯の着色、口臭、歯が痛む・しみる、歯石の蓄積など、お口のお悩みにはさまざまな種類があることが伺えます。このようなお口のお悩み・トラブルをそのままにしておくと、時間の経過とともに悪化し、さらにはむし歯歯周病などの場合は歯を元の状態に戻せなくなってしまう可能性があるため、注意が必要です。

お口のお悩み・トラブルにはさまざまな種類がありますが、大本の原因としては大きく2つあると考えています。1つは歯周病むし歯などの“病気”によるもの、もう1つは歯ぎしり、噛み締め癖などによるものです。お口のトラブルを解決するためには、このような大本の原因を見極めて適切に治療を行うことが大切です。

歯ぎしりや噛み締め癖は年齢にかかわらず起こり得ます。近年、これらによるお口のトラブルが増加している印象を受けます。歯ぎしりは就寝中に起こるというイメージがあるかもしれませんが、実は日中でも無意識のうちに歯を噛み締めていることがあるのです。ストレスや疲れがたまっているときには眠りが浅くなり、噛み締めや歯ぎしりが助長される可能性があります。

写真:Pixta

いくつかの解決法がありますが、まずは歯ぎしりや噛み締めを自覚することが大事です。無意識の瞬間、たとえばスマートフォンを見ているときなどに歯と歯が接触しているかをご自身で確認しましょう。就寝中に起こる歯ぎしりの解決法としては、マウスピース(スプリント)を装着する方法があります。当院では、上の歯に装着するマウスピースを作成し、噛み合わせの部分を平らにします。これにより歯と歯の強い接触を回避し、歯ぎしり・噛み締め癖による顎関節症を防ぐよう試みます。

歯周病になると歯茎が下がったり痩せたりすることで歯と歯の間に隙間ができて、ものが挟まりやすくなります。一般的に歯周病は40歳前後で徐々に症状が現れるといわれますが、実はそれより前であっても歯周病の予備軍になっている可能性があります。さらに、歯周病が進行して歯を支える骨が弱くなると歯ぎしり・噛み締め癖で歯が動きやすく、その結果、歯にものが挟まることがあります。

歯周病が原因で歯の間にものが挟まってしまう場合には、まずその治療を行うことが大事です。さらに、歯間ブラシやデンタルフロスを使って歯間の汚れを取り除く習慣を身につけて適切なセルフケアを行うとよいでしょう。

口の中のプラークを放置すると、歯石になります。歯石は、歯茎の上だけでなく中にもたまることがあります。特に下の前歯の裏側は磨きにくく、舌下腺(唾液をつくる組織の1つ)の近くにあるため歯石がたまりやすい場所です。

歯石は歯周病の原因になるため、適切に除去することが重要です。どんなに丁寧に歯磨きをしても100%汚れを落とすのは難しいですし、人によって磨きやすい場所と苦手な場所があるものです。そのため、セルフケアに加えて歯科医院での定期的なクリーニングを行い、自分では落とせない汚れをきれいにするとよいでしょう。また、自分の磨き方の癖を知り、普段の歯磨きに生かすことも大切です。

口臭の原因にはいくつかの種類があります。1つ目は虫歯や歯周病、磨き残しによるもの、2つ目は唾液の分泌が減少して起こるもの、3つ目は消化器系の病気によって起こるものです。また、食べ物のにおいが原因になることもあります。唾液の分泌が減少する要因としては、ストレスによる交感神経優位の状態や薬の副作用などです。なお、唾液の分泌量は加齢によって自然と減少することが分かっています。

このように口臭にはいくつかの原因がありますので、病気であればその治療を行うこと、唾液の分泌が減っている場合には唾液を増やすことが大切です。

ここで、唾液を増やす方法の1つ、唾液腺マッサージをご紹介します。唾液線とは唾液をつくる組織のことで、耳下腺、顎下腺、舌下腺からなります。唾液腺マッサージは、唾液腺を物理的に刺激し、唾液の分泌を促します。まず耳下腺は上の奥歯・耳の前あたりをぐるぐると円を描くように刺激します。次に顎下腺は親指を顎の骨の内側にあて、耳の下から顎の下まで5か所ほどを順番に押していきます。最後、舌下腺は両手の親指をそろえて顎の下から軽く押します。唾液腺マッサージを行うタイミングは“気づいたとき”でよいですが、食事前などに2〜3分行っていただくとよいでしょう。また、電動歯ブラシなどを使うことでも頰の内側が自然と刺激され、唾液の分泌を促す効果が期待できます。特に睡眠中は唾液の分泌が減り細菌が繁殖しやすいので、就寝前のブラッシングをしっかり行うことが大切です。

歯が痛む・しみる原因としては、むし歯や歯周病が考えられます。歯の内部にある象牙質(ぞうげしつ)や歯髄の神経などが物理的に刺激され、痛みが生じます。

素材提供:Pixta

また、噛み締めや歯ぎしりが知覚過敏につながることがあります。歯を食いしばっているときというのは、いわば正座しているような状態です。長時間の正座をやめた直後に足がしびれるように、歯を食いしばっているときには自覚症状がなくても、冷たいものや甘いものを食べたとき、歯ブラシをあてたときなどに知覚過敏が起こるのです。

歯が痛む・しみるときには放置せずに歯科医院を受診しましょう。歯の表面が黒くなっていることだけがむし歯ではありません。目に見えなくても痛みなどの異常が出ている場合には早めに治療することが重要です。

歯茎からの出血は、主に歯肉炎(初期の歯周病)や歯周病によって起こります。食後や歯磨き中に歯茎からの出血が見られた場合には注意が必要です。まれではありますが、血が止まりにくい病気などの可能性もありますので、特に子どもの場合には注意しましょう。また、智歯周囲炎(ちししゅういえん)といって、智歯(いわゆる親知らず)の周りが炎症し、腫れや出血が起こることがあります。

歯茎の腫れや出血は、病気のサインかもしれません。決して放置せずに歯科医院を受診しましょう。歯茎の腫れをおさえる薬を処方された場合、見た目で腫れが引いたとしても、原因となる歯石などが残っていれば根本的な解決にはなりません。自己判断で治療をやめないようにお願いします。長年の汚れが付着している場合には、歯ブラシ1本でリセットするのは難しいでしょう。そのため歯科医院で専門的なクリーニングを行い、その後セルフケアできれいな状態を維持するのがよいと思います。

写真:Pixta
写真:Pixta

顎の関節の音がする、口が開かない、顎が痛いなどの症状が見られる場合、顎関節症が疑われます。顎には筋肉、関節、神経が集中しており、下の顎を支えていますが、何らかの原因で痛みや動きにくさが生じることがあります。これが顎関節症です。顎関節症の原因は、噛み合わせの異常、ストレス、歯ぎしりなど多岐にわたります。

口が開けづらい、口を開ける際に顎がカクカクと鳴る場合には、顎関節症の可能性があります。無理に口を開けたり、ストレッチをしたりすると顎関節症が悪化する可能性がありますので、症状がある場合には放置せずに歯科医院を受診してください。

コーヒーや赤ワイン、カレー、色の濃い中国茶などは歯の着色の原因になる可能性があります。日頃からそのような飲食物をよく口にされる場合には気をつけるとよいでしょう。また、研磨剤の入っていない歯磨き粉を使っている、あるいは歯磨き粉を使わないといった場合にも着色汚れが落ちにくい可能性があります。

写真:Pixta
写真:Pixta

いわゆるプラーク(歯垢)は歯間や歯と歯茎の境目にたまりやすいのですが、着色汚れは歯の表面、特に歯の裏側に残りやすいです。なぜなら、歯の裏側は頰や舌などが常に接触していないので汚れが自然に落ちにくく、見えにくいので全体をくまなく磨くことが難しいからです。

歯の着色が気になる場合には、ホワイトニング効果のある歯磨き粉を使う、定期的なクリーニングに通っていただくことをおすすめします。国内で市販されている歯磨き粉は医薬部外品のため強い研磨剤が含まれているものはないと思われますが、海外の歯磨き粉には強い研磨剤や薬効成分が含まれている可能性がありますので、インターネットなどで購入する際にはお気を付けください。研磨力が強すぎると歯や歯茎が傷つき、歯の着色が起こりやすくなります。ホームホワイトニングなどを行う際には、一度歯科医院にご相談いただき、今の歯・歯茎の状態でその歯磨き粉を使っても大丈夫か聞いてみるのがよいと思います。

歯並びが変化する要因としては、骨格的なものと、抜歯した歯や詰め物、被せ物が外れた歯を放置したり、歯周病で歯を支える骨が溶けてしまったりする後天的な原因によるものがあります。歯並びの悩み=子どもが治療するものというイメージをお持ちの方もいらっしゃいますが、実は大人になってからも歯並びが変化する可能性があるのです。

長く健康な歯・口を保つためにはよい歯並びも重要です。実際、8020(ハチマルニイマル:80歳になっても自分の歯を20本以上保つ)の達成者は、噛み合わせが良好であるといわれています。歯並びをセルフケアで治すことは難しいので、気になることがある場合には歯科医に相談しましょう。

先生

妊娠中は、女性ホルモンの増加による口腔環境の変化、つわりによって歯磨きが困難になるなどの要因で、むし歯や歯周病になりやすいことが知られています。

歯周病は早産や低体重児出産のリスクを倍増させます。対策としては、妊娠前に早産・低体重時出産の原因となる菌を除菌するという方法があります。つわりで歯磨きが難しい方の場合には、体調を見ながらですが、メンテナンスの間隔を短くすることで口腔トラブルを未然に防ぐよう努めます。

まずお伝えしたいのは、“歯磨きは質とタイミングが大切”ということ。歯磨きを1日3回1分ずつ何となく行うよりは、1日1回寝る前に質の高い歯磨きを3分間行うほうがよいと考えています。質の高い歯磨きというのは、歯磨きに加えて歯間ブラシとフロスと使い、歯と歯の間や歯の根元までまんべんなく掃除することで実現します。そうすると最低3分は必要でしょう。睡眠中は唾液の分泌が減って口腔トラブルのリスクが上がりますので、タイミングとしては就寝前が望ましいです。

自分で細部まで磨くのが苦手な方などには、電動歯ブラシもおすすめです。電動歯ブラシなら、パソコンやスマートフォンを見ながら・入浴しながらでもよいですし、自分の手では難しい場所をきれいにしてくれます。毎日の口腔ケアを単純化してくれるツールとして有用だと思います。

お口のトラブルというのはとかく見過ごされがちです。たとえば歯茎から血が出ているのにすぐに歯科医院に行かない方もいるでしょう。しかし、体のどこかが年中出血していたら尋常なことではありませんよね。ですから口内の出血なども軽視せずに、専門家にご相談ください。ご自身では気づいていない口腔ケアのポイントや病気のサインを発見する機会を得られる可能性があります。歯科医院は歯が痛くなってから行く場所ではなく、痛くならないように通う場所と捉えていただきたいのです。ご自身やご家族の健康を守るために、ぜひ歯科医院を活用していただければと思います。

    関連記事

  • もっと見る

    関連の医療相談が10件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「歯周病」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    実績のある医師をチェック

    歯周病

    Icon unfold more